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【6】炎症はこうイメージすれば理解しやすい! ~火事だ、火事だ! 炎症だ! 硬くなるぞ!! がんになるぞ!!!~

2016年12月19日

こんにちは。

米永一理(よねなが かずみち)です。

前回は、口腔領域の大切さを脳科学的にお話ししましたが、いかがだったでしょうか。

さて、今回もとくに教科書には書いてないけれど、患者さんや家族から「歯医者さんのお話ってわかりやい!」
と言われるような内容をまとめみようと思います。

今回は、炎症に関してお話をします。

たき火の痕や火事の焼け跡を思い出してください。

おつらい思いをされた経験者にとって酷な話で恐縮ですが、焼けた跡は荒地になっており、凸凹と汚らしく、
いたたまれない気持ちになることすらあるかと思います。

体で起きる炎症は、感染や異物などによる生体防御反応であることが多いですが、
体内で戦闘により火事が起こっていることと同じと考えるとわかりやすいです。

細菌・ウイルスや異物が、体内の細胞を痛めつけるような刺激を加えることが、体内で火事を起こさせていることになります。

火事が起こると生体は血管透過性を亢進させて、浸出液を出し、直接患部を消火するだけでなく、
血管内の好中球やリンパ球などの消火部隊を投入し、火種を消しにかかるようになります。

つまり免疫機能も働くようになります。

免疫の話は、ヘルパーT細胞(CD4+細胞)を将軍とした戦国時代の物語で考えると面白いです。

自陣(体の中)に敵(ばい菌:抗原)が入ってくると、まず、見回りをしている歩兵(好中球)が侵入を食い止めようと襲いかかります。

しかし歩兵なので強敵には勝てません。

そこで数は好中球より少ないもののNK細胞(火縄銃の鉄砲部隊)が加勢します(細胞性免疫)。

しかし弾は意外と当たらず、当たっても致命傷を与えることができません。

それどころか、敵に当たらなかった弾が自陣を荒らしてしまいます(発赤・炎症の増悪)。

さらに歩兵(好中球)の死骸が溜まり始めます(膿)。

すると伝令部隊(マクロファージ、樹状細胞)が敵の破片を拾って、
将軍であるヘルパーT細胞に「このような敵が侵入してきました」と報告しに行きます(抗原提示 1)。

怒ったヘルパーT細胞は、スナイパーであるB細胞に敵の人相を教え、狙い撃ちの指令を出します。

B細胞は敵に合わせた武器を武装して(形質細胞)、敵を狙い打ちします(液性免疫)。

またB細胞も敵の状態(戦況)をヘルパーT細胞に報告します(抗原提示 2)。

ここでまだ敵が撃退できなさそうであるとヘルパーT細胞から、ミサイル部隊(細胞障害性T細胞=キラーT細胞)の出動が命じられます。

するとキラーT細胞はミサイルを発射し、敵だけでなく歩兵などの仲間共々ぶっ放します。

するとさらに強い炎症反応が起こり、自陣は荒野になりますが、戦いは終わります。

たとえばワクチン接種は、このなかであらかじめスナイパーのB細胞を武装させ敵が侵入してきたらすぐに狙い撃ちができるようにしている状態です。

簡潔に書いてしまいましたが、免疫の話はマンガにするときっと面白いだろうなと思います。

いろんな敵(菌だけでなくウイルスやがん細胞などなど)が入ってくるごとに、さまざまな免疫系の部隊が出動することにより物語を作れるので、
三国志のような壮大なワクワクする話になるかと思います。

少し話がそれましたが、つまり炎症は、生体に対する刺激で起こり、炎症が起こった組織は荒地のようになってしまいます。

この荒地は一般的な創傷治癒の過程と同じで数か月で元に戻ります。

しかし、炎症が続けて起こると、すなわち刺激が続けて加わると、やがて生体反応として硬化組織となり、
さらに刺激が加わり続けると一部がん化してくることがあります。

がん化する要因としては遺伝要因と環境要因がありますが、環境要因の大部分が何かしらの刺激により炎症が芽となっていることが多いです。

もっとわかりやすい例が肝炎でしょう。

肝炎は10年ほど続くと肝硬変を起こし、さらに10年ほど続くと肝がんとなる傾向にあります。

同様に、がんができるやすい場所は刺激が多い箇所である場合が多いといえます。

たとえば胃がんや大腸がんはよく聞きますが、小腸がんはあまり聞きません。

胃がんはピロリ菌感染による慢性炎症が起因となっていることが多く、胃潰瘍を起こし、やがて胃がんになります。

大腸がんは悪玉菌を含む便塊が停滞し刺激する箇所に多くみられます。

つまり大腸がんのなかでも、場所による発生頻度の違いがあり、直腸がんがもっとも多く、次いでS状結腸がんです。

同じようなこと口腔がんでも言えて、口腔でももっと刺激が多い舌のがんが多く、
そのなかでも歯の擦過刺激の多い舌縁部のがんが多い傾向にあるかと思います。

つまり、いかに慢性的な刺激を加えずに炎症を起こさせないかが、がん予防へつながるといえるます。

現在、歯周病菌をはじめさまざまな口腔内細菌の全身疾患への影響がいわれています。

たとえば歯周病があると、アルツハイマー型認知症になりやすいとか、動脈硬化を起こしやすいとか、糖尿病になりやすいとかです。

いずれも菌が歯周組織から血管に侵入し、アルツハイマー型認知症であれば脳で炎症を起こすことが起因となっていると考えられています。

まだまだ正確な因果関係は不明な点もありますが、上記のような炎症から細胞障害が起こる機序を考えると、
さまざまな疾患の原因が、口腔から敵(抗原)が侵入することで起こりうることをイメージすることができるかと思います。

さて、今回のまとめです。

 [1]炎症があると硬くなり、がん化する
 [2]免疫は、物語で考えるとわかりやすい
 [3]歯周病菌・口腔内細菌が、全身の炎症の起因となりうる

3か月にわたり、計6回メールマガジンを皆様にお届けしてきました。

多くの先生方からご意見いただき、非常に嬉しく思うとともに、心から感謝申し上げます。

今後の予定ですが、月刊ザ・クインテッセンスで「多職種連携が楽しくなるマメ知識」のテーマのもと、
2017年1月号からコラム連載を始めさせていただきます。

また、今年12月17日には文部科学省未来医療研究人材養成拠点形成事業「最先端の在宅医療を考える」(会場:東京大学)、
12月23日には口腔医科学会(会場:東京大学)、
来年2月26日には日本訪問歯科協会(会場:御茶ノ水)に、
今までの内容を含めてお話しさせていただく予定です。

最後に、小生の目標を一言。

それは僭越ではありますが、
今まで諸先輩方が築いてこられた歯科医療を、より発展させ、後世に受け継いでいけるようにすることです。

超高齢社会を迎えたことで、今後は在宅などで患者さんだけでなく、ご家族や多職種の方々に歯科医師の姿勢を見てもらう機会が増えるかと思います。

姿勢を見てもらえることは、歯科医師が、今以上に小中高生にとって魅力ある憧れの職業となる可能性を秘めています。

そのためには、歯科医師がまじめに、楽しんで、わくわくするような仕事をしているかを示すことが大切だと思います。

各歯科医療関係者が積み上げた実績が、社会評価となり、国の政策に反映され、歯科医療の発展につながればと思います。

そのために少しでもお役に立てますと幸いです。

このたびは、お読みいただき誠にありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

※本メールマガジンは、わかりやすくするために「ざっくり」とした内容です。詳細は各領域の成書をご参照ください。

東京大学医学部附属病院顎口腔外科・歯科矯正歯科 助教
医学博士(東京大学)
米永 一理