2016年08月16日
こんにちは。
今回は前回に引き続きヘルスコーチングのお話です。
前回にもお話しした「一緒にいる」信頼関係を構築した後、どのように、クライアント(患者さんや生活者)に行動変容を起こし、
それを長く習慣化できるようにサポートしていくかについて、何点かに絞ってお話しします。
1.「今の(嫌な)自分」から「なりたい自分」へ
前回述べたように、当院では問診票に日本人に多いといわれる愁訴項目を設けています。
「慢性疲労、イライラ、肩こり、腰痛、頭痛、冷え、無気力・意欲低下、目の疲れ、便秘、肌荒れ」です。
あらかじめ問診票で気になるところに「〇」をしてもらって、「今の自分」を認識してもらいます。
「今の自分」を認識して初めて「なりたい自分」を意識できるようになります。
たとえば、慢性疲労という「今の自分」と慢性疲労を解消したいという「なりたい自分」への意識が芽生えます。
では、われわれヘルスコーチは、どのようにクライアントの「なりたい自分」を見出せるようにサポートできるでしょうか。
2.快適ゾーンから研鑽ゾーンへ
生活習慣のなかには、普段過ごしなれた心地よい生活習慣(快適ゾーン)(たとえば、夜の晩酌、ゲーム、昼食後のデザートなど)と、
骨の折れる生活習慣(研鑽ゾーン)(ウォーキング、食事制限、禁煙など)があります。
「なりたい自分」になるためには、この快適ゾーンから研鑽ゾーンに一歩でも踏み込めなければなりません。
では、快適ゾーンから研鑽ゾーンに入るためには何が必要でしょうか。
クライアントの健康を自分の課題だけでなく、身近な人と関連付けることです。
人は、仕事のような社会的責任を負う場合は継続力がありますが、自己利益のためになると案外長続きしません。
こと、自分の健康のことになるとなおさらです。
人は、他者と関連づけることで、快適ゾーンから研鑽ゾーンへ入るきっかけができます。
「自分の健康が身近な人のためになっている」、あるいは「自分の健康に目を向けてくれる人がいる」という感覚が、
快適ゾーンから研鑽ゾーンに向かう強力なエネルギーになります。
また、たとえば、ジムでジム仲間がいたり、公園で毎朝みんなでラジオ体操をしたり、
ジョギング仲間で定期的にジョギングしたりする所属意識も身近な人との関連づけになります。
親の介護で悩んでいるクライアント(Aさん)の例です。
前回の「一緒にいる」も構築しながら、行動変容にいかに向かわせるか見てみましょう。
「最近、父親が脳梗塞で倒れて、介護が必要になってからというもの、私の持病の腰痛が悪化し滅入っています。」
(Aさんは腰痛で悩んでいる「今の自分」を意識していると同時に、潜在的に「腰痛を治したい」という「なりたい自分」も意識している)
「そうなんですね。それは大変ですね」
「日常生活にも支障がでているのではないですか」
(「一緒にいる」状態を作るように心がける。そのまま受けいれる。さらに「一緒にいる」状態を強化するために共感する)
「そうなんです。近所に買い物に行くのも大変で……」
(Aさんは自分のことをわかっていると感じている)
「お父様の介護も大変ですが、Aさんの腰のことは気になさっているでしょうね」
(ヘルスコーチは身近な父親とクライアントの健康が関連づいていることを気づかせる)
「そうですね。私も父の前ではあまり痛い素振りはしないようにしていますが、気づいているようです」
(父親が自分の腰痛を心配していることを再認識する)
「腰は普段の姿勢に気をつけるだけでも、少し楽になりますよ。
私が実践してよかったのは、▲▲▲というやり方で、今では多少無理な体勢でも痛まなくなりました。
私たちの仕事も腰痛は一種の職業病で、姿勢は気をつけるようにしています」
(「一緒にいる」状態が前提で、「ワカサコソホシ」などの超簡単な生活習慣を提案する。自分の経験は1つの説得力の材料になる)
「そうなんですね。一度試してみます」
(「一緒にいる」信頼関係ができているヘルスコーチからの発言はAさんの心に響く)
「そう言っていただけると、私も嬉しいです。少しでも良くなって、お父様も喜んでくれるといいですね」
(「私も嬉しい」で「自分の健康に目を向けてくれる人がいる」という感覚が芽生え、
「お父様も……」で「腰痛を治すことは決して自分だけのものではない」と思える。身近な人のためでもあることに気づく)
「そうですね。いい情報ありがとうございます」
どうですか?
なんとなくうまくいく感じしませんか。
このように、「一緒にいる」を維持しながら、クライアントの健康を身近な人やヘルスコーチの関心事と関連づけ、
それをエネルギーにして、快適ゾーンから研鑽ゾーンに向かわせます。
ただし、どのような習慣を選択するかにも行動変容成功は左右されます。
3.無理は禁物!-フィンランド症候群
フィンランド保険局が、40歳から45歳の上級職員600人を選び、食事、運動、タバコ、アルコールなど、
徹底的に健康管理をした「まじめグループ」をつくり、一方で、同じ年頃で同じ職種の別の600人には何の指示も与えず、調査票の記入だけを依頼し、
「でたらめグループ」を作りました。
ところが、15年後に調査してみると、驚くべき結果がでました。
「でたらめグループ」のほうが、心臓血管系の病気、高血圧、がん、各種の死亡、自殺、いずれについても「まじめグループ」より数が少なく、
健康に気をつかっていないほうが、病気もしないし、死亡率も低かったのです。
それは、心の問題が身体に影響を及ぼした結果です。
タバコを吸いたいのに規制され、アルコールや砂糖もほしいのに制限されることによって、精神的には大きなストレスが加わり、
心が健康でいられなくなったわけで、それが身体に影響し、病気になったり死を招いてしまったのです。
ガチガチの健康管理が、かえって健康を損ねたのです。
いくら良い習慣でも、自分が無理をして行う習慣はストレスになるので、一見身体に良さそうなことでも、
長く続けるといろいろな場面で必ず心と身体をむしばんでいきます。
自分の心と身体に相談しながら、無理せずに続けることがきわめて大事です。
クライアントが生活習慣を選択するときに、クライアントの言葉や表情から、無理かどうか見極めることも大切です。
4.「勇気くじき」ではなく「勇気づけ」
実際にクライアントがヘルスコーチのアドバイスを聞いて実践しようとしている時に、一番言ってはいけない言葉があります。
わかりますか?
「頑張りましょう」です。
クライアントにとって、快適ゾーンから研鑽ゾーンに踏み入れることは勇気のいる行為です。
身近な人と関連づけることなどで、自らそのゾーンに踏み入れることが大事です。
他人からの押し付けや期待感は見えないストレスを生み、長続きしません。
「頑張りましょう」のような一見励ましの言葉も状況によっては「勇気くじき」になります。
一方、頑張ったことに対して、「頑張りましたね」は承認行為で、逆に勇気づけになります。
勇気をもって、行ったことに対して人は褒められたい欲求があります。 (承認欲求)
その欲求にこたえて、勇気づけをして、行動変容を促していきます。
2回にわけて、行動変容に導くためのヘルスコーチングをダイジェストでお話しさせていただきました。
ヘルスコーチングでは保健指導内容を伝えることと同様に、このような心理的アプローチが非常に重要になってきます。
ただ、これも一朝一夕にはうまくいきません。
とくに歯科衛生士を中心としたスタッフの協力なくして、ヘルスコーチングや健康増進はありません。
次回は、患者さんや生活者に対するヘルスコーチングや健康増進のために、スタッフにいかに協力してもらうか。
また、ヘルスコーチングを行うスタッフ自身の健康増進にも目を向けた働き方などもお話しします。
お楽しみに!
大阪府大阪市開業・ツインデンタルクリニック
呉 沢哲
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