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明日の臨床に生かせる歯髄保存のHOW TO【2】歯髄の治癒を決めるもう1つの要素とは?

2018年07月17日

院長「前回は、感染のない歯髄は治癒するという話をしたね」

研修医「そうでした。貼薬の有無より、感染の有無のほうが重要な要素だということはとても勉強になりました」

院長「さて、前回の最後の質問は、臨床症状がある症例は歯髄保存できないんじゃないか?ということだったね」

研修医「はい。そうです」

院長「一般的にはそれで良いと思うよ。打診痛や咬合痛があれば、根尖部に炎症があることを示しているから、その可能性が高いのは間違いない。じゃぁ、また、論文を1つ紹介しよう」

研修医「はぁ、論文ですか」

院長「ははは!不満そうな顔をしているな(笑)。確かにおもしろくないかもしれないけど、学べることがたくさんある。1993年のMejareらの報告が興味深いよ1)。この報告は、う蝕が原因で露髄した歯髄に1~2mmの浅い断髄を行った後、水酸化カルシウムを貼薬し、24~140か月の経過観察をしているんだ」

研修医「話の流れからいくと、この報告は臨床症状がある歯が含まれているのですね」

院長「そうだ。グループ1は一時的な痛みやエックス線写真上で歯根膜腔の拡大、骨硬化炎による根尖部の不透過像を認めるものを含み、グループ2は臨床的にもエックス線写真においても正常なものだね」

研修医「普通に考えると、グループ2の方が成功率は高いですよね?」

院長「そうだね。グループ2の成功率は90%以上で、31歯中、29歯が治癒している。臨床症状のあるグループ1は6歯中4歯が治癒しているんだよ」

研修医「へぇ~臨床症状のあるグループ、もっと治癒率が低いと思いました」

院長「そうなんだ。一般的には、臨床症状があったり、エックス線写真で根尖部の異常を認めるケースは、歯髄壊死が生じていることが多い。でも、この報告の対象者の年齢は6~15歳で、若年者ということがポイントだと思う」

研修医「でも、グループ1の対象歯数、グループ2より少なくないですか?」

院長「おぉ!鋭い突っ込みだね。ちょっとマニアックなところだけれども、この報告の研究デザインで年齢が重要だということを結論付けるのは難しいね。あくまで、私の臨床経験と一致するということに留めておこうか」

研修医「う~ん、話がちょっと難しいです」

院長「まぁ、研究デザインの話はまた別の書籍で勉強しよう。とりあえず、ここでは打診痛、咬合痛、軽度の自発痛があっても、歯髄が治癒する場合があって、年齢が影響する可能性があるということだよ」

研修医「わかりました」

院長「前回と今回の話をまとめると、『歯髄の治癒は感染の有無と歯髄のバイタリティー(年齢)で決まる』ということになるかな」

研修医「歯髄のバイタリティー=年齢なんですか?」

院長「説明不足だったかな。歯髄のバイタリティーを臨床的に把握する方法がないから、年齢を参考にしているということだよ。特に根未完成歯や根完成歯でも10代前半の場合、強い臨床症状があっても治癒するという、驚くような経験をすることがあるからね」

研修医「へぇ~。さっきの露髄した症例で、院長が歯髄保存した理由が、なんとなくわかってきました。でも、さっきの研究だと、6歯中4歯の治癒なので、成功率66%ってことになりますよね? そんなに高い成功率ではないですよね」

院長「そのとおり。私の経験だともう少し成功率が高いけれど、66%だと患者さんが治療を受け入れてくれるか、何ともいえないかもしれないね。まずは、術前に十分な説明をしておくことが大事だ。痛みが出てから説明しても、言い訳にしか聞こえないからね。紙に書いた資料を渡すのも効果的かもしれないね。でも、成功率を上げる方法があるよ」

研修医「知りたいです! どうするんですか?」

院長「診断がポイントだよ。最初から失敗する症例を見抜ければ成功率が上がるからね。それは次回、説明しよう」

今回のポイント
「歯髄の治癒は感染と歯髄のバイタリティーのバランスで決まる」
「臨床症状、エックス線写真で異常を認めない露髄は治癒率が高い」
「臨床症状やエックス線写真でわずかな異常があっても、若年者の場合、歯髄が治癒することがある」

参考文献
1)Mejare I,Cvek M.Partial pulpotomy in young permanent teeth with deep carious lesions.Endod Dent Traumatol,1993;9:238-242.

西本歯科医院
泉 英之