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【5】未来の根管治療

2016年06月06日

みなさまこんにちは。

東京都杉並区にて歯内療法を専門に診療しております田中利典です。

このメルマガでは、「チェアサイドトークで活かす歯内療法」として、エンドって面白いな、自分もエンドに力をいれたい!
と思っていただけるような内容をお届けしています。

第5回は「未来の根管治療 」です。

先日、NHKを見ていたら、「どこまでいく!?再生医療」というテーマで、実現可能な再生医療の予測年表が取り上げられていました。

  ここ数年のうちに:皮膚、心筋シート、角膜、パーキンソン病、がん免疫細胞、すい臓

  5年以上先:脊髄、唾液腺、るい腺、歯、腎臓

それぞれの実現が今後早まるか遅まるか、本当に可能かどうかは、不確かです。

しかし実際に困っている患者さんや難治性疾患に苦しむ患者さんにとっては、夢と期待の膨らむニュースでしょう。

「歯」は少し先の実現予定となっていましたが、近年、歯学系でも再生医療に関する論文は多数報告されています。

歯でいうと、「歯の再生」が大きな目標になりますが、私たちの歯は歯胚形成から萌出・歯根完成まで、通常は年単位の時間を要します。

実現時期を考えると、「歯そのもの」よりも「失活した歯の歯髄再生」や「歯周病で失われた歯根膜・歯槽骨の再生」が今後も先行していくでしょう。

歯髄が再生されれば、歯を生活歯として保つことができるため、二次う蝕の深刻化や歯根破折を防止できると期待されています。

結果的に歯の延命、QOLの向上から、健康長寿という点で国民の生活に大きく貢献できるでしょう。

歯髄再生の研究は今も現在進行形で盛んに行われていますが、
現時点で報告されている内容を参考に、患者さんにお話できることをまとめてみたいと思います。
 

 
1)歯髄再生、抜髄症例で実現

これは、世界中でも日本が抜きん出ている研究です。

イヌを用いた実験で、抜髄した根管内に歯髄幹細胞、成長因子(細胞増殖因子、遊走因子など)、細胞の足場(scaffold)を移植したところ、
歯髄が再生されました。

現在、不可逆性歯髄炎になった患者さんに実施する、ヒトでの臨床研究へとステージが移っています。

ポイントは「不可逆性歯髄炎」であること。

感染した根管で、根管内外にバイオフィルムが形成され除去できないような難治性症例はまだです。

歯科の治療はなんでもそうですが、症例選択という入り口の部分が極めて重要になりそうです。
 
 

2)同一個体の不用歯から取り出した歯髄幹細胞が必要

現時点では、智歯など別の歯から歯髄幹細胞を取り出して移植する方法が用いられています。

つまり、抜歯しても構わない、ドナーの歯が必要です。

そんな歯はない、どの歯も抜けない、となると、移植する細胞が用意できません。

実用化のためには、同種(他人)や他種(他の動物)の歯髄幹細胞が利用できるか、別の幹細胞で応用できないか、
安全性の確認や実績の積み重ねが必要です。

イヌでの同種移植の報告はありますが、これから益々の研究報告が待たれます。
 
 

3)感染根管歯の歯髄再生へのハードル

感染根管歯で同じく歯髄再生が可能でしょうか。

これはかなりチャレンジングなハードルになりそうです。

ご承知のとおり、根管系は非常に複雑な形態をしており、治療で100%無菌化できているかは誰にもわかりません。

実臨床の根管充填では、わずかに残存しているかもしれない細菌感染を、緊密な根管充填で埋入させてかろうじて悪さをしないようにしている、
ともいえるでしょう。

では、歯髄再生医療ではどうでしょうか。

おそらく、細菌が残っている根管内に歯髄幹細胞を移植しても、うまくいかないでしょう。

今後は根管洗浄や根管貼薬、抗菌剤などによる、より確実な根管内の無菌化の術式が求められそうです。

さて、歯髄再生医療において、現時点での研究報告からこれからの展望についてまとめてみました。

失われた組織や機能が回復する再生医療は、とても夢のある話です。

抜髄、再根管治療の症例で歯髄が再生できるなら、「そんな治療を受けたい!」という患者さんはたくさんいらっしゃるでしょう。

研究者の先生方にはこれからますます期待がかかるわけですが、臨床現場でもがんばるべきことがあります。

というのも、根管治療の始まりは、主にう蝕が原因。

本来であれば、う蝕は歯周病と同じく適切なホームケアとプロフェッショナルケアがあれば十分予防できる疾患です。

疾患の根底に対処せずに新規歯科医療に頼るスタイルは、残念ながら私たちは何度も繰り返してきました。

たとえば、歯周炎が原因で抜歯した部位にインプラント治療を行っても、プラークコントロールもままならぬまま喫煙や糖尿病などもあれば、
今度はインプラント周囲炎に。

う蝕リスクの高い人に、どんなに審美的な修復処置を施しても二次う蝕になればさらなる介入が必要になるでしょう。

本当は、治療を受ける側も治療する側も、本来備わっている健康を損なわない努力と、
そのサポートにエネルギーを注ぐことがいちばん求められるべきです。

そのうえで、高度な先進歯科医療が実現すれば、口腔健康の価値、歯科医療の価値がよりいっそう高まるのではないでしょうか。

今までの「歯の修理屋」とは違う目線で歯科医療を捉えておけば、これからの再生医療が本当に楽しみになるかと思います。
 
 

参考文献:
Iohara K et al. A novel combinatorial therapy with pulp stem cells and
granulocyte colony-stimulating factor for total pulp regeneration.
Stem Cells Transl Med 2013;2: 521-533
 
 

東京都杉並区・川勝歯科医院
田中 利典
⇒ http://www.kawakatsu-dental.com/cn22/index.html