2015年02月25日
(1) 上質な治療の選択は、歯科医院の提案力にかかっている
関東の歯科医院の院長A先生と話しているとき、次のような話を聞きました。
「患者さんの口の中を見れば、その人の経済の歴史がわかるよ」
その意味は、お口の中を拝見したときに、金やセラミックス、インプラントなどを活用した上質な治療を確認できた場合は、その患者さんは、過去から今までお金持ちだったと解釈する、ということです。
逆に、お口の中に、銀歯がたくさんあったり、歯が抜けた部分をそのままにしてあるような場合には、ずっとお金に余裕がない生活をしてきたであろうと想像する、というわけです。
これは、歯科界ではある意味セオリーになっている考え方です。
しかし、私はA先生のこの言葉を聞いたとき、かなりの違和感をおぼえました。
というのも、最近でこそ、私の口の中は、銀歯がオールセラミックスに取って代わっていますが、数年前まで、奥歯はすべて銀歯で安直な治療をされたままだったからです。
ですから、私の口の中は銀歯がいっぱいだったわけですが、経済的に余裕がなかったのでしょうか?
まったくもってそうではありません。
営業で高い成果をあげ、男性数人分ほども稼いできた時期もありました。
少なくとも私に関していえば、経済の歴史と歯科治療の選択は、関係がなかったことになります。
では、歯の治療材料の選択は何によるのでしょうか。
私は、それは歯科側の提案力にあると考えています。
提案する力のある歯科医院にかかることができれば、上質な治療を受けることができ、提案力のない歯科医院にかかっていれば、残念ながら妥協した治療を受け続けるしかない、
ということになります。
(2) 情報・提案がなければ、人は「安い」ほうを選択するもの
私がなぜ、これほどまでに歯科医院の提案力について強調するのかというと、自分自身の経験があるからです。
今から10年ほど前のことです。
ある日突然、右上の奥歯にズドンとした痛みを感じ、柔らかいものですら、まったく噛めなくなったのです。
会社を早退させてもらい、あわてて歯科医院に行ったところ、「歯の根っこが病気になり、膿が出て、歯を持ち上げていますよ」といわれ、治療が始まり、中をキレイにしました。
被せ物を決める段階になり、勤務医のK先生はこういったのです。
「金と銀があるけど、どっちがいい?」
当時、歯科の知識がなかった私は「金と銀、どう違うんですか?」と尋ねました。すると、K先生は金額をいってから、「まぁ、金のほうがカラダにいいかな」といいました。
私は「金はイオン化傾向が低いからですか?」と聞くと、「そうそう! 溶けにくいからね!」とだけK先生は答えます。
この程度の情報で、「で、どうする?」と私に決断をせまったのです。
情報がなかったので、私は安直に「保険でできるのでいいです~」といいました。
「あっ、そう。じゃぁ普通の銀歯ね」といって、治療はすすんだのでした。
このやりとり、どう思われますか?
「私だったら、もっとちゃんと金と銀パラの違いを説明するよ!」とおっしゃる先生は多いのではないでしょうか。
しかし、今まで歯科界がやってきた説明とは、このK先生のと、当たらずとも遠からずなのではないでしょうか。
この程度の情報では、たとえお金があったとしても、上質な治療を選択することができなかった患者さんはいっぱいいたのではないかと感じます。
この時に、私の年収は会社員数人分ほどあったことを記憶しています。
お金があるのに、上質な治療を選択することができなかった、というわけです。
では、患者さんの立場から「どうしてもらいたかったのか?」ということを考えてみましょう。
どの治療を選択するのかは、最終的には患者さんの判断なのかもしれませんが、歯科側から、十分な情報提供をしてもらいたかったというのがホンネです。
・上質な治療を受ければ、その後、どんな良いことがあるのか?
・未然に、防ぐことができるリスクはあるのか? それは何なのか?
・妥協した治療を選択すると、後々どうなるのか?
……など、K先生から十分な情報提供をしてもらいさえすれば、私はきっと銀歯を選択しなかったでしょう。
でも、情報がなかったから、金にした場合と、銀パラにした場合の違いがわからず、「安いもの」を選ぶしかなかった、という状況だったのです。
日本で、どれだけたくさんの患者さんが情報提供不足のために、安直に「安いもの」として、保険診療を選んでいるのか想像に余りあります。
(3) 自費率アップの最初の一歩は「すべての患者さんに十分な情報提供をする」こと
情報を得ることによって、患者さんの選択の質が上がれば、それは患者さんの人生を向上させることにつながります。
ひいては、先生の技術の向上、歯科医院の経営の上質化にもつながるのではないでしょうか。
「情報」がなければ、人は「安いもの」を選ぶしかないと覚えておいてください。
「十分な情報提供によって、患者さんの治療選択の質を向上させるのだ!
そして、より良い人生を歩んでいただくのだ!」という使命感をもって、カウンセリングを行ってほしいのです。
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(社)国際医療経営学会 代表理事
吉野真由美
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