2016年10月17日
こんにちは。
米永一理(よねなが かずみち)です。
前回の糖尿病の内容はいかがだったでしょうか。
おかげさまで思いのほか反響をいただき、うれしく思っております。
さて、今回もとくに教科書には書いてないけれど、患者さんや家族から「歯医者さんのお話ってわかりやい!」
と言われるような内容をまとめみようと思います。
今回は、高血圧に関してお話をします。
1.血圧が高いとなぜいけないの?
日本における高血圧症患者は約4,300万人いるとされています。
じつに成人人口の約40%にあたります。
このことは、私どもの対象である歯周病菌感染者の約8,000万人には及ばないものの、
糖尿病などとともに、主要な生活習慣病として予防が啓発されている一因となっています。
一般的には、収縮期血圧が140mmHg以上、または/かつ拡張期血圧が90mmHg以上を高血圧症と診断しています。
一方で、至適な血圧は、収縮期血圧が120mmHg未満、かつ拡張期血圧が80mmHg未満であるとされています。
では、血圧が高いとなぜいけないのでしょうか。
ざっくり述べると、血管はゴムチューブのようであり、血圧が高いとそれに抵抗するように血管が硬くなる動脈硬化の状態となります。
これは劣化したゴムチューブと同様な状態であり、血管内プラークや動脈瘤を形成するようになります。
すると脳梗塞や心筋梗塞、動脈解離の危険性が増します。
ここで、前回の糖尿病の話を思い出してください。
糖尿病は、血管内に金平糖がたくさん流れている状態であるとお話しました。
生活習慣病である高血圧、糖尿病は併存している場合が多く、高血圧で糖尿病があると、
つねに金平糖が高い圧力で血管壁にぶつかっていることになります。
すると血管壁はつねに引っかかれているような状態となります。
つねに引っかかれると、つねに血管壁はダメージを受けていることとなり、動脈硬化が起こりやすく、
さらに血栓・塞栓形成や動脈解離を起こしやすい状態になることがイメージできるかと思います。
高血圧になる原因としては、90%が本態性(1次性)高血圧症であり、生活習慣が大きく関与している場合が多いです。
一方、10%が続発性(2次性)高血圧症であり、甲状腺機能亢進症や、褐色細胞腫などの原疾患が起因となっています。
2.1日の塩分摂取量を把握していますか?
この本態性高血圧でとくに問題となるのが、塩分です。
塩分の摂取過多は高血圧の原因であり、高血圧は心血管疾患や脳卒中のリスクを高めます。
学生時代を思い出してください。
基礎医学で、電解質の生体内の分布として、細胞内は主にカリウムが多く、細胞外はナトリウムが多いことを学んだかと思います。
つまり、生体内に取り込まれた塩分は、細胞外に水をたくさん引っ張ってくるため、
塩分量が多いと結果的に血管内の血液量が多くなってしまい(容量負荷の状態)、血圧が上がります。
よって、現在皆さまもご存じのように減塩が国を挙げて推進されています。
厚生労働省の公表している「日本人の食事摂取基準2015年版」では、男性8.0g/日未満、女性7.0g/日未満です。
つい最近までは10g/日未満が基準でしたので、少しずつ厳しくなってきています。
また、日本高血圧学会のガイドラインでは、6g/日未満を推奨しています。
さらにWHO(世界保健機関)では、5g/日未満を推奨しています。
しかしながら、実際の日本人の摂取量は10.4g/日です。
このことは、1950年代、ある県での塩分摂取量が約28g/日であったことを考えると、だいぶ減塩が定着してきている傾向にありますが、
日本がもともと塩分摂取量の多い風習があることに変わりはありません。
皆さんは、1日に摂食されている食事の塩分量を把握しているでしょか。
たとえば朝ごはんをイメージしてみてください。
ざっくりですが、鮭1切れで2.1g、ウインナー2本で0.6g、梅干し1個で2.9g、味噌汁1杯で1.9g程度であり、計7.5gになります。
また、お昼にファミリーレストランなどで体に良さそうだからといって、サラダうどんを注文することはないでしょうか。
塩分量は7g前後あります。
さらに、夜にすき焼きなどはどうでしょうか。
塩分量が6g前後あります。
合計すると20g/日を超えてしまいます。
つまり、1食で日本高血圧学会のガイドライン値を超えてしまう可能性すらあるのです。
減塩醤油や、減塩味噌などさまざまな減塩調味料が発売されていますが、日本人が家庭で調整できる塩分は1日当たり2~3g程度であるとされており、
これらによる減塩効果は1g程度でしかありません。
そもそも加工食品を多く摂取する傾向にあるため、食品購入の段階から、塩分量を気にする必要があります。
つまり加工食品や、うどんやかまぼこなどの練りもの、そして駅弁などの冷めても味がしっかりとしているものは塩分量が多い傾向にあります。
一方で、マクドナルドのポテトフライなどはMサイズで0.5g程度と、意外と塩分量が少ないのです。
練りこんであるのではなく、外に塩をふりかけているものは、味がしっかりしているわりには塩分量が少ない傾向にあります。
現状では、食品表示は「ナトリウム(Na)」量で記載されていることが多く、
分子量が23であるのに対し「塩化ナトリウム(NaCl)」は分子量が58.5です。
よって、「ナトリウム」量に2.54(=58.5÷23)倍した値を計算しながら塩分量を考える必要があります。
なお、2015年3月に食品表示基準が制定され、食品の栄養成分表示は2020年までには、原則として、
「ナトリウム」は「食塩相当量」で表示されることになる予定です。
参考までに米国のデータを記します。
米国人の平均的な塩分摂取量は1日あたり8.6gです。
この米国の食事ガイドラインでは塩分摂取量は5.8g/日未満を推奨しています。
米食品医薬品局(FDA)によると
「米国人が日常的に摂取している塩分の77%は加工食品やレストランなどの飲食店で提供される食事に含まれているもので、個人の努力で減塩を試みようとしても推奨される塩分量を抑えることは難しいのが現状である」
と説明しています。
そして、塩分量を40%減らせば10年間で50万人の死亡が回避でき、約10兆円の医療費が削減できると試算しています。
つまり、日本においても、減塩は国家財政を鑑みて非常に重要であると思います。
さて、今回のまとめです。
[1]高血圧は、塩分摂取が関与していることが多い。
[2]高血圧と糖尿病の合わせ技で、脳血管障害のリスクがグーンとUP
[3]1日の塩分摂取量を把握して、6g/日未満を目指そう。
次回は、最新のキーワードである
NBM (Narrative-Based Medicine) vs EBM (Evidence-Based Medicine)
に関して記そうかと思います。
※本メールマガジンは、わかりやすくするために「ざっくり」とした内容です。
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東京大学医学部附属病院顎口腔外科・歯科矯正歯科 助教
医学博士(東京大学)
米永 一理