2016年09月20日
こんにちは。
前回までに、健康増進型歯科医院(以下、健康増進型DC)として、患者さんや生活者、そしてスタッフの健康増進を実現するためのお話をしました。
健康増進型DCは、健全な経営なくして不可能ですし、刹那的な想いのみで継続性を担保することは、これまた困難であろうと思われます。
最終回では、健康増進型DCという理想郷を支える「健康経営」についてお話しします。
1.健康経営とは?
健康経営とは、特定非営利活動法人<健康経営研究会>が提唱している経営方式で、
「企業が従業員の健康に配慮することにより、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤に立ち、
健康管理を経営的視点からとらえ実践することを意味します。
第5回目のコラムで指摘した「健康増進的働き方」は、この健康経営が基盤となっています。
個々のスタッフに、健康と向き合う環境が備われば、生産性が向上し、企業体質が「健康」になる、という考えです。
健康経営という思考は、今、国内で広がりを見せています。
昨年3月には、「健康経営」に優れた東京証券取引上場企業が、経済産業省より、
「健康経営銘柄」としてはじめて22社選定され、本年度は25社選定されました。
日本政策投資銀行などの金融機関では、金利優遇(0.2~1.1%)や融資期間優遇(20年)など、健康経営企業を支援するサービスが出てきています。
また、従業員の住宅ローン優遇措置のプランなるものも検討されている模様です。
2.健康増進型DCが経営面で成果を得るには?
では、いかにすれば健康増進型DCが健康経営を実践し、成果を上げることができるのでしょうか。
まずは健康増進型DCのコンセプトをスタッフに理解させ、スタッフの健康に配慮します。
あわせて、ヘルスコーチングを基盤とし、定期健診の強化を図ることで、経営の安定を実現します。
ヘルスコーチングでは「一緒にいる」の構築をめざし、信頼関係の強化に努めます。
ここでのポイントは、
「エンドポイント(最終ゴール)は定期健診の受診率を上げることではない」
ということです。
その先に、生活者や患者さんの行動変容を見据えていることが重要です。
定期健診の受診率向上は、行動変容という最終ゴールの通過点にすぎません。
ですからスタッフは受診率向上に満足せず、その先の行動変容を見据えます。
結果として、定期健診の高い受診率が維持でき、経営が安定します。
一例として、当院のカルテ枚数の変化(※移動年計)を紹介します。
※移動年計とは、1年間の累計額を、1か月ずつ移動させて計算する方法です。
月々の変動、季節変動等に影響されないで、純粋に売上等の変動を見るための道具で、これをグラフにすると、トレンドの視覚的理解が容易になります
このように、健康増進型DCへの移行後、カルテ枚数が増えています。
ヘルスコーチングや健康増進型の働きかけは、「健康増進」という目的を明確にすることにより、生産とは無縁に思える行為でありながら、
患者さんやスタッフの信頼関係の強化につながり、ひいては定期健診の受診率向上を基盤とした経営の安定につながることになります。
3.経営の安定は企業の幸福度と健康度を上げる
2005~2011年の「ギャラップ世界世論調査」が、世界135か国の806,526人から得られた回答を基にした研究によると、
お金が幸福につながるという意識に変わりはありませんが、もっとも大切な事柄は、
そのお金が宝くじやストックオプションなどによって突如として得られる金銭ではなく、長期にわたり安定して得られる収入増ということでした。
調査は、安定収入増が個々の幸福度を高めると結論付けました。
他方、平成19年度内閣府経済社会総合研究所委託調査で京都大学の研究グループは、
就労を基盤とした安定収入が高い健康度を示すことを示唆しています。
企業とて同じで、安定的収入を得ることによって健全経営が可能です。
「企業は人なり」という言葉があるように、企業の健康度は、その企業にかかわる人たちの幸福度や健康度にかかわります。
健康増進DCは、患者さんや生活者の健康増進を見据えた定期健診を強化することで、安定経営を実現し、スタッフの健康度を維持します。
第1回コラムでも触れた事項ですが、歯科医院の目的を「健康増進」とセットすることによって初めて、
歯科臨床、歯科経営、スタッフ教育が有機的につながります。
そして結果として、経営成果が上がり、スタッフにさらなる自身が芽生えます。
4.健康経営で大きな影響力をもつ経営者
健康経営の結果如何は経営者にかかっています。
健康増進型DCにおいて、患者さんやスタッフの健康に影響を及ぼす要因は、紛れもなく院長です。
院長は、疾病管理の範疇を超え、健康増進を実現するパワーをも備えています。
当然のことながら、健康増進型DCが一朝一夕で確立されません。
したがって、院長はまず自らが「完璧な健康」に向き、そして、医院を気長に健康増進型DCにシフトする勇気をもち、
さらには、スタッフや患者さんに健康増進を訴え続ける必要があります。
5.健康増進型DCでの院長の心構え
健康増進型DCでの院長の本質的な心構えは、他者への貢献感に他なりません。
スタッフがヘルスコーチングで患者さんと向き合うのと同様に、承認欲求を捨て、他者への貢献感を感じることが重要です。
院長が、患者さんのため、スタッフのため、そして社会のため、という心構えを持ち続けることが、
健康増進型DC成功への道ではないかと思われます。
とはいえ、フィンランド症候群の項で指摘したとおり、無理は禁物です。
医院個々は、当然ながらスタッフの構成、患者層、立地場所など諸条件が異なり、
それにもまして、課題となる対象は難敵で、決して侮れるものではないだけに、長丁場を覚悟しなければなりません。
医院個々に合った健康増進型DCを無理なく楽しくデザインすることが望まれます。
6.他者貢献感と健康
幸せは、快楽的経験に代表される「ヘドイックハピネス」と、
気高い目的に向かって努力した結果得られる「ユーダイモニックハピネス」に区別されると言われますが、
最近の論文で、ヒトの身体は、分子レベルにおいても、幸福の質を、思慮深いものや高貴なものと、自己の快楽とで見極めることができる、
という報告(National Academy of Sciencesの論文集)が発表されました。
「意味のある幸福」を感じている人は、
免疫系において細菌や異物を殺傷する炎症反応関連の遺伝子量が減少した一方、
「快楽的幸福」を感じている人は、逆の遺伝子発現を示しました。
大雑把に言うと、他者貢献感のような「意味のある幸福」を「快楽的幸福」より多く感じている人ほど、
分子レベルでも健康度が高いと言えます。
他者貢献感という健康増進型DCでの心構えを身に着けることで、分子レベルでも健康度を高めることができるのです。
他者貢献感は「慈善」を超えて、「健康」そのものです。
7.おわりに
6回にわたって、「健康増進型歯科医院のススメ」と題して、歯科医院でいかに健康増進を表現するべきなのかについてお話ししました。
今回お話しした内容を実践したとして、時間的には日々行っている歯科臨床のなかのほんのわずかな時間であるかもしれません。
しかし、スタッフや患者さん、そして院長であるあなた自身の健康増進を実現するためには、非常に重要な取り組みになるはずです。
健康増進型歯科医院の輪が広がり、歯科界が超高齢社会のさまざまな課題を解決する糸口となり、
幸せを享受できる世の中に少しでも貢献できれば幸いです。
大阪府大阪市開業・ツインデンタルクリニック
呉 沢哲
⇒ http://www.twin-dc.com/