2018年04月02日
それにしても、コンポジットレジン修復が臨床で応用される頻度はますます増加している感があります。
これには、マテリアルテクノロジーの弛まない発展による接着システムとともに、コンポジットレジンの開発が背景としてあります。
たとえば、ユニバーサルボンドの開発です。
ユニバーサル性とは、
多くの被着体への接着性、光重合と光・化学重合のオプション選択および異なるエッチングモードでの使用可能であることが挙げられます。
これらのうち、デュアルキュアモードの採用と多くの被着体に対する接着性の獲得については、
1990年代後半には製品化されていました。
ちなみに、その当時は、セルフエッチングの概念が世界的に広がり始めたころで、
異なるエッチングシステムの選択可能ということに関しては、2010年頃に話題となったものです。
多くの被着体に接着できるという性能は、臨床的に魅力あるものでした。
しかし、被着体ごとに異なる前処理を必要とするなど、
システムとしても複雑でステップ数も多く、テクニックセンシティブな製品と認識されていました。
そこで、接着システムの開発方向は、
ユニバーサル性の追求からシンプルなステップとした臨床的にユーザーフレンドリーなシステムへとシフトすることになりました。
その後、2000年代前半には2ボトルのシングルステップシステムが、
そしてシングルボトルのシステムと続々と製品が市販されるようになりました。
アドヒーシブのシングルステップ化は、
ただ単にレジンモノマーと重合開始材などを混合させれば完成するというものではありません。
とくに、セルフエッチアドヒーシブでは、
酸性機能性モノマーと水分の存在は重要です。
一方、光線照射によって励起したカンファーキノンは、
還元剤であるアミンなどと励起錯体を形成し、
ラジカルを生じることで多官能性モノマーの重合を開始させます。
ここで問題となるのが、接着性獲得に寄与する酸性機能性モノマーと、
ラジカルを生じさせるために欠かすことのできない塩基性アミンとの共存です。
これを可能にしたのが、日本が世界に誇る接着技術であり、
これがあったからこそ、多くの日本製品が世界で認められてきたのです。
さらに、時代は再びユニバーサル性の追求という方向となりました。
シングルステップでありながらも、
さまざまなユニバーサル性を製品に付与することは、
やはり簡単なことではありません。
もちろん、歯質接着性を示す酸性機能性モノマーの一部には、
非金属あるいはジルコニアに対する接着性を示すことは知られています。
しかし、陶材、二ケイ酸リチウムあるいは貴金属に対する接着に関しては、
シランカップリング材および金属接着プライマーの含有を必要とするのです。
ここで、とくにシランカップリング材に関しては、
その安定性を確保することが難しく、多くの製品ではこれを別ボトルにすることで確実な作用を確保しています。
ボンディングシステムの進化の1つとして、その高機能化が考えられています。
これに関しては、すでに抗菌性モノマーの開発あるいは数種類のイオン徐放性フィラーの採用などがされ、
それぞれ製品化もされています。
抗菌性モノマーの基礎となる考え方は、
メタクリロイル基を結合させた抗菌性モノマーによって歯科用レジンに抗菌成分を固定するというものです。
簡単に言い換えるならば、
重合可能な抗菌剤であり、重合時には他の歯科用モノマーと共重合し、
抗菌活性部位がマトリックスレジンに固定されるというということを特徴としたものです。
一方、イオン徐放性フィラーを用いるボンディングシステムは、
歯質の再石灰化を促進するとともに口腔内細菌に対して抗菌的な、
あるいは細菌の増殖を抑制するイオンを徐放することで機能性を発揮するものです。
現在の研究段階としては、
リン酸エッチングによって露出したコラーゲン線維が酵素の一種であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)によって
消化されることを抑制する成分を含有させることなども考えられています。
今後、歯質接着システムも、
これまでも技術的困難を乗り越えてきたことを考えると、
日本企業の底力によって、さらなる進化を続けるものと期待されます。
日本大学歯学部保存学教室修復学講座
宮崎真至
⇒ http://www.dent.nihon-u.ac.jp/graduate/field/o/04/index.html