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明日の臨床に生かせる歯髄保存のHOW TO【6】歯髄の治癒、長期予後を決めるものは?

2018年09月17日

研修医「前回は、直接覆髄が成功したと思っても、気が早いという話でしたね」

院 長「そうだ。診断が正しくて、直接覆髄がうまくできても、まだ、歯髄壊死が起きる可能性がある」
研修医「想像がつきません……」
院 長「動物での研究になるが、COXらの報告がとてもわかりやすい。彼らは、健康なサルの歯を露髄させ、直接覆髄をした。そうするとどうなると思う?」
研修医「感染がなければ治癒するはずですよね(第1回参照)」
院 長「そのとおり。この報告では、5週間後、すべての歯髄に治癒が生じた1)。でも、2年後、いくつかの対象歯に歯髄壊死が起きたんだ2)。原因は何だと思う?」
研修医「う~ん、歯髄壊死が起きる原因は細菌感染ですよね?」
院 長「そうだ」
研修医「でも、この研究では健全な歯髄を露髄させているんですよね?」
院 長「つまり、治療前には細菌感染はなかった。ということは?」
研修医「後から感染したということですか?」
院 長「正解だ。歯髄壊死が生じた歯を組織学的に調べたところ、マイクロリーケージ(微少漏洩)による細菌感染があったと報告している。つまり、細菌感染を防げる最終修復の精度が重要だといえる」
研修医「直接覆髄剤だけでは歯髄への感染を防ぎきれないのですか?」
院 長「そういうことになるね。歯髄への感染経路は、露髄した部位だけでなく、直接覆髄剤と象牙質の界面や象牙細管も考えられる。歯髄付近の象牙細管は、象牙質の1/4を占めているともいわれているよ」
研修医「そんなにですか! 象牙質が露出しているということは怖いことですね……」
院 長「歯髄内圧や免疫による防御機構があるから、すぐに細菌の侵入を許さないけれど、時間の経過とともに抵抗しきれなくなることがある。だから、マイクロリーケージを起こさないような最終修復が必要になる」
研修医「わかりました。最終修復までしっかりと終えて初めて、直接覆髄が終わったと言えるのですね」
院 長「いいこと言ったな。とりあえず、今回の内容は理解できているようだ」
研修医「今回のということは、まだまだポイントがあるんですね?」
院 長「まあな。とりあえず、超ダイジェスト版という感じで、6回にわたって重要ポイントだけかいつまんで話してみたけど、話しきれていないことが山のようにあるんだよ。詳しくは、参考文献3を読んでみてくれ」
研修医「もしかして、これ!! 院長の書いた本では……、ステマじゃないですか!? ドラマの続きは映画でみたいな」
院 長「そんなこと言うなよ。私だって世の中の歯髄が少しでも助かってほしいと思って、睡眠時間と命を削って、一生懸命書いたのに……」
研修医「院長の反応、マジメですか! 冗談です! もちろん読みますよ!」

今回のポイント
「歯髄治癒の長期予後はマイクロリーケージの有無で決まる」
「マイクロリーケージの無い修復治療が求められる」

*この物語はフィクションです。登場する人物・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。実際の治療においては、医療法にしたがい、患者への説明と同意(未成年者の場合は保護者も)を得てから行ってください。

参考文献
1.Cox CF,Bergenholtz G,Fitzgerald M,Heys DR,Heys RJ,Avery JK,Baker JA. Capping of the dental pulp mechanically exposed to the oral microflora — a 5 week observation of wound healing in the monkey.J Oral Pathol 1982;11(4):327-339.
2.Cox CF,Bergenholtz G,Heys DR,Syed SA,Fitzgerald M,Heys RJ.Pulp capping of dental pulp mechanically exposed to oral microflora.a 1-2 year observation of wound healing in the monkey.J Oral Pathol 1985;14(2):156-168.
3.泉 英之.治る歯髄 治らない歯髄.歯髄保存の科学と臨床.東京:クインテッセンス出版,2018(10月発売予定)

西本歯科医院
泉 英之