2017年11月20日
日常の歯周治療においては、各種診査の結果をもとに医療面接を行い、
患者さんの希望に則した治療計画を立案していきます。
実際の歯周治療の基本的な流れは、
1)歯周基本治療
2)歯周基本治療後の再評価検査
3)歯周外科治療
4)歯周外科治療後の再評価検査
5)口腔機能回復治療(歯冠補綴や義歯の作製)
6)サポーティブペリオドンタルセラピー(Supportive Periodontal Therapy :SPT)移行前の再評価検査
7)サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)
8)メインテナンス
となります。
これらのなかでも、最初のステップである歯周基本治療は極めて重要な位置付けであり、具体的には、プラークコントロール、
スケーリング・ルートプレーニング、プラークリテンションファクターの除去や咬合調整、暫間固定などが代表的なものです。
歯周基本治療は別名、原因除去療法とも呼ばれるようにすべての歯周病患者さんに対して必ず行うもので、
どのような重度の歯周病患者さんでも必要なステップであり、
どんなに高度な歯周専門治療でも、歯周基本治療の結果をもとに計画が立案されるものなのです。
つまり、「病気の原因とリスクファクターを除去する」という、
医学における「治療学の基本」こそが、歯周基本治療ということになります。
具体的な内容は多岐にわたり、個々の治療内容を挙げるよりも、
むしろ歯周基本治療に分類されないものを示したほうがわかりやすいといえます。
歯周基本治療に含まれないものは、
歯周外科治療、インプラント治療、口腔機能回復治療、SPTやメインテナンスです。
つまり、これ以外はすべてが歯周基本治療なのです。
歯周基本治療の目的が「病因因子とリスクファクターの除去」となりますので、
平易な表現では「炎症と力のコントロール」ということになります。
炎症のコントロールとしては、
抗菌療法、予後不良歯の抜歯、歯周ポケットと交通している感染根管処置、清掃を困難にする形態不良な補綴装置を除去し
テンポラリークラウンの装着が挙げられます。
力のコントロールとしては、
咬合調整、暫間固定、ナイトガードの装着、テンポラリーブリッジやテンポラリーデンチャーの装着、矯正治療などすべてが歯周基本治療に分類されるのです。
そのなかでも、とくに歯周炎の主な原因は歯肉縁上・縁下の細菌性プラークであることから、
これらを除去することは歯周病治療の初動的対応であり、
歯周病の治療と予防の根幹部分であることから目立ちますが、それだけではないということです。
歯周炎を病状の程度によって分類しますと、軽度、中度、重度の3つになります。
軽度歯周炎は、歯周基本治療のみの対応でSPTやメインテナンスに移行できることがほとんどです。
中度歯周炎では、歯周組織再生療法や歯周形成外科手術などの専門治療が必要なことが多いですが、
この場合にも歯周基本治療の成績が外科処置の結果に大きく影響します。
また、重度歯周炎は抜歯と判定されますが、
歯周基本治療で炎症を改善することは抜歯後の治癒に影響し、
場合によっては保存可能となる中度判定へと移行することもありえます。
もちろん、SPTやメインテナンスで行うすべての処置は、
歯周基本治療で培ったプラークコントロールやスケーリング・ルートプレーニングなどのさまざまな手技が使えます。
これまで述べてきたように、すべての歯周病治療では歯周基本治療がマストであります。
そのなかでも、プラークコントロールやスケーリング・ルートプレーニングは歯科衛生士さんの業務です。
つまり、歯科衛生士さんのおられる歯科医院では、
専門治療が必要な中度歯周炎以外のすべての歯周治療が対応可能といえます。
もちろんのこと、たとえ中度歯周炎であったとしても、
歯周基本治療で炎症症状を改善することで病状を安定させた後にSPTへ移行することも不可能ではありません。
また、一般の開業歯科医院では対応が難しいとされる侵襲性歯周炎(以前は若年性歯周炎と表現)や中度歯周炎においても、
まずは歯周基本治療にて初期対応していただき、その後は私たちのような専門医にご紹介いただければ、
患者さんは皆さんの医院を信頼され、とても感謝されることでしょう。
日本における認可された歯科の専門医は歯周病、小児歯科、歯科麻酔、歯科放射線、口腔外科の5つしかありません。
そのなかでも、多くの国民が罹患しているとされている歯周病の治療において、
私たちのような専門医を有効活用していただけたら幸いです。
また、歯周基本治療の広い範囲をカバーしていただいている歯科衛生士さんだからこそ、
1人でも多くの専門教育を受けた歯科衛生士さん(日本歯周病学会認定歯科衛生士)が育たれることを切に願っています。
参考文献
特定非営利活動法人 日本歯周病学会(編).歯周治療の指針,2015.
牧草歯科医院院長
牧草 一人
⇒ http://www.makigusadental.jp/