2015年01月14日
「人の重要性はわかっているけど、採用やトレーニングなど、どのように強化するのか方法論がわからない」という院長が多いのではないかと思います。
『ビジョナリーカンパニー』という名著に下記のような一節があります。
「このバスでどこに行くべきかはわからない。しかし、わかっていることもある。適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ」
この本は、偉大な企業の調査をもとに、良好な企業が偉大な企業へと変貌するために必要な条件を明らかにされていますが、下記の教訓を示します。
“まずは、人を選び、目標を決める”
誰と一緒に夢を追いたいか?
仕事ができる、その人が辞めたら困るとかそのような視点ではなく、まずは、一緒に夢を追いかけるメンバーを選ぶということがすべての始まりです。
ゴーイングコンサーン(=継続企業)を実現するためには、このスタッフィングがすべての土壌となります。
組織は、人の集合体ですから、良い人(=上記でいうバスに乗る人)を厳選した上で、質の高いトレーニングを実践することで、良い治療やサービスが提供できるようになり、患者数が増え、結果的に利益を生むクリニックになるのです。
良い土壌には、良い果実がなるわけですが、クリニックにとっての土壌である採用について、実際の現場で数多く起こっている代表的な間違いを5点あげて解説します。
★間違い1:「離職率が低いほうが良い組織」
採用した人が辞めないのは、良い組織だからではなく、負荷がかからない程度の仕事量や仕事の質しか与えていないからです。
1人も辞めないと自慢している院長もいますが、その状態は好ましくありません。
組織の風土として規律がなく、馴れ合いになっている可能性があります。
みなさん心当たりがあるのではないでしょうか?
スタッフが辞めないクリニックをつくるのが目標ではなく、良い治療やサービスを提供するクリニックづくりをすすめていくことが最優先です。
そのためには、ルールを明確化し、トレーニングシステムを確立し、良い人材が長期継続的に勤務して、方向性や価値観の合わないスタッフが早期に退職する風土をつくることが重要です。
離職率は、正社員・パートを含めて15~30%が適正です。
★間違い2:「退職希望があると引き留める」
「今月末で退職したのですが……」とスタッフから退職の申し出があった際に、「もう少し頑張れないかなあ……」と慰留した経験はありませんか。
退職したいと考えている人に勤務を続けてもらっても、良い方向に変わる可能性は低いです。
辞める理由がクリニックに対する不満や不安感であれば、結果として悪い空気に汚染されるケースもあります。
退職希望があった際には、「そうですか。新たな門出でそれはよかったですね」と送り出しましょう。
★間違い3:「採用には自院のホームページが最重要」
採用にホームページは欠かせないツールになっていることは間違いあません。
しかし、それだけでは採用はうまくいきません。
もっとも効果的なのは、院長の過去の交友関係からスカウトすることです。
次に既存のメンバーからの紹介も効果的です。
紹介の際の謝礼金額を決めるなど、システムにするとよいでしょう。
採用のための雑誌掲載やインターネットでの有料掲載は、最終的な方法と考えて取り組みます。
★間違い4:「良い人材を採用するにはクリニックの求める人材像をアピールする」
人材採用は、恋愛と似ています。
相互のニーズがマッチするからこそ、良い採用・良い就職になるのです。
ただ一般的には、自院の質が低くても良い人材を採用したいですし、逆に自分の技術レベルは低いけれども、ブランドになっている有名なクリニックに勤務したいと誰もが思うものです。
ここでミスマッチが発生してしまいます。
一方的に「こんな人がほしい」では、片思いに終わるだけです。
ですから、良い人材を採用するには、クリニックの求める人材をアピールするのではなく、求職者側が求めるクリニックになる必要があります。
応募の段階では、どんなクリニックなのかわからないのですから、判断基準は給与や勤務時間、福利厚生等の勤務条件になるのは致し方ありません。
ですから、給与水準等の雇用条件が競合クリニックよりも高い必要があります。
応募者の母数が増えることで、レベルの高い人材を選べる可能性が高くなり、結果的に良い人材を採用できるのです。
★間違い5:「正社員のほうがパートタイマーよりも優秀」
一般的にパートタイマーは責任感に欠けるので、重要な業務は任せられいと考えがちですが、パートタイマーの中にも優秀な人材は多数います。
結婚・出産で一時的に仕事を辞め、子供の成長とともに復帰しようとされている方は、一般企業でバリバリのキャリアウーマンだった可能性もあります。
ただ勤務時間の制約があるだけです。
正社員とパートタイマーは勤務時間が違うだけなので、良いトレーニングをする仕組みがあれば、治療・サービスの質が下がることはありません。
パートタイマーであれば多数の応募が考えられますので、その中から将来のリーダー候補を選ぶことができる状態をつくって、優秀な人材を引き上げる評価制度などの仕組みが重要になります。
経営は、トータルシステムですので、このスタッフィングはすべての土壌となります。
採用・トレーニング・評価制度が欠けることなく回り始めると、組織は、ゴーイングコンサーンとして発展し続けるのです。
(株)デンタル・マーケティング 代表取締役社長
寳谷 光教
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