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明日の臨床に生かせる歯髄保存のHOW TO【3】助かる歯髄を見極める Part1見えない歯髄を診断する

2018年08月03日

院 長「さて、前回は治る歯髄と治らない歯髄は何が違うかについて学んだね」

研修医「はい。勉強になりました」
 「おっ、自信ありげだな。じゃぁ、どんな内容だったか言えるかな?」
研修医「え?テストですか・・・」
 「ははは、そんなつもりじゃないよ。復習が大事ってことだ」
研修医「良かった・・・。メモを見ながら言います」

1.歯髄の治癒は感染と歯髄のバイタリティーのバランスで決まる
2.臨床症状、エックス線写真で異常を認めない露髄は治癒率が高い
3.臨床症状やエックス線写真でわずかな異常があっても、若年者の場合、歯髄が治癒することがある

 「そうだね。助かる歯髄かどうかは、ある程度、治療前に決まっているということになる。だから、診断が大事で、失敗する症例を見極めることが重要だという話しをしたね」
研修医「待ってました!」
 「じゃあ、診断のためにはどんな診査が必要になるかな?」
研修医「臨床症状の問診や打診、エックス線写真でしょうか」
 「もうちょっと情報が欲しいかな」
研修医「う~ん・・・、わかりません」
 「歯髄電気診(EPT)や冷温度診(Cold Test)はしないのか?」
研修医「あ、そういえば、学生の時は習いましたが、卒業してからほとんど使ってません」
 「ふだん使っていなければ、出てこないよな。どうして使わないんだ?」
研修医「だって、自発痛があって明らかに抜髄が必要なときも、EPTに反応することがあるし、あまり役立たないと思って・・・」
 「確かに、そうだね。でも、それは考え方が間違っているんだよ」
研修医「え???」
 「いろいろな診査項目があるけど、その診査も単独で使うとそこまで正確ではないから組み合わせて使う必要あるんだ」
研修医「ふ~ん」
 「いちばん簡単な考え方は、すべての検査結果が正常な場合を適応症とする方法だ」
研修医「それなら、失敗は少なそうですね」
 「以下の基準を満たす症例の96%が組織学的に可逆性歯髄炎だったという報告があるよ」

Ricucciらによる可逆性歯髄炎の基準
自発痛の既往なし
冷水痛や甘味痛があっても、わずか
歯髄生活試験は正常範囲内、または温度診の異常があってもわずか
誘発刺激による痛みが、刺激除去後、数秒以内で消失
打診痛なし
エックス線写真で根尖部に異常を認めない

研修医「へぇ~、これの基準をクリアすれば、成功率96%になるはずですね。なんだか自信がついてきました」
 「理論的にはね。でも、助かる歯髄を見極められても、実際に助けられる技術があるかどうかは別だ」
研修医「やっぱり自信がなくなってきました・・・」
 「そんな暗い顔をするなよ。後で、テクニック的なことも教えるよ」
研修医「良かったです。だって、まだ研修医ですし、自信がありません」
 「話を戻して、診断の話だ。診断精度を上げるには、EPTやCold Testが必要になるんだ。まったく臨床症状がなくても、EPTやCold Testに反応しないケースもある。そんな症例を気づかず治療すると、将来、強い痛みが生じる可能性がある」
研修医「わかりました。習慣にしなければいけませんね」
 「診断はもっと奥が深いんだけれども、今回は入門編としてこれくらいにしておこう」
研修医「わかりました。もう、頭がパンクしそうだったので・・・。そういえば、前回、臨床症状のあるケースの成功率を高める方法があると言っていましたよね? でも、いま教えてもらった基準を満たしませんよね?」
 「そのとおり。よく覚えているな。これは、次回だ」
研修医「え? 次回ですか?(引っ張るなぁ・・・)」

今回のポイント
「Ricucciらの基準を満たす症例は96%が可逆性歯髄炎である」
「EPTやCold Testを行うことで、症状のない歯髄壊死の見逃しを防ぐことができる」

参考文献
Ricucci D,Loghin S,Siqueira JF Jr.Correlation between clinical and histologic pulp diagnoses.J Endod 2014:40(12),1932-1939.

西本歯科医院
泉 英之