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【3】矯正歯科医の視点から診る、乳幼児の食育と健康(前編)

2017年02月06日

0歳児が歯科医院に来院した時、「歯が生える頃にまた見せてください」だけではもったいない?

歯科医師だからこそできる「食育」のアドバイスをして、乳児、幼児を健康に育成し、保護者との信頼関係を高めましょう!

乳幼児の健康に貢献しつつ、口腔内診査とアドバイスだけで、保護者と信頼関係を築くことができるなんて、これほどすばらしいことはありません。

乳児、幼児の時期に矯正装置を使用した矯正治療を行うことはあまりありません。

しかし、矯正装置を使わずに不正咬合を予防する、
または不正咬合を軽度に抑えるための大切なアドバイスはできるのです。

不正咬合は、“遺伝よりも生活習慣による影響のほうが大きい”ということを認識してもらいましょう。

今回は、矯正治療でもほとんど注目されることのない、乳歯列期の育成について、大まかな年齢別に、
口腔内診査で診るべきポイントと不正咬合の予防という視点からみた食育アドバイスをまとめてみました。

 
<哺乳期(0~4か月頃)>

 ●口腔内診査のポイント

  [1]口蓋裂、顎裂はないか

   400人に1人程度の確率で発症するといわれていますが、軽度の場合、保護者も気づいていない場合があります。

   もし発見した場合は専門機関を紹介しましょう。

  [2]舌小帯短縮症、舌小帯強直症はないか

   上唇小帯の低位付着異常があると、将来的に上顎前歯部の正中離開の原因になることがあります。

   舌小帯短縮症、舌小帯強直症があると、異常嚥下癖になることが多く、
   将来的に下顎前歯部の正中離開、前歯部開咬、発音障害の原因になることがあります。

 ●食育 ―母乳の飲ませ方―

  授乳の際に口で深く乳房をくわえさせるようにしましょう。

  浅くしかくわえていないと、舌癖や下顎前突の原因となります。

 
<離乳食開始期(5~6か月頃)>

 ●口腔内診査のポイント

  [1]上顎歯槽骨の形態が、V字型になっていないか

   口唇閉鎖不全や口唇を閉鎖した状態での嚥下ができていないと、舌による上顎歯槽骨の拡大が起こらずV字型を呈します。

  [2]上顎と相対的に下顎歯槽骨の幅径が大きくないか

   低位舌の場合、下顎歯槽骨が拡大されます。

  [3]下顎乳切歯の萌出

   ほとんどの場合、いちばん最初に萌出するのは下顎乳切歯です。

 ●食育 ―離乳食の食べさせ方―

  離乳の開始時期として推奨されている生後5~6か月は、下顎乳切歯の萌出時期とほぼ一致しています。

  離乳の時期には口唇での食物の取り込み、口唇閉鎖状態での嚥下、食物の舌や歯槽堤での押し潰し、咀嚼のための基本的な動きが獲得されます。

  そのまま飲み込めるペースト状の食物から、舌で潰せる程度の硬さの食物を選んで離乳を進めていきます。

  おしゃぶり、指しゃぶり、おもちゃをなめることは、口唇の感覚と舌の機能を発達させるために必要なので、
  清潔で安全なものを与えるようにしましょう。

  この時期には、悪習癖を発生させないための重要なチェックポイントがあります。

  ・ポイント1:スプーンを口腔内に押し込んでいないか

   離乳食を食べさせる時は、スプーンを下唇において、自ら上唇ではさんで食べるまで待つようにしなければなりません。

   スプーンを口腔内に押し込んで食べさせてしまうと、正しい摂食嚥下の機能を習得することができず、
   低位舌、口唇閉鎖不全になり、下顎前突など不正咬合の原因になることがあります。

  ・ポイント2:飲み物で流し込みをしないように、一口ずつ食物だけで嚥下できる量を食べさせ、嚥下を確認してから次の一口に進んでいるか

   飲み物で食物を流し込むようにして飲み込んでいると、異常嚥下癖になり、開咬、下顎前突など不正咬合の原因になることがあります。

 
<下顎乳前歯萌出完了期(7~8か月頃)>

 ●口腔内診査のポイント

  [1]咬唇癖がないか

   下顎乳切歯の萌出にともなって咬唇癖が出現することがあります。

  [2]高口蓋かどうか

   口唇閉鎖して嚥下する際の舌圧で上顎歯槽骨が拡大されていないことによって、高口蓋になることがあります。

 ●食育 ―離乳食の硬さと大きさ―

  指で軽く潰せる軟らかさ、舌と口蓋で押し潰し、嚥下できるもの。

  正しく嚥下できる一口量。

  ・ポイント1:適度な軟かさの離乳食を与えているか

   離乳食が硬すぎたり、一口量が大きすぎたりすると、舌や口蓋、歯槽堤を使った食物の磨り潰し運動を行うことができずに、
   丸呑みや水分による流し込み食べになり、異常嚥下癖など悪習癖を発現させ、不正咬合の原因になることがあります。

   食事中は正しい姿勢で座らせ、口唇を閉鎖させて嚥下させるように指導しましょう。

  ・ポイント2:不正咬合につながる悪習癖(この時期に発現しやすいものは咬唇癖、口呼吸)が出現していないか

   口を閉じさせ、鼻呼吸をうながす必要もあります。

   おしゃぶりを与えて自然と口唇閉鎖させて、鼻呼吸をうながすのも良いといわれています。

 
<上顎乳前歯萌出期(9~11か月頃)>

 ●口腔内診査のポイント

  [1]上下顎乳前歯の萌出状況

   歯の形態異常、先天性欠如歯の可能性、萌出時期が適切かどうか確認します。

  [2]顎位の前後左右的な偏位がないか

   上下の乳前歯が萌出完了した時点で咬合しているかが重要です。

   この時期に上顎前突で過蓋咬合の状態になっていたり、下顎前突の状態になっていたりする場合は、悪習癖が原因となっている可能性が高いです。

 ●食育 ―上下乳前歯の萌出に合わせた離乳食選び―

  目安としては、指で強めの力で潰せる軟かさ、それが臼歯部の乳歯が未萌出の歯槽堤で押し潰して咀嚼できる程度といわれています。

  乳前歯が上下揃ったら、少し大きめの食物を前歯で切断する練習を行い、正しい咀嚼運動を育成するように指導しましょう。

  ・ポイント1:開閉口運動を学ぶ時期

   上下顎乳前歯が萌出することで、初めて上下の歯どうしが咬み合わさることができ、開閉口運動の正確な位置が決まりはじめます。

   この時期に悪習癖があり、上下の乳前歯が前後的に正しく咬合しなくなると、下顎骨が前方回転するために過蓋咬合を呈し、
   将来第一大臼歯萌出期に第一大臼歯の垂直的な萌出スペース不足による萌出障害が起こり、混合歯列期以降にさらに過蓋咬合が
   悪化する可能性が高くなります。

  ・ポイント2:離乳食の硬さと大きさの評価

   離乳食が硬すぎたり、大きすぎたりすると、正しい咀嚼嚥下運動を習得できなくなる可能性があります。

   上下乳前歯の萌出に合わせた離乳食を選んで、口唇閉鎖して咀嚼嚥下できているか、確認するように指導しましょう。
 
 
 
以上のように、0歳児に対してだけでも、子どもを健康に育成するために保護者が知っておくべき情報はたくさんあるのですが、
このような食育の情報を正しく知る環境は多くありません。

ですから先生方には、子どもたちを健康に育成するために、歯科医師だからこそできるアドバイスの実践をお願いしたいと思います。

参考文献
1.日本小児歯科学会.日本人小児における乳歯・永久歯の萌出時期に関する調査研究.小児歯科学雑誌 1988;26(1):1-18.
2.山口秀晴,大野粛英,佐々木洋,Zickefoose WE, Zickefoose J(監修). 口腔筋機能療法(MFT)の臨床.東京:わかば出版,1998;22-25.
3.布村幸彦.「生きる力」をはぐくむ学校での歯・口の健康づくり.文部科学省,2011.
4.愛知県歯科医師会.赤ちゃんのための口腔育成アドバイス,2016.

宮島悠旗ブライトオーソドンティクス
宮島 悠旗
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