2015年11月02日
(1) コミュニケーションは相手に変化や行動を起こさせること
前回は、
「正論や、自分の希望をそのまま伝えるのではなく、一度、頭の中で考えて、それを相手の期待していることに加工し直し、
理解できる言葉で伝えるようにすることで、コミュニケーションギャップは少なくなる」
というお話をさせていただきました。
大切な部分なので、今回は、もう少し具体的な説明をさせていただきます。
コミュニケーションのゴールは、
相手の心理に変化を起こし、相手が行動を起こすようになること。
どんなに会話が盛り上がっても、その結果、
相手に変化や行動を起こすことがなければ、それは単なる言葉のやり取りで、
コミュニケーションではありません。
ほとんどの人は、相手を動かそうとするとき、正論を振りかざします。
「仕事なんだから指示されたことをするのが当たり前」
「プロなんだから積極的に勉強をして当然」
などなど、どれをとっても、誰も反論できない正論です。
しかし、こういった正論を伝えたときに、
「言ってることはわかるのですが、納得できません」
「そうしたほうがいいのはわかるのですが……」
といった反応が返ってきたり、相手が沈黙したままになってしまった経験が
あるのではないでしょうか。
正論だから、相手に受け入れられるとはかぎりません。
そもそも、経営者における正論と、雇用者における正論が異なるからです。
たとえば、
「プロとしてスキルアップをするのは当然。休みはなくなるかもしれないが、身につけた知識や技術は自分のものになるのだから、
休診日に勉強会に参加するべき。研修費用まで医院側で出すのだから、こんないい医院はない」
と考えていないでしょうか。
確かにこれは正論。
経営者の正論です。
一方、スタッフは
「決められた時間、きちんと働いていているのだから、休みの日にまで勉強会に行く必要はない。
オンとオフをきちんと使い分けることができなければ、良い仕事はできない」
と考えています。
これも間違えた考えではありません。
つまり、スタッフの考えも正論なのです。
このように正論同士がぶつかった状態になると、
互いに相手の意見を受け入れることはできなくなります。
ですから、正論を振りかかざしても、
コミュニケーションのゴールを達成することはできないのです。
(2) 人の行動の源泉は「快楽の追求」と「痛みの回避」
では、どうすればいいのでしょうか?
人間の行動の源泉は「快楽の追求」と「痛みの回避」です。
つまり、人は
「喜びや楽しみがあるとき」
「問題や悩みが解決されるとき」
のどちらかの理由があるとき、行動を起こすが、
それ以外の理由で、人間が行動を起こすことはないということです。
この点さえわかると、コミュニケーションのゴールを達成するのは
難しくありません。
なぜなら、こちらの要求や要望を伝えるとき、
それが受け手の「快楽の追及」か「痛みの回避」につながるようにすれば、
相手は行動を起こすようになるからです。
たとえば、
「休日に勉強会に参加してスキルアップしてほしい」
という要望を伝えたいとき、それを実行することで、
受け手はどのような喜びや楽しみ、
あるいは、問題や悩みの解決を手に入れることができるのでしょうか。
院内でのポジションが上がる、
評価が高まる、
収入が増える、
患者さんに喜ばれる、
仕事が楽しくなる、
生涯使えるスキルが身につくなど、
いろいろと考えられます。
次に、その中で、そのスタッフが求めているもの、
すなわちニーズが何かを考えます。
たとえば、そのスタッフが収入を増やすことを求めているのなら、
「このスキルを身につけてもらえれば、ボーナスの評価を高めることができるんだけど、この日曜日は忙しい?」
と切り出すわけです。
もし、そのスタッフが、将来の安定性を求めているなら、
「今後、結婚や妊娠で一度退職したとしても、旦那さんの転勤についてどこに行ったとしても、
間違いなく高い給料で雇用してもらえるスキルが身につくセミナーがあるのだけど、参加してみる?」
と切り出せばいいのです。
そうすれば、単に「今度の日曜日にセミナーに行ってみない」と聞くよりも、
YESを取る可能性はぐんと高くなります。
(3) 相手に希望どおり動いてもらうための5つのステップ
このように、聞き手に、要望や希望どおりに動いてもらうには、
次のようなステップで考えるようにします。
[1] 自分が受け手に伝えたい要望を明確化する
[2] その要望を実行することで、受け手のメリットを考える
[3] 伝える相手のニーズを考える
[4] [2]の中から、相手のニーズを満たすものを選び出す
[5] 受け手に受け入れられる表現を考える
このように「自分の要望」と
「要望を実行することのメリット」、
そして「受け手のニーズ」を考え、
その3つが重複するカタチで受け手に伝えることで、
受け手に行動を起こさせやすくできるのです。
この中でポイントになるのが、「受け手のニーズを把握する」こと。
人間は、実にさまざまな欲望を持っています。
楽をしたい、
美味しいものが食べたい、
眠りたいといった刹那的なものから、
収入を増やしたい、
休みがほしいといった個人的なニーズ。
人に嫌われたくない、
常識的な人でありたい、
褒められたい、
認められたい、
地位や名誉がほしいといった対人関係や集団の中におけるニーズ。
そして、
社会に貢献したい、
人に喜ばれたい、
誰かの役に立ちたいといった、
対社会に関係するニーズ。
その中で、何を重要視し、何を手に入れたいと思っているのかは、
個々人によって異なります。
人を動かすコミュニケーションとは、自分の要望や希望を聞くことで、
その人の欲求を満たすことができることを伝えるコミュニケーションです。
そして、どんな欲望を持っているのかは人によって異なるので、
その人のニーズを知らないかぎり、人を動かすことはできないのです。
ですから、スタッフを動かそうと思うなら、
「一人ひとりに関心を持つこと」が不可欠になります。
どんな価値観を持っていて、
どんなふうに考えたり、
物事をとらえる癖を持っていて、
どんなふうになりたいと思っているのか。
そういったことを知ることで、
コミュニケーションでその人を動かせるようになるのです。
けっして、一律に考えてはいけないし、
正論は正しいから受け入れられるなどと考えていてはいけないのです。
人間は、自分にとってメリットがあり、周りの人に喜ばれ、
社会の役にも立つ場合なら、もっとも、行動を起こしやすくなります。
スタッフに、なんらかの提案や要望を伝えるときは、
一度立ち止まって、先ほどの5つのステップで考え、
それを、上記の条件を満たすカタチで表現するようにする。
そうすることで、共感を起こし、
相手に行動を起こさせることができるようになるのです。
医療法人社団いのうえ歯科医院 理事長
歯学博士・経営学博士
井上 裕之
⇒ http://www.inoue-dental.jp/