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【3】「エンドと全身疾患」の切り口はあるのか?

2016年05月02日

みなさまこんにちは。

東京都杉並区にて歯内療法を専門に診療しております田中利典です。

このメルマガでは、「チェアサイドトークで活かす歯内療法の話」として、エンドって面白いな、自分もエンドに力をいれたい!
と思っていただけるような内容をお届けしています。

第3回は「エンドと全身疾患」です。

「歯科と全身疾患」と聞くと、ペリオが真っ先に思い浮かぶと思います。

国民的認知度においても、今や不動の地位を確立した歯周病。

昨今の日本医師会のアプローチや、今後の在宅ケアでの医療スタイルや診療報酬改定の面からも、
口腔ケア、生活習慣病としての歯周病対策は、むし歯予防と同じ目線で語られるようになってきました。

また、補綴と全身疾患も、胃ろうによるQOLの低下、噛むことによる脳への刺激、認知症予防の可能性が、メディアでたびたび取り上げられています。

さて、それではエンドの場合はどうでしょうか。

先日、初診の紹介患者さんにコンサルテーションをしていた際に、こんなやりとりがありました。

右下7番の根管充填歯にX線写真で根尖に透過像があります。

古い補綴物が脱離し、支台歯の一部にう蝕が認められたため、根管治療からやり直しましょう、ということでご紹介いただきました。

問診から「疲れた時にときどき疼く感じがする」とのことでしたので、根尖部透過像は瘢痕治癒でなく、細菌の存在による慢性炎症が疑われます。

一連の診査をし、諸々の話をして再根管治療をご提案しました。

私の患者さんへの説明がまだまだうまくないからと思いますが、

 「結局、この歯は神経がまだあるんですか?」
 「そんなに痛くないから治療せずにそのまま、というのはダメなんですか?」
 「これを食べれば治るとか、自分自身でできることって何かないですか?」

と畳みかけるように質問を受けました。

やはり患者さんには「それほど困っていないのに、なぜ治療が必要なのか」
「すでに治療してあるのに、なぜまだ問題があるのか」という思いが大きいのでしょう。

私たちにしてみると、う蝕や歯周病のように「患者さんの不摂生が原因」で根尖病変(二次う蝕で再感染は別ですが)が治らない、
わけではありませんので、再治療の必要性をお話しする際は注意が必要です。

以上のように、エンドは、う蝕、歯周病、噛み合わせと比べて国民的認知度ではかなり後塵を拝しているように感じています。

こんな論文があります。

岡山大学病院歯科の初診患者さんの口腔内X線写真(フルマウス)を観察しました。

すると、根管充填歯において根尖部透過像が認められた歯は40%と諸外国とそれほど変わらなかったものの、
透過像の有無にかかわらず根管充填歯をもつ患者さんは全体の87%と、ほとんどの患者さんは根管治療の経験がありました。

そして全体の69.8%の患者さんは、根尖部透過像のある根管充填歯を抱えている、という結果でした。

歯牙単位でみると諸外国と比べてそれほど治療成績は悪くないが、人単位でみると問題を抱えている人が多い、という結果です。

となると、何かの全身疾患の隠れ因子に意外となっているかもしれません。

さて、ここで、エンドを考える際に、病態を見てみましょう。

 
 ペリオ:歯周炎=Periodontitis

 エンド:根尖性歯周炎=Apical Periodontitis

 
このように、ペリオとエンドはPeriodontitisという言葉でみると同じ病態です。

どちらも、細菌・バイオフィルムの存在と生体の免疫応答で骨吸収が起こっています。

それが辺縁歯肉に起こっているのか、根尖周囲に起こっているのか。

いずれにせよ、Peri(周囲の)なOdontitis(歯の病気)なわけです。

そう考えると、「エンドも意外と全身疾患と関連があるんじゃなかろうか」と思えてきませんか?

では、エンドと全身疾患についての考察ですが、まず、心疾患に関して米国心臓病学会が定めているものがあります。

それは、心臓の人工弁(高リスク)や、先天的な心臓の奇形(中リスク)などを有する心臓病患者さんに対しては、
根管治療による菌血症および感染性心内膜炎が心配されるため、抗生物質の術前予防投与が望ましい、とするものです。

菌血症とは、血液に細菌が存在している状態のことで、歯科治療にともない細菌が血液循環に侵入し、血流により全身に拡散してしまうこと。

通常は生体の免疫系によって除去されるのですが、易感染性宿主においてはそれらの菌が人工弁などに付着し、バイオフィルムを形成して慢性化。

全身の重篤な疾患の引き金になる可能性があります。

しかし、歯周病も含めて、歯原性の菌血症や、より重度の敗血症のメカニズムはどこまでわかっているのか、明確にはなっていません。

次に、慢性根尖性歯周炎という立場でみてみましょう。

慢性的な根尖病変の存在は、免疫反応が長期に持続している状態を表しています。

根尖孔外に出ていく細菌やその副産物などが抗原となり、抗体反応による免疫複合物ができ、III型アレルギーが持続的に生じているわけです。

また、根尖病変部ではIV型アレルギー反応による炎症が起こっています。

これにより、全身的な炎症を惹起する可能性が考えられます。

たとえばIII型アレルギー疾患として、糸球体腎炎や関節炎があります。

根尖病変があると、血中のC反応性タンパク(CRP)の増悪に影響しているかもしれません。

また、IV型アレルギー疾患として、金属アレルギーがあります。

補綴物除去だけでなく、根管治療による感染・炎症の除去も、全身の炎症反応を減らす効果がありそうです。

しかし、これらはあくまで基礎医学的な知見の統合や、症例報告による考察であり、まだまだ研究が求められる領域です。

「あり得る話だが、どこまで影響を及ぼしているかは、正直わからない」という言葉に集約されてしまいますので、
エンドと全身疾患だけでエンドのプレゼンスを押し上げるには力不足かもしれません。

では、エンドの国民的認知度向上について、どんな切り口があるでしょうか。

たとえば、日本における「国民の8割は歯周病」という言葉。

これは「何をもってして歯周病としてカウントしているか」で“盛ってる感”が見え隠れしますが、
国民に知ってもらうという点では大成功なキャッチフレーズだと思います。

エンドも、「エンドと全身疾患」という切り口を探すことと合わせて、

 「今の根管治療はこんなことができますよ」
 「歯の内部ってこんなに複雑なんですよ」
 「歯が残せるってすばらしいですね」
 「治療には本当はしっかりした時間と手間が必要なんです」
 
というさまざまな健康観でアピールして、エンドの価値が高まってほしいと願っています。

合わせて、みなさんで知恵を出してインパクトのあるキャッチフレーズを考えたいものです。

アイディアがありましたら、ぜひ日本歯内療法学会へのご提案をお待ちしております。

<参考文献>
Tsuneishi et al. Radiographic evaluation of periapical status and prevalence of endodontic treatment in an adult Japanese. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 2005;100:631-635.

東京都杉並区・川勝歯科医院
田中 利典
⇒ http://www.kawakatsu-dental.com/cn22/index.html