2017年01月05日
はじめまして。
フリーランス矯正歯科医として活動しております宮島です。
このメルマガでは、「患者さんを健康にする矯正治療とは?」のテーマのもと、
“矯正”をキーワードに読者の皆さんと患者さんが良好な関係を築くためのヒントを6回にわたってお届けしたいと思います。
「同じ治療をしても、良い結果が出る患者さんと出ない患者さんがいる」
長く臨床に携わっていらっしゃる歯科医師なら、必ずそう感じたことはあるかと思います。
これはどの分野の歯科治療にも共通して言えることですが、
患者さんのコンプライアンスなしには治療が成功しない、
患者さんのコンプライアンスが低ければ、結局どんな名医が治療しても、
良い結果が出ないということです。
まさに、その大きな原因の1つは患者さんのコンプライアンスと言えます。
コンプライアンスが高い、低いというのは、患者さんの性格だけで決まるわけではありません。
患者さんの治療に対する満足度は、コンプライアンスと深い関係があります。
もし患者様が何らかの不満を抱えた状態が続くと、
[1] 治療の中断やセカンドオピニオンの受診
[2] 治療に対する患者さんのコンプライアンスの低下
[3] 歯科医師と患者さんのコミュニケーションが図れないために、患者さんから治療に必要な症状などの情報を得られない
[4] インターネットや地域での医療機関の悪評
患者さんの治療が円滑に進まないだけでなく、このようなネガティブな問題に発展してしまう可能性があります。
では、コンプライアンスに直結する「患者さんの満足度」とは、一体何によって決まるのでしょうか。
ここで考えなければならないのが、「満足度」に対する歯科医師と患者さんの間にあるギャップです。
自分に自信のある歯科医師ほど、
「一流の治療を提供すれば、患者満足度は高い」
と信じて止まないことでしょう。
しかしながら非常に残念なことに、多くの患者さんは歯科医師の治療の上手い・下手を判断することができません。
そうなると患者さんの治療に対する満足度の大半を決める要素は
「術者と患者の信頼関係」になってしまうのです。
一流の治療を提供しているのに患者満足度が低い、
患者さんのために理想的な治療法を用意しているのに選ばれないなんて、もったいないですよね。
患者満足度を高めるためによく行われていることとして、
“クリニックに最新機器を入れる”
“クリニックをきれいに改装する”
“スタッフの接遇マナーを徹底する”
といったことがあります。
このようなことは、たしかに患者さんに「クリニックに対する好印象」を与えますが、それで集まった患者さんは、
もし近所でよりお金をかけてそれを上回るクリニックができた途端に、そちらに流れてしまう可能性があります。
「クリニックに対する好感度」と「術者と患者の信頼関係」は、
じつはイコールではありません。
それではどうしたら「術者と患者の信頼関係」を高めて
「治療やメインテナンスにしっかり通っていただく」
「教えたとおりに歯ブラシをしてもらう」
といったコンプライアンスを高めることができるのでしょうか。
その答えを一言で言うなら、
「患者さんを先生やスタッフのファンにすること」です。
患者さんを先生やスタッフ個人に対するファン化に成功すれば、
近所にどんな新しいクリニックができたとしても、継続して医院に通ってもらえるのです。
患者さんを先生のファンにするほど「術者と患者の信頼関係」を
高めるキーになるのが「コミュニケーション能力」です。
今の時代、インフォームドコンセントとして
「写真や模型などを使用して治療の説明をする」
「患者の話をよく聞く」
「言葉遣いに注意する」
「不快な表情をしない」
といったことに気を配るのはもはや当たり前です。
それに加えて、患者さんが興味を引く言葉を話さなければなりません。
そこで今回は、矯正治療の中の不正咬合予防の知識を活かして、患者さんの心を掴む“マジックワード”を紹介します。
すべての患者さんにとって大切であり、共感することができる、普段の生活の中で不正咬合を予防する知識をお話したいと思います。
無料で患者さんにとって耳寄りな情報を与えるのがポイントです。
不正咬合の原因は多岐にわたりますが、そのなかでも大きな原因に悪習癖があります。
その悪習癖の代表的なものとして、低位舌、異常嚥下癖、口呼吸が挙げられます。
これら3つの悪習癖にはじつは共通の原因があるのです。
それは成長期の“食事中の水分摂取による流し込み食べ”です。
食事の時、「いただきます」をしてから「ごちそうさま」をするまで、
とくに成長期の子どもは飲みものを飲んではいけないということをご存じでしょうか。
食物を咀嚼する時に分泌される唾液こそ、消化酵素を多く含んだ質の高い唾液なのです。
食物は本来必要なだけ十分咀嚼し、食塊を形成しなければ嚥下できません。
口を閉じてよく咬んで飲み込むことで、上下顎の臼歯部が咬み合った状態で、
舌を口蓋に押し付けながら嚥下するという、正しい嚥下が身に付くのです。
そして、よく咬むことにより歯槽骨も成長し叢生をある程度防ぐことができます。
しかし、食事中に水分摂取し、食物をよく咬まずに流し込んでしまうと、
正しい嚥下が身に付かず、異常嚥下癖や低位舌になると言われています。
さらに、異常嚥下癖や低位舌といった舌癖が口呼吸の原因にもなってしまうのです。
消化という面でも、食事中に水分摂取をすると、唾液や胃酸が薄まり消化不良になる可能性が高くなると言われています。
食事中にもう1つ注意しなくてはならないのが姿勢です。
座っている場所から左右どちらかに置いてあるテレビを観ながら食事をしていると、横を向いている方に下顎が偏移してきます。
ひとたび下顎の偏位が起きると片咀嚼になりやすく、片咀嚼はさらに下顎を偏位させる原因になります。
歯科医師にとっては当たり前のことでも、患者さんやその保護者の方にとっては、
じつは目から鱗の話だった、ということはよくあります。
患者さんにわかりやすい例として「サザエさん」があります。
磯野家の食事のシーンがよく出てきますが、
磯野家では食事をする部屋にテレビはなく、
食卓にはコップや飲みものはいっさい置いていないのです。
すごいと思いませんか?
昔の日本の家庭には、正しい生活の知恵が伝わっていたということがよくわかります。
自ら矯正治療をすることはできなくても、不正咬合の予防知識を伝えて患者さんに
「この先生は自分はやらないだけで、他の専門分野のことも知ってるんだ! すごい先生だ! この先生の話すことならもっと聞きたい!」
と感じさせることができればしめたものです。
それをきっかけに患者さんとのコミュニケーションが円滑にとれるようになり、
先生の一般治療に対する患者さんのコンプライアンスを高めるということが期待でき、ストレスなく良い治療結果がでやすくなるのです。
※参考文献
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・Ley P.Chapman & Hall : “Communicating with patients: improving communication, satisfaction and compliance,1988
・Sondell K, Soderfeldt B, Palmqvist S.:Dentist-patient communication and patient satisfaction in Prosthetic dentistry,The international J Prosthodontics,2002
宮島悠旗ブライトオーソドンティクス
宮島 悠旗
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