2017年02月06日
このメールマガジンも今回で3回目になりました。
1回目では、これからの歯科は10年以内に歯科医師過剰問題が解決されると思われる根拠について書かせていただき、
2回目は、自由診療を増やすにはどうしたらよいかについて書かせていただきました。
そこで3回目は、これから開業する先生や分院長、副院長先生のために、
「エビデンスに基づく、患者さん・スタッフとうまく付き合う方法」
を書きたいと思います。
私は開業当初、
「今日の売上げはいくらか?」「レセプトは何枚?」
などはいっさい考えないことにしていました。
それは、「1人ひとりの患者さんに精一杯向き合った結果がその金額なら、いくら数字とにらめっこしても何も状況は変わらないから」です。
もし増患に成功したとしても、スタッフとの連携が悪ければ、患者さんをきちんと診ることができなくなってしまいます。
多くの患者さんが来てくれても、対応が今ひとつだとしたら、メインテナンスには通ってくれません。
以前も少し書きましたが、治療主体の医院では限界があります。
そう、歯科医院経営において一番重要なのは“良好なコミュニケーション”なのです。
では本題に入ります。
先生方のなかに、スタッフが思いどおりに動いてくれない時についつい怒ってしまう先生はいらっしゃいませんか?
逆に、「私はスタッフを怒ったことはありません」という先生もいらっしゃるかもしれません。
しかし、スタッフにできないことがあると、
小さい声で嫌味を言ったりしていませんか?
自然研究機構生理学研究所の定藤教授の研究で、
「他人に褒められると、金銭報酬を得たときと同じように脳の線条体が活発に働く」という研究結果があります。
これにより、運動技能の習得がより上手に促されることが科学的に証明されてします。
最近、アシカのショーなどでムチを仕込むなんて見ないですよね。
何かできたら魚をあげていると思います。
叱るより、褒めたほうが、動物は早く物事を覚えます。
人間も所詮は動物。
これを応用しない手はないのです。
例を挙げると、スタッフ教育で、新人がモノの場所を覚えてくれないとします。
そこで、
「いつになったら覚えるんだ! 前にも教えたはずだろう!」
と怒るのは簡単です。
しかし、それでは怒られたスタッフは萎縮してしまい、
脳が十分に活性化されず、また場所を忘れてしまいます。
そうです、怒ることのメリットとは、
怒った本人が少しスッキリするというだけで、
失うもののほうがはるかに多いのです。
デール・カーネギー先生の『人を動かす』という名著にも、再三このことが書かれていますので、
お時間がありましたら、お読みいただけるとよろしいかと思います。
そして、褒めて伸ばすのは、スタッフのみならず、患者教育にも絶大な成果をあげてくれます。
医院経営をストレスなく維持していくためには、
リコール率を上げることがいちばんだと私は思っています。
私は、少ない初診の数をリコール率の高さでなんとかカバーできないものかと、本当に四苦八苦しました。
リコールハガキに手書きで一言添えるなどは当然やったのですが、今ひとつ伸びませんでした。
では、どうすればリコール率が良くなるのか。
たどり着いたのは、
毎回「なんでもいいから、患者さんのお口のどこかを褒める」ことでした。
まずはリコールに結びつかないパターンを例に出すと、
「ここが磨けていないですね、次回のお掃除の時までにがんばってくださいね」
という一般的な会話。
先生的には、改善点を指摘し、
なおかつリコールに結びつける形で問題ないとお考えでしょう。
しかし、患者さんはただでさえ見られたくないお口を先生や歯科衛生士に見せているのです。
そこに加えてダメ出しされてしまうと、打たれ弱い患者さんは
「また怒られてしまった。もう行きたくない」
という発想になってしまうのです。
あと、「がんばってください」と言うのも問題です。
よく、鬱の人に「がんばれ」というと、逆効果になると言いますよね。
患者さんはどんなに磨けていなくても、
本人的にはがんばっている場合が本当に多いのです。
先生にがんばれと言われると、
「先生は私のことを全然わかっていない」と思われてしまうのです。
まずは何かしら褒めてさしあげて、
定期的にメインテナンスに来てもらうことをめざしましょう。
それが第一歩だと思います。
では、リコールにつながる話し方を例にあげます。
前提として全然磨けていない患者さんに
「歯ブラシは1日に何回くらいやってらっしゃるんですか? え、1回か、0回?全然磨かなくてもこんなに歯がしっかりしているなんて、すごいですね!でも、これを3回にしたらもっと良くなりますね!今日は、お口の中のお写真を撮らせていただきますので、3回磨く効果が本当にあるか、一緒に見てみましょうね」
この会話には、3つのポイントがあります。
1つは、仮に磨けていない患者さんでもまずは褒めること。(でもここが一番難しいのですが……)
2つ目は、3回磨けとは言わないこと。
「もしこうしたら、こうなりますよね」程度にとどめておく。
リコールのたびに、ゆっくりでいいので、磨けるようにしてあげられれば良いのです。
そして3つ目。
これは写真を撮るというのが大きなポイントです。
患者さんからすれば、写真に自分自身のウィークポイントの口腔内を撮られるのは恥ずかしいことなのです。
きれいに磨けている患者さんには効果が弱い手法ですが、
あまり磨けていない患者さん、詰め物、被せ物が脱離したままの患者さんには効果は絶大です。
「あなたのお口の状態はこんなふうになっています。最後まで通ってくださいね」
と言えば、患者さんも最後まで付いてきてくれることでしょう。
口腔内撮影に慣れていない先生にはなかなかハードルが高いかもしれません。
そんな先生には、カシオ計算機の「オーラルショット」が非常におすすめです。
一眼レフでは女性スタッフが片手で撮影するのは困難で、男の私ですら重く感じてしまいます。
でも、「オーラルショット」なら誰でも安心です。
また、「オーラルショット」はコストが飛び抜けて安いことも魅力です。
カメラの入門機としては最高かと思います。
フォーカスがモードによってあらかじめ決まっているので、慣れてしまえばバラツキのない写真がどんなスタッフでも撮影できます。
また、マイクロスコープも患者教育には非常に有効です。
磨けるようになってきた患者さんでも、染め出しした後にマイクロスコープで観察すると、
どこかしら磨けていないところがあることがほとんどですし、磨けている患者さんほど、
改善点があれば前向きに取り組んでくれることが多いので、非常に有効です。
では、スタッフ教育の話に戻しましょう。
先生方のなかに、
「スタッフはなるべく楽をしようとする。自発的にクリニックのために動いてくれない」とお悩みの方はいらっしゃいますか。
ハーバード大学の公衆衛生の先生が、ハーバードの学生と職員に対し、
「自分の収入が50,000ドルで、自分以外の人の平均年収が25,000ドルの世界と、自分の収入が100,000ドルで、自分以外の人の平均年収が200,000ドルの世界では、どちらを選択するか?」
という質問をしたそうです。
回答は、前者と答える人が圧倒的多数だったそうです。
冷静に考えて、年収100,000ドルのほうが半分の50,000ドルより絶対に良いに決まっているのに、なぜそんなふうに考えるのか。
それは、人間とは非常に愚かな生き物で、
「快楽の本質より、相対評価で自分のポジションがどこにあるかのほうが大事」だということです。
先生のクリニックに、スタッフが3人いるとします。
1人1人はとてもまじめで良い子です。
でも1人は、他の2人よりも楽をしようとしていて、じつは別の子も同じことを考えている。
これは、私のクリニックで実際に起こったことで、読者の先生方も決して他人事ではないはずです。
上記のハーバード大学の話を拡大解釈すると、ある程度大変でも、
周りのスタッフはもっと大変だと思える環境にしてあげれば、スタッフの怠け癖は改善できるのです。
しかし、1人を虐めて、他のスタッフのストレスから目を逸らすというやり方は私にはできませんでした。
では、私が行った具体的な方法を示します。
診療前の朝の準備が、グズグズして捗らないとします。
そんな時にスタッフに怒鳴り散らすのは前述のとおり効果的ではありません。
ではどうするか。
「院長自らが無言で黙々と準備をする」
これが一番効果があり、スタッフとの関係もこじらせることがありません。
実際、私もこの手法でスタッフの怠け癖を改善することに成功しました。
人間は自分よりかわいそうな人には優しいものです。
院長自ら、一生懸命準備に精を出すと、スタッフも
「あ、ちょっと楽しようとしていたかもしれない」と気づいてくれるはずです。
今回は、スタッフ・患者教育についてお話しさせていただきました。
次回もよろしくお願いいたします。
ほうじょう歯科医院 新日本橋
北條 弘明
⇒ http://www.hojoshika-shinnihonbashi.com/