2018年06月04日
コンポジットレジンに関するセミナーにおいて、比較的多くある質問に、色調適合性あるいはシェードテイキングの難しさに関するものがあります。
前回は、コンポジットレジンペーストの選択にあたっての色調の考え方として、明度の捉え方に触れました。
今回は、もう少し色調に関するお話をしたいと思います。
まず、色はどのようにして認識されるかを考えてみましょう。
ある物体に、光源から発せられた光が照らされ、一部の光が反射されてこれを網膜で受容します。
網膜には、暗い光に反応するものの色を識別できない桿体細胞と、明るい光にしか反応しないものの色を識別できる錐体細胞が存在します。
錐体細胞には赤錐体(L錐体)、緑錐体(M錐体)および青錐体(S錐体)と呼ばれる3種類の細胞があります。
これらの錐体細胞のそれぞれ異なる刺激が伝達され、視交叉を経て大脳で認識されることになります。
したがって、色の見え方に影響を及ぼす因子としては、光源の質(波長域)、光の強さ、網膜上の細胞の分布あるいは心理的ななどが挙げられます。
たとえば、光の強さが強すぎても、逆に弱くても色調を認識することはできません。
したがって、シェードテイキングを行うにあたっては、光源の種類や照度について気を付ける必要があります。
また、観察対象である歯を続けて見つめていると、その色の飽和度が次第に減少して、その後、視野と同じ場所にシェードガイドを置くと、通常とは異なった色に見えるという現象が起こります。
この現象を色順応というのですが、色を厳密に観察する際には、長時間注視をしてはいけないというのは、この現象を起こさないようにするためです。
色調あるいは色の見え方(観察者が知覚している色)に影響を及ぼす因子としては、これ以外にもいくつか挙げられます。
たとえば、面積がそのひとつで、微小面積では青や黄色が見えにくくなります。
また、色相対比という現象も重要で、同じオレンジ色でも、周囲が赤いと赤みが増して見えます。
これは、赤色の歯肉に接している歯の歯頸部付近が、赤身を帯びて観察される要因の1つになります。
歯頸部付近が赤みを帯びて見える理由としては、これ以外にもあります。
それは、歯肉に入射した光線が歯頸部の歯質を透過することで、歯頸部付近が赤みを増した色調となることです。
これは、赤い光の波長が比較的長いところから、深達性があることに起因しています。
さて、色感覚は明度、彩度および色相の三属性で表現されます。
明度は色の明るさを示し、これを上げていくと白くなり、逆に下げていくと黒になります。
また、彩度は色の鮮やかさであり、色相は黄、赤、橙、青あるいは緑など、いわゆる色の様相を示します。
歯の色調を判断する際にも、この色の三属性について考慮しますが、歯の明度は高いので、彩度や色相の違いが視覚的に大きな違いとして感じられません。
したがって、歯の色調を肉眼で決定する際には、色相や彩度よりも明度を重視することになります。
コンポジットレジン修復においては、色調が患歯のそれと同じであると判断されたレジンペーストを充填したとしても、修復後に望んでいた色調適合性が得られないことをしばしば経験します。
これは、窩洞の形態や窩壁の色調などの影響によるもので、コンポジットレジンが半透明性であることに起因しています。
歯質の裏打ちのある窩洞では、カメレオン効果を期待することで高い色調適合性を得ることができます。
しかし、とくに歯頸部修復において窩底部の象牙質の色調が濃い場合では、窩洞の色調が修復物に反映することが色調適合性を損なう要因となることもあります。
前歯部隣接面窩洞の修復においても、歯質の裏打ちがない場合では、口腔内の暗い色調が反映されて明度が低く、青黒い色調になってしまうこともあります。
これもまた、コンポジットレジン自体が半透明性という性質を有しているからです。
歯を構成しているエナメル質や象牙質もまた、光線を透過します。
その程度は、各組織の形態とともにその構成物が関与し、これによって歯の光学的な性質が決定されます。
歯の色は、反射光とともに透過光によって決定されるので、光源の位置が異なれば、見え方も変わることも理解する必要があります。
コンポジットレジン修復においては、歯の有する半透明性をいかにして模倣するかが重要であり、そのためにも明度を重視した色調選択ならびにその適合性を図ることになります。
いずれにしても、自身で使用しているコンポジットレジペーストの光学的性質を理解することが、審美性の高いコンポジットレジン修復にとっては重要なポイントとなります。
日本大学歯学部保存学教室修復学講座
宮崎真至
⇒ http://www.dent.nihon-u.ac.jp/graduate/field/o/04/index.html