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【4】矯正歯科医の視点から診る、乳幼児の食育と健康(後編)

2017年02月20日

乳幼児を抱っこして来院されるお母さんはたくさんいらっしゃいます。

上の兄弟の小児の矯正治療の処置をしながら、お母さんに

「正しい離乳食の食べさせ方をご存じですか?正しい離乳食の食べさせ方をしていれば、食べ物の間違った飲み込み方の癖や舌の癖がつかず、その結果
鼻呼吸になり、健康に成長して歯並びも悪くなるのを予防できるんですよ」

という内容を話すことがよくあるのですが、ほとんどのお母さんが、

「そんな話、今まで誰も教えてくれませんでした! すごく勉強になります!」

と興味津々な反応を示します。

これは小児の健康的な育成のために必要な正しい情報を提供することだけでなく、
さらに小児の患者さんの保護者と一瞬にして信頼関係を築くことができる絶好のチャンスなのです。

前回の0歳児の食育に続いて、今回は1歳~3歳の食育についてまとめてみました。

<第一乳臼歯萌出期(1~2歳頃)>

●口腔内診査のポイント

[1]乳歯の萌出状況確認

上下乳前歯萌出完了、第一乳臼歯萌出開始を目安とし、極端な萌出遅延がないか確認します。

[2]不正咬合の発現がないか

上顎前突、下顎前突、下顎の偏位がないか、乳前歯部の成長空隙があるか、歯の形態異常や先天性欠如がないかを確認します。

もしそれらの不正咬合が認められる場合は、原因となっている生活習慣があるかを見直しましょう。

●食育 ―食べることに興味をもたせる―

第一乳臼歯が萌えたら、指で力を入れて潰せる程度の硬さを目安とした、奥歯で噛みつぶせる食物を与え、臼歯を使った咀嚼を覚えさせていきます。

上下の第一乳臼歯が萌出完了し咬合する1歳半頃に、離乳は完了することが多いです。

しかし硬い食物、線維性の食物、弾力のある食物はまだ咀嚼できず、丸呑みや水分による流し込み食べの原因になるため、控えましょう。

十分な咀嚼をしないで、丸呑みや流し込み食べが習慣になってしまうと、
咀嚼嚥下時の正しい舌の運動ができなくなり、異常嚥下癖が発現し、口呼吸、不正咬合の原因になる可能性があります。

正しい咀嚼嚥下の習慣をつけるために、楽しい雰囲気のなかで食事をするようにして、
適度に咀嚼しやすく、手づかみで自ら口に運びやすい程度の大きさの食物を選ぶことで、食べることに興味を持たせましょう。

・ポイント1:咀嚼嚥下時に口唇閉鎖しているか

口唇閉鎖していないと舌は低位舌になり、さらに異常嚥下癖、舌突出癖、ひいては口呼吸の原因になります。

飲み物で流し込みをしないように、食事中は基本的にあまり飲み物を与えないようにしましょう。

食物の一口量にも気をつけます。

咀嚼して嚥下できる量を手づかみで食べさせ、嚥下を確認してから、次の一口に進んでいるか確認しましょう。

・ポイント2:片咀嚼になっていないか

左右の咀嚼筋がバランスよく運動しているかを確認しましょう。

片咀嚼の習慣があると、下顎が側方に偏位する原因になり、正面観での顔面非対称になる可能性があります。

・ポイント3:姿勢良く座った状態で食べているか

正面を向いて体幹を安定させて、姿勢良く座った状態で食事ができるように、成長に合わせたテーブル、椅子、足台を用意しましょう。

<乳歯列完成期(2~3歳頃)>

●口腔内診査のポイント

[1]第二乳臼歯が萌出完了し、咬合しているか

[2]歯数の異常や歯の形態異常がないか

[3]舌圧で上顎歯槽骨が拡大されることにともなって、口蓋は浅くなっているか

[4]歯列弓には成長空隙が認められるか

[5]不正咬合がないか

食事中以外も日常的に口唇閉鎖し、鼻呼吸することを意識させましょう。

第二乳臼歯が萌出完了後、咬合し乳歯列が完成する2歳半から3歳頃には、
食物の大きさや硬さに対応して、咬合力や咀嚼回数を調節することを学習し、咀嚼の周期はリズミカルになります。

この時期には、成人に近い咀嚼運動が可能になり、味付けは別として、
食物の硬さや大きさに限って言えば家族と同様な食事が食べられるようになってきます。

ですから、噛みごたえのある食材を徐々に取り入れて、十分に咀嚼する習慣を習得していくことが重要です。

●食育 ―幼児の1日は3食の食事が柱―

・ポイント1:スナック菓子やジュース等のショ糖の甘味はまだ与えない

う蝕のリスクが高まるだけでなく、食前に甘味を食べることで主食を食べる意欲が低下し、3食の食事のバランスが崩れる可能性が高くなります。

・ポイント2:食物を前歯で咬み切り臼歯部で磨り潰すという正しい咀嚼の仕方を指導

食物を前歯だけで咬み続ける前咬みの癖があると、下顎前突の原因になる可能性があります。

片咀嚼や異常嚥下癖など悪習癖が発現していないかを日々確認しましょう。

・ポイント3:食事中に限らず日常的に口唇閉鎖できているかを確認

もし鼻咽腔疾患が原因で口唇閉鎖不全、口呼吸になっている可能性があれば、早急に耳鼻咽喉科に通院して改善させましょう。

・ポイント4:床に両足を付け、正面を向いて姿勢良く座って食べているかを確認

姿勢が悪い状態や、横を向いた状態で咀嚼していると、片咀嚼など悪習癖が発現し、不正咬合の原因となる可能性があります。

以上のように、前回と今回で乳幼児の食育が、歯と顎の育成に非常に重要であるということを理解していただけたかと思います。

乳臼歯が萌出し、臼歯で食物を磨り潰す咀嚼運動の習得が始まると、幼児にも成人と同じ嚥下の形が身についてきます。

乳児の時期に吸い付き運動をしていた舌や頬筋は、成長にともなって乳児特有の本能的な機能を忘れて、解放されることにより、
繊細で複雑な会話や表情を表わす役割を習得し始めます。

嚥下の形が幼児形から成人形に変化する時期は、乳歯萌出時期のなかで数か月以上にわたります。

つまりこの時期に、不正咬合により咬合がずれて、上下顎の前歯が正しく咬合していないと、
正しい舌の運動、正しい咀嚼筋の運動が備わらず、
ひいては正しい嚥下運動が備わらないまま成長が進んでしまい、
不正咬合になり、
さらに食物を正しく咀嚼することもできなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

3歳以降も、歯と顎の健康的な育成を進めるには、食育を含めた正しい生活習慣、正しい摂食嚥下と、悪習癖の防止を徹底することが必要です。

そのためには、かかりつけ歯科医を通して正しい情報を発信し、
子どもと保護者が主体的に日常生活を見直していくことが大切なのです。

その結果、小児のう蝕、歯周病、不正咬合の予防に止まらず、
将来的には成人の生活習慣病の予防、健康寿命を伸ばすということにもつながると考えられるのではないでしょうか。

参考文献
1.日本小児歯科学会.日本人小児における乳歯・永久歯の萌出時期に関する調査研究.小児歯科学雑誌 1988;26(1):1-18.
2.山口秀晴,大野粛英,佐々木洋,Zickefoose WE,ZickefooseJ.口腔筋機能療法(MFT)の臨床.東京:わかば出版,1988;22-25.
3.布村幸彦.「生きる力」をはぐくむ学校での歯・口の健康づくり.文部科学省,2011.
4. 愛知県歯科医師会.赤ちゃんのための口腔育成アドバイス,2016.

宮島悠旗ブライトオーソドンティクス
宮島 悠旗
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