2012年11月22日
Q 10年以上にわたって勤続してきたスタッフが、12月末日をもって家庭の事情で退職することになりました。このスタッフから「3年以上勤続した場合は退職金がもらえるはず。退職金はいくらもらえるのですか?」と訊かれたのですが、3年以上勤続した場合は、退職金を支給しなければならないのでしょうか。
もし、支給しなければならないとしたら、退職金の支給額の相場というのはあるのでしょうか。
A 就業規則に、退職時には退職金を支給する旨の定めがされていないのであれば、勤続年数の長短にかかわらず、退職金を支給する義務はありません。
ただし、就業規則に退職金支給に関する明確な定めがされていない場合であっても、これまで退職した者にはほぼ全員に退職金が支給され、支給基準も同一であったような場合には、今後退職する者に対しても退職金を支給しなければなりません。
公務員とは異なり、民間医院などに対しては、法律では退職金の支給を義務づけてはおりません。
どんなに勤続年数が長いスタッフが退職する場合であっても、退職金を支給しないからといって、法律違反に問われることはないということです。
ただし、就業規則に退職時には退職金を支給する旨の定めがされているということであれば、当該規則の定めにもとづき退職金を支給しなければなりません。
就業規則は、使用者である医院が労働者であるスタッフに対して約束した労働条件の内容を記したものでもあります。
就業規則に、退職金を支給する旨を定めてあるということは、スタッフに退職金を支給するという約束をしたことになりますので、この約束は守らなければならないことになります。
なお、就業規則に退職金を支給する旨の定めをする場合であっても、その支給基準(勤続何年以上の者にいくら支給するかなど)についての法的な決まりも、相場というものもありません。
医院の財政状況に応じた基準を定めていただくことでかまわないということです。
したがいまして、退職金は、法律上の支給義務はないのですが、就業規則に退職金を支給する旨を定めた瞬間に、退職金の支給義務が生ずるということになります。
退職金を支給したくないということであれば、就業規則に退職金を支給する旨の定めをしなければいいということです。
これを機会に就業規則の内容を確認してみてください。
しかし、就業規則に退職金を支給する旨の定めがない場合であっても、退職金の支給義務が生ずるケースがあります。
退職者に対する退職金の支給が、労使慣行として成立していたとみなされる場合です。
労使慣行とは、企業社会一般または当該企業において、一定の事実が相当期間にわたり継続して行われ、これに従うことが労使双方で当然とされている場合をいいます。
退職金の支給に関し、就業規則上に何ら定めはされていなくても、これまで退職した者には、ほぼ全員に退職金が支給され、支給基準も同一であったような場合は、退職者には退職金を支給するという労使慣行が成立しているとみなされることになります。
一般的にこの労使慣行は、次の3つの条件を満たす場合に成立すると考えられています。
労使慣行が成立しているとみなされると、この労使慣行は就業規則と同じ位置づけにあるとされます。
つまり、就業規則に退職金を支給する旨を定めた場合と同じように、退職金の支給義務が生ずるということです。
なお、この場合は相当の理由もなしに一方的に退職金の支給を打ち切ることはできません。
就業規則に退職金支給についての定めがある場合も同様ですが、景気低迷で経営が悪化したためであるとか、退職金支給を打ち切るにあたっての相当な理由が存在するのであれば、スタッフに十分に事情を説明するなどして、納得を得るように努めていただくことが必要です。
退職金支給を打ち切るにあたっての相当な理由が存在する場合であっても、スタッフに十分な説明をせずに、一方的に退職金の支給を打ち切ってしまうと、退職金の不支給が法的に認められないということにもなりかねませんので要注意です。
社会保険労務士法人 フォーブレーン
代表 稲好 智子
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