2016年04月04日
みなさまこんにちは。
東京都杉並区にて歯内療法を専門に診療しております田中利典です。
このメルマガでは、「チェアサイドトークで活かす歯内療法の話」をテーマに、エンドって面白いな、自分もエンドに力をいれたい!
と思っていただけるような内容を、これから6回にわたってお伝えしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
第1回のテーマは「ラバーダム」です。
大学ではラバーダムの使用について学ぶものの、
「その後の勤務先や外勤先はラバーダムがなくて……」
「自分で開業したらそれどころじゃない」
「長らく使っていないから、使い方をもう忘れた」
という声を聞きます。
実際に日本の論文で、
根管治療時にラバーダムを必ず使用すると回答した一般歯科医師は5.4%、
日本歯内療法学会会員でも25.4%という報告があり、
残念ですが日本におけるラバーダム使用率はそう高くありません。
日本の歯科医療にはびこる「本音と建前」のような一面ですが、
ここでは少し切り口を変えて、ラバーダム使用に向けて先生方の背中を押すことができればと思います。
その昔、近江商人が大切にしていた、
売り手よし・買い手よし・世間よしという「三方よし」の精神。
その一番の目的は、「信用を得る」です。
これは商売の話だけでなく、患者と信頼関係を築きながら治療に当たる私たちにとっても非常に参考になる心構え。
この三方を、ラバーダム使用で考えてみましょう。
1.術者よし(売り手よし)
教科書的にラバーダムの利点を3つに絞ると、
1)細菌感染を防ぎ 2)患者を保護しながら 3)治療効率を上げる
となります。
にもかかわらず、日本の臨床ではラバーダム使用が敬遠されているわけですが、その理由を海外の論文を参考にすると、6つ挙げることができます。
(1)患者側が受け入れてくれるか心配
(2)装着のための時間
(3)材料費
(4)練習不足
(5)使用の難しさ
(6)低い治療費
じつは諸外国に目を向けると、日本と同じように「本音と建前」のようなラバーダム使用率が浮き彫りになっています。
イギリス30.3%、スウェーデン67%、アメリカ58%、などなど……。
(根管治療でラバーダムを「必ず使用している」と回答した一般歯科医師の割合)
しかし日本の5.4%では、さすがに彼らと同じ目線でエンドを語る資格はありません。
一方、海外の先生と交流ある先生は身をもって感じてらっしゃると思いますが、
正直、アジア人の先生のほうが、繊細でていねいな治療をします。
ところが最初のラバーダム装着がないと、せっかくの先生の努力が水の泡(唾液の泡?)になって、
治るものも治らないとしたら、こんなにもったいないことはありません。
保険点数はどうすることもできませんが、自信をもって根管治療ができれば、
その後安心して自費の補綴物のお話ができるのではないでしょうか。
「患者さんが受け入れてくれるか心配」については、本来医療としてあるべき姿がラバーダム使用なので、
「患者さんが嫌がるから」というエクスキューズはNGです。
また、「ラバーダムしなくても治る」という個人の経験談でのエクスキューズも危険です。
本当に効果がないなら自然淘汰されて過去の術式となっているはずですし、学部教育から消えていることでしょう。
そうでないわけですから、個人のオピニオンでラバーダム不使用を主張することは、エビデンスの低い治療をしています、
と自ら表明していることになります。
その他、術者が手際良くラバーダムできるようになれば、根管治療時に患者さんが途中で口をゆすぐなどなくなるため、
むしろ治療効率が上がります。
2.患者よし(買い手よし)
これはもう、言うまでもありません。
ラバーダムを装着することで根管治療の成績が上がると報告されていますので、それでも使わないでほしいという患者さんはいないでしょう。
最近の患者さんはインターネットで情報検索していますので、
「健康になりたい」、「ちゃんとした治療を受けたい」
と希望する人が増えてきているように思います。
それでもラバーダム装着に「痛い」「苦しい」と訴えがあるようであれば、
歯肉に麻酔をする、ラバーダムシートに呼吸がラクになるよう横穴を開ける、
などで対応し、なぜラバーダムが必要なのか、どんな状態で治療をするのかを、
事前に患者さんによくお話ししましょう。
たとえば、インフルエンザ検査で鼻に綿棒を入れる処置があります。
この検査はつらくて痛みをともなうものです。
しかしそれで正確かつ迅速に結果が出て、診断と次の治療につながるので、現在広く利用されています。
ラバーダムも、患者さんに不快感を強いる処置ですが、それによって安心・安全に治療が進められることをお伝えすべきと思います。
3.歯科界よし(世間よし)
以前から行われている8020運動。
最近は認知症や全身疾患のリスクに関連して、口腔の健康にますます注目が集まっています。
国民目線で言えば、治療で歯が残せるというのは大変意義深いもの。
根管治療の成功に影響するラバーダム使用率が向上してくれば、再根管治療で悩む患者さんが減り、抜歯につながる症例を減らせるかもしれません。
その延長で、歯科医師が担う社会的意義や価値が高まり、歯科界にとって明るいニュースにつながるでしょう。
個人的には、学会や歯科医師会、行政などが、治療のあり方とラバーダムの必要性を知ってもらうよう、国民側に啓発活動することを期待しています。
たとえば、2008年より後部座席でのシートベルト着用は義務化され、とくに高速道路での違反は加点対象になりました。
高速道路のサービスエリアに行けば、その啓発活動のポスターをよく見かけると思います。
歯科界も同様にラバーダム使用の意義を情報発信していただき、結果的に歯科医師が担う社会的意義や価値を高めてもらいたいものです。
さて、ラバーダムどころか、大風呂敷を広げるような話になってしまいました。
しかし、単に「使いましょう」では何も変化は生まれません。
他国の一般歯科医師との比較、日本における健康志向の高まり、学会・歯科医師会・行政等による歯科医師の社会的価値向上の一手。
これらを見渡して、「三方よし」の精神で、ラバーダムの使用率向上を先生方にもぜひ担っていただきたいと思います。
<参考文献>
Ahmad IA. Rubber dam usage for endodontic treatment:
a review. Int Endod J 2009; 42: 963-972.
東京都杉並区・川勝歯科医院
田中 利典
⇒ http://www.kawakatsu-dental.com/cn22/index.html