2018年06月15日
コンポジットレジン修復において、前歯あるいは臼歯部にかかわらず、解剖学的形態の回復は極めて重要な事項となります。
最終回では、歯の形態の回復について考えてみます。
歯の形態について、その特徴として注目すべき点がいくつかあります。
それをまとめたのが「ミュールライター(Muhlreiter)の三徴」で、弯曲徴、隅角徴および歯根徴の3つになります。
このうち、歯根徴は歯全体を唇側(頬側)から見た場合、その切縁あるいは咬合縁に対して歯根の長軸がつくる角度は、近心では鈍角であり遠心では鋭角となります。
もちろん、歯冠修復に直接かかわる事項とはなりませんが、歯の左右側の鑑別には重要な情報となります。
弯曲徴は、歯冠を切縁あるいは咬合面から見た場合、唇(頬)と隣接面との移行部の弯曲度が近心と遠心とで異なり、近心のほうが遠心よりも大きいというものです。
この弯曲徴が著明なのは犬歯と大臼歯であり、逆に上顎切歯ではかなり不明瞭となります。
なお、例外となる歯種として上顎第一小臼歯が挙げられますが、この歯種では遠心の弯曲度が近心よりも大きくなります。
そして隅角徴は、歯冠の唇(頬)側面における近心と遠心の隅角に現れている差異を示します。
すなわち、近心隅角は鋭く突出しているのに対して、遠心隅角はこれより鈍円となります。
これは、近・遠心面における豊隆の違いと(近心に比べ遠心でふくらみが強い)、切縁あるいは咬合縁が延伸に向かって傾いていることに由来します。
隅角徴が著明なのは、側切歯、犬歯および大臼歯であり、上顎中切歯などではこの特徴は微弱で、とくに咬耗した場合では判然としない場合もあります。
やはり、”There is no general rule without some exceptions”、すなわち例外のない規則はないことも理解する必要があります。
前歯部修復においては、まず弯曲徴として隣接面の移行部における近心と遠心それぞれの特徴を反映するようにします。
近心の移行部は直角に近く、遠心では比較的なだらかに隣接面に移行していきます。
また、隣接面の移行部の弯曲度は、歯冠幅径の見え方にも大きく影響するものとなり、これは唇側の鼓形空隙の大きさ(角度付け)にも関連するものとなります。
さらに、隣在歯とのコンタクトの位置付けを唇側寄りにすると歯冠幅径は大きく見え、舌側寄りにするとその逆に幅が狭く見えます。
同様に、上部鼓形空隙を深くすると、歯冠幅径が狭まって見えるようになります。
このように、弯曲徴と隅角徴は前歯の形態的特徴となるものであり、これを決定する因子として隣接面の移行部の位置付け、唇側における鼓形空隙、コンタクトの位置付けならびに上部鼓形空隙を考慮する必要があるのです。
前歯部のコンポジットレジン修復においては、患歯の全体の形態をしっかりと把握した後に、細かな歯面の性状を観察し、それを模倣することも大切です。
まず、唇側面における溝と豊隆です。
唇側面溝は、唇側の隆線が発達することによって相対的に溝となったもので、典型的な形態はW型になります。
もちろん、いろいろな形態があります。
唇側面溝を特徴付ける隆線のうちで、近遠心唇側面隆線は、歯の全体的な形態を決定するものともなります。
そこで、歯をいろいろな角度から観察し、その発達の程度を見極める必要があります。
次に、切縁における結節です。
比較的若い歯では、結節は明瞭に観察されますが、経年的に咬耗などによってこれは消失していきます。
さらに、ミクロ的な形態として周波条がありますが、これもまた経年的に磨耗によって消失します。
患歯と同名反対側歯を参考として、これらを修復物に取り込むかどうかを判断します。
この6回のシリーズで、コンポジットレジン修復において留意すべき事項を述べてきました。
まず、なんといっても重要となるのは、確実な接着とその耐久性獲得になります。
また、レジンペーストの選択にあたって、それぞれの製品の特性を知ることは重要となります。
そして、修復操作に関しては、残存歯質と同様の明度を付与するようなシェード選択、エナメル質様の光沢感を付与できるペースト選択、そして解剖学的形態の正確な模倣が重要です。
コンポジットレジン修復においては、レジンペーストの充填テクニックの習得も重要になります。
頭で理解することが求められる内容もありますが、充填テクニックの実際は、ハンズオンセミナーなどに参加して、その手技を習得する必要があります。
そうすることによって、コンポジットレジン修復がさらに楽しくなり、患者さんの喜ぶ診療につながると、常々考えています。
日本大学歯学部保存学教室修復学講座
宮崎真至
⇒ http://www.dent.nihon-u.ac.jp/graduate/field/o/04/index.html