2016年12月05日
本コラムも今回で5回目となりました。
前回までは、集患についてくわしくお伝えしてきました。
今回は、「サービスと環境」について、お話します。
なぜサービスと環境が重要なのか?
歯科医院はあくまで医療を提供する場であり、
「しっかり治療をすれば、患者さんは付いてきてくれる」
と思われる方もいらっしゃると思います。
もちろん、そのとおりで、歯科医院は病気を治す場所であり、娯楽施設ではありません。
ただ、問題は時代がどんどん変化してきているということです。
その変化にともなって、人の心理も変化しています。
歯科だけでなく、お店も40~50年前は商品を提供して、販売することがメインでした。
しかし、高度経済成長期を経て、モノが溢れるようになると、
人びとの商品やモノに対する欲求が少しずつ減っていきました。
今では、それらに代わって違うものを求めるようになっています。
では、人は何を求めるようになっているのでしょうか?
それは、心の豊かさです。
昔は、心の豊かさよりも、物資的な豊かさを求めました。
しかし、昭和50年代から前者を求めるようになったといわれ、
今では約70%の方が物資的な豊かさよりも心の豊かさを求めるようになっています。
ただモノを買うよりも、楽しい時間や心安らぐ時間にお金を費やしたいという方向に、気持ちが変化してきているのです。
そのため、多くのお店やショッピングセンターなどでは、
ただ商品を販売するだけでなく、買いものの楽しい時間や、
心安らぐ時間を提供するようにシフトしてきています。
たとえば、
輸入食品のカルディ
雑貨や化粧品販売のPLAZA
小物や家具のFrancfranc
家具のIKEAなど
モノを買うだけではなく、買い物自体を楽しませる店がどんどん増えています。
すると、よく行くお店で心安らぐサービスや環境があるようになると、
今まではそうでなかった業種にまで、人びとは同じことを求めるようになります。
歯科でいえば、
「治療がしっかり受けられればよい」ではなく、
「治療をしっかり受けたい、そして気持ちよく受けたい」と、
新たに求める感情が増えてきているのです。
どんな業種も、相手がいるからこそ仕事が成り立ちます。
要望に応えられなくなれば衰退していくのは仕事の原則だと思います。
そうなると、少しずつ歯科業界も変化していく必要があります。
その1つが、サービスや環境です。
まず、サービスについてですが、
患者さんは歯科医院のサービスに何を求めているのでしょうか。
ディズニーランドのような面白いイベントでしょうか?
高級レストランのような、かしこまった対応でしょうか?
患者さんはそんなことを求めてはいません。
患者さんが求めていることは2点です。
[1] 感じの良い雰囲気
[2] 心遣いのある対応
基本的には、医療に対して求めているのはこの2つです。
患者さんの心理を考えてみましょう。
昨日の夜から歯が痛くなったとします。
最初に思うのは、この痛みを止めてほしい。
治療をして治してほしいという気持ちです。
そこで歯科医院に行きます。
ただ、初めての歯科医院に行って扉を開ける時に頭の中で考えていることは、昨夜の「痛みを止めてほしい」とはやや違っています。
何を考えているのかというと、「ここはいい歯医者かな?」です。
この「いい歯医者」というのは、
治療だけでなく、スタッフ対応や環境も入っているのです。
なぜなら、歯科医院に入って、受付が無表情で、ぶっきら棒に
「予約されていますか? うちは予約制なんですよね」などというと、
患者さんは「ああ、失敗したかも」と心の中で思います。
何ひとつ治療も行っていない段階なのに、もうこの歯科医院は失敗だったかもと思うのです。
そう、治療以前に、まずは受付やスタッフの対応で評価しているのです。
その後、この患者さんは治療を受けて、痛みがなくなったとしましょう。
そして会計時に、受付の人からちょっと不機嫌に
「次回は1週間後です。うちは予約制だから予約をとって帰ってください。次からは突然来ても診られないですから。それに保険証も忘れると診られないので注意してください」
といわれたら、どうでしょうか?
もともとの欲求だった歯の痛みは治っても、
この歯科医院に次からも通おうという気持ちは下がりますよね。
「ああ、完全に失敗した。別の歯科医院に行けばよかった」と思ったりします。
それくらい、スタッフの対応ひとつで損をしたりするのです。
だからこそ、感じの良い雰囲気、心遣いのある対応が必要なのです。
たとえば、先ほどのケースだったら、
「予約されていますか? うちは予約制なんですよね」
と医院サイドの都合を突然いうのではなく、笑顔で、
「今日はどうなさいました? あ、お痛みがあるのですね。それはお辛いですよね。当院は予約制なのですが、お痛みがあるということなので拝見させていただきますね。ただ、申し訳ないのですが、20分程度お待ちいただく可能性がありますが、よろしいでしょうか?ただできる限り早く診察できるようにいたします」
という対応をします。
最初の歯科医院都合の視点で発言しているケースよりも、
ずっと気持ちがよくないでしょうか。
たとえ予約制で断るにしても、話し方を間違わなければ不満は少なくなりますし、
話し方を間違えると、それだけで不満や悪評につながります。
大切なのは、歯科医院サイドの視点ばかりで発言をするのではなく、
患者さんの気持ちをしっかり汲み取ってから発言や対応することです。
あなたが、どんなすばらしい治療をしていても、受付やスタッフの対応で、
患者さんの心が離れてしまっている可能性もあります。
そこで、大切なステップをお伝えします。
<ステップ 1 >
スタッフと患者さんが接する場面をピックアップ。
<ステップ 2 >
その場面ごとの現状の対応を、それとなく聞いてみる。
<ステップ 3 >
みんなで、患者さん対応のミーティングをする。
<ステップ 4 >
ミーティングで決まったことの実行。
先生1人で考えるのではなく、
一度院内でどんな話し方や対応をしているかを、みんなで話し合ってみてはどうでしょうか。
患者さんの心が満たされる話し方とは何かを模索するのはすごく重要なことです。
では、次に「環境」についてお話します。
よい環境とは、決して新しいからよいということではありません。
もちろん新しいに越したことはありませんが、
何度も内装のリニューアルをすることはできないので、
今の状態でいかに変えていくかを考えることが大切です。
患者さんからすると、新しく行く歯科医院はちょっと緊張します。
私たちも美容院に行くとして、雑居ビルの3階の一番奥にある薄暗い場所にあったら、ちょっと入るのに躊躇しますよね。
ですから、まずはクリニックの入口を明るい感じにします。
「なかに人がいるのが何となく見える」
「入口を明るくする」
「入口付近の清掃を徹底する」
などの対策が重要です。
「なかがまったく見えない」
「薄暗い」
「小汚い」
は、患者さんが敬遠しやすいです。
またできることなら、ブラックボードなどを置いて、
クリニックの雰囲気を伝えられるとなおよいと思います。
「入口の雰囲気=医院の雰囲気」と患者さんは捉えます。
誰しも、明るく感じのよいクリニックを求めているので、入口でそんな印象を与えることが大切です。
ただ注意してほしいことがあります。
それは、ご高齢の患者さんが多い地域なのに、
若い人向けの雰囲気を作りすぎると、それはそれで入りにくい医院になります。
ですから、まずは患者さんの年齢層を少し意識してみてください。
また、受付でリラックスできる環境をつくるのも大切です。
治療前や治療後にホッとできる環境を提供してさしあげる。
といっても、それほどすごいことをしなくても大丈夫です。
アロマを焚く、雑誌をオシャレにする(漫画やゴシップ雑誌はやめる)、ウォーターサーバーを置く、ハンドソープは香りのよいものにする、
オシャレなスリッパにする、かわいい小物を置く、季節のイベントで飾り付けをする……
など、ちょっとしたことからスタートしてみてください。
これはスタッフのなかでセンスがある人に任せるとよいと思います。
その際に目的と予算をしっかり最初に伝えてあげてください。
小さい心遣いやホッとする環境を作ることに少しずつトライすることで、
必ず医院の評価も変化していきます。
ぜひ、スタッフと一緒にトライしてみてください。
一般社団法人 歯の寿命をのばす会/歯科医「開業成功バイブル」主催
伊勢海 信宏
⇒ http://haisyakaigyo.com/