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【2】コンサルでのエビデンスに基づくマジックワード

2017年01月16日

治療技術の研鑽を積まれた先生方なら、患者さんには、

機能的にも審美的にも理想的な自費の治療をお薦めしたい、と考えることと思います。

しかし、自費治療の料金の説明をした瞬間、必ず「高い!」という患者さんの心の声が聞こえてきます。

今回は、そんな患者さんに対する、自費の契約確率を高めるコンサルの要点についてです。

4つの間違った先入観

(1)一流の治療をていねいに説明すれば契約してくれる
(2)最新の機材を使っていることを説明すれば契約してくれる
(3)接遇マナーを徹底して対応すれば契約してくれる
(4)お金がある人が契約し、お金がない人は契約してくれない

じつは、この(1)~(4)は自費率アップには直結しません。

(1)~(3)は患者さんにたしかに良い印象は与えますが、
良い印象だけでは自費治療を選択しようとは思いません。

(4)もお金があるからといって、自費治療を選択するとは限らないものです。

人間は本当に必要だと思えば、すぐには無理でも、
貯金してからとか、借金しても買いたいと考えるものです。

そのためには、コミュニケーションをとり、
患者さん1人ひとりの生活環境や口腔内の悩みを理解する。

そのうえで「将来そんなふうに変われるなら、その治療を受けたい!」と、
悩みがなくなる理想的な未来を具体的にイメージさせることが、一番のポイントです。

そこで今回は、“この治療を受けると、こんな良いことがあるのか!”と感じていただくコンサルをするためのヒントを、
いろいろな視点から、患者さんの立場に立って考えていきましょう。

1.心理学的コンサル

米国の心理学者ダニエル・カーネマンのピーク・エンドの法則によると、
“気持ちが一番盛り上がった瞬間”と、
“最後に聞いた言葉”が一番強く印象に残る、と言われています。

(図1)

それでは、一番印象に残るというコンサルの最後に、患者さんとどのようなやりとりがあるでしょう。

多くの場合、最後に話しづらい料金の説明をすることが多いのではないでしょうか。

料金の話を聞いて、治療に対する気持ちが急に冷めたところで、そのままコンサルを終了することこそ、
心理学的にはもっとも自費の契約に結びつかないことになってしまうのです。

また、よくある失敗のパターンとして、

 患者「とても良い治療だということはよくわかりましたので、次回までに考えてきます」

 歯科医師「はい、わかりました」

これで終わってはダメなのです。

最後に患者さんから「検討したい」という言葉が出た時こそ、
コンサル中に患者さんの治療に対する気持ちが一番盛り上がった時の話をもう一度話し、
“治療を受けたい”と思った瞬間の気持ちを思い出させて、コンサルをクロージングするということが、
ピーク・エンドの法則を活かすポイントなのです。

2.自費治療は健康への投資

「自費治療の費用は高額」、はたして本当にそうなのでしょうか?

最近の研究で、実際にう蝕の病原菌が原因で、
「脳出血のリスクが4倍になる」、
「大腸炎のリスクが4倍になる」、
歯周病患者は
「1.7~4.6倍糖尿病のリスクが高い」、
「1.5~2.7倍心臓冠動脈疾患のリスクが高い」、
「早産のリスクを高める」
といったことも証明されているということはご存じのことと思います。

さらに、う蝕や歯周病と全身疾患を関連付けるエビデンスとして、40代以上のすべての年代において、
“歯数が多いほど医療費が少ない”という結果も明らかにされています.。

(図2)

う蝕や歯周病の予防治療を受けること、
う蝕や歯周病に罹患したら、早期治療と再発しにくい治療法を選択し歯を保存すること、
歯の欠損を放置しないこと、
そしてう蝕や歯周病のリスクとなる不正咬合を放置しないこと、
このように歯科医院に通って理想的な自費治療を受けることこそ、生涯の医療費を抑えて、健康寿命も長くするという理想的な方法なのです。

たとえば矯正治療は、治療を受ける一瞬の感覚で考えれば、
たしかに治療費は高いと感じると思います。

しかし、
「矯正治療で不正咬合を治しておくことで、う蝕や歯周病のリスクを減らし、さらに全身疾患の予防にもつながる。将来の健康を買うことができる」
と考えれば、矯正治療と同じ金額で買える他のものと比べた時、矯正治療の本当の価値が見えてくるのではないでしょうか。

歯科医院で歯の治療を受ける時に「将来の健康のため」と考えて治療を受けているという人は、ほとんどいないと思います。

患者さんが、“歯科治療を受けることは将来の健康への投資”ということをしっかり理解した時、
「自費治療の費用は、治療の価値に見合ったものだ!」と感じるのです。

3.“歯の身だしなみ”を整えて年収アップ

米国テキサス大学オースティン校ダニエル・ハマメッシュ教授の研究によると、
美男美女は年収に影響を与え、見た目が良い人は見た目が悪い人と比べて、
17%生涯収入が高いという興味深い報告があります。

私はよく患者さんに「歯並びも身だしなみの一環です」というお話をします。

ビジネスでもプライベートでも初対面の人に出会った時、
大切なのは第一印象だということは、誰もが感じているでしょう。

第一印象が良ければ、その後のコミュニケーションも有利に展開できるはずです。

それでは第一印象とは何で決まるのでしょうか。

米国の心理学者のメラビアン氏によると、人は第一印象を、

「見た目」で55%、
「声」で38%、
「話の内容」で7%、

という割合で決めていると言います。

そして、このなかで一番割合の大きい「見た目」にもっとも影響するのが「顔」です。

さらに、私たちの仕事である口の領域が、
人の第一印象にどの程度影響を与えているか、エビデンスに基づいて確認すると、
郷田・宮本(2000)は、
顔面表情から感情を認知する際の部位の影響を検討したところ、
「嫌悪・幸福は口周辺の影響が強い」、
林・津村・大橋(1977)は、
日本人の容貌タイプと対人魅力との関連を調べた研究において、
「口元のしまりのなさは魅力が乏しい、親しみにくい、社会的に望ましくない、
と見なされる」、
井口・菅原・佐渡山・上條(2007)は、
「もっとも魅力的に感じる笑顔の部位は、眼に次いで口であり、口に付随する
部位が占める割合は31%であり、笑顔の魅力要因として大きかった」
という興味深い報告をしています。

(図3)

つまり、歯科治療で歯の身だしなみを整えることで、
顔における口の部分の印象が良くなり、
収入アップにつながる可能性もあることが考えられるのです。

矯正治療に限らず、補綴、インプラント、修復、歯周病治療などを行い、
審美性を回復することで、笑顔の魅力・第一印象を高められることが
科学的にも証明されているということを、ブライダルやビジネスなど、
患者さん1人ひとりの立場に立った伝え方で説明することができれば、
自費治療の魅力を感じるのです。

以上、歯科疾患のみならず全身疾患を予防するという側面と
審美性を高めて収入もアップするという側面から、
患者さんの立場に立って、経済的に見ても、一生という期間で考えれば、
自費治療に投資した金額分の元はとれるということです。

参考文献
1.Daniel Kahneman. Objective Happiness. In:Daniel Kahneman, Norbert Schwarz (eds). Well-Being: The Foundations of Hedonic Psychology. New York: Russel Sage,1999;3-25.
2.財団法人ライオン歯科衛生研究所(編),長谷川紘司,眞木吉信,野口俊英,山田了,花田信弘,山崎洋治(編集委員).新しい健康科学への架け橋 歯周病と全身の健康を考える.東京:医歯薬出版,2004.
3.奥田克爾.デンタルプラーク細菌.命さえ狙うミクロの世界.東京:医歯薬出版,1993.
4.恒石美登里,山本龍生,石井拓男,和田康志,杉山茂夫.歯数と医科および歯科医療費との関連-レセプト情報・特定健診等情報データベースによる検討-.日本歯科医療管理学会雑誌 2016;51(3):136-142.
5.Daniel S. Hamermesh.Beauty pays:Why attractive people are more successful. Princeton:Princeton University Press, 2011.
6.郷田覚,宮本正一.感情判断における顔部位の効果.心理学研究 2000;71:211-218.
7.林文俊,津村俊充,大橋正夫.顔写真による相貌特徴と性格特性の関連構造の分析.名古屋大学教育学部紀要(教育心理学科) 1977;24:35-42.
8.井口竹喜,菅原徹,佐渡山亜兵,上條正義.魅力的な笑顔に表れる幾何学的特徴.KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.4.2007.

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