2016年07月19日
皆さん、こんにちは。
第1回目では「健康増進型歯科医院とは? なぜ健康増進型なのか?」と、抽象的な話が多くなりましたが、
第2回目は、実際に行う保健指導内容についてお話しします。
キーワードは、「超簡単」です。
■超簡単の理由[1] :行動変容
保健指導のゴールはあくまでも行動変容です。
保健指導を受けた患者さんや生活者自らが、健康的な生活習慣を取り入れることです。
手間がかかるものや、飽きやすいものは長続きしません。
いくら良い指導内容であったとして、習慣化できなければ意味がありません。
胸に手を当てて考えてみてください。
これまでに、1年以上持続した生活習慣がどれほどありますか。
ジム通い、ダイエット、禁煙……。
人は、仕事など、自身が請け負う社会的責任に対しては、持続力を持つことができますが、
こと自分自身の身体のことになると、ぞんざいになりがちです。
したがって、継続的な行動変容には「超簡単」が不可欠です。
■超簡単の理由[2]:安価
保健指導を行うにあたり、安価であることに越したことはありません。
そもそも健康のスイッチは、健康グッズなどの体の外部にあるのではなく、個々の体内に存在します。
当院では、アンチエイジングのサプリメントや美容グッズ、歯科関係の物販などは、ほとんどしません。
出費がないので、患者さんや生活者に容易に受け入れられます。
■超簡単の理由[3]:安全
薬も器具も使いません。
したがって、健康を害することもありません。
また、科学的根拠に基づいた安全な指導を行っています。
栄養学や運動学の専門領域において、コンセンサスの得られていないものが、多々あります。
たとえば、「糖質制限食」においても意見が分かれますし、「歩き方」もまた然りです。
大股がいいという専門家もいれば、小股がいいという専門家もいます。
私の学生時代は、体育会系クラブでは「水分をとるな」と指導されたものですが、今では、運動中の水分補給は当たり前になってきました。
簡単な生活習慣であったとして、アップデートした科学的根拠に基づきながら、ともかく、シンプルで、
かつ、安全・無害な保健指導内容をお伝えしています。
■具体的で現実的な7つの超簡単生活習慣:「若さこそ星!」
では、超簡単な生活習慣ってどんなものでしょう?
僕が提案する7つの超簡単生活習慣とは、「ワカサコソホシ(若さこそ星)」です。
「ワ」……笑い
「カ」……家事
「サ」……茶話(会話)
「コ」……呼吸
「ソ」……咀嚼
「ホ」……歩行
「シ」……姿勢
自律神経系、免疫系、内分泌系、ワーキングメモリ(仕事脳)、アライメント(姿勢)など、健康にかかわる要素で構成されています。
この7つの要素は心身の健康に大きく関与します。
それぞれの項目に「え? そんなの知ってる」と思われたあなた。
そうなんです。
これら1つひとつは、言い古された健康法で、「たかがこれしきのこと」の集合体にすぎません。
が、はたして、意識してすべてのことを実行している人が、世間にいかほどいるでしょうか。
この7つの生活習慣には、秘められたパワー、自然治癒力があります。
当院ではPOPS研究会と題して、月に1回「健康のため」と銘打って勉強会を行っています。
POPSとは、Perpetual Oral Physical Salutogenesis (永続的な口腔と全身のSalutogenesis=健康増進の医学)の意です。
「若さこそ星」も含めて、恥ずかしながら僕が勝手に提唱しています。
7つの項目の個々の説明は省くとして、家事についてのみ、若干、お話しします。
テキパキした動きは仕事脳(ワーキングメモリ)を鍛えます。
仕事脳とは、短時間に心の中で情報を保持し、同時に処理する能力です。
歯科医師を含め、イケてるビジネスマンにとって高度な仕事脳は不可欠ですが、この仕事脳を鍛えるうえで、家事が適しているのです。
大小さまざまな食器や衣類をマニピュレートして、モノを所定の場所に収める行為をテキパキこなせば、それらが、明日の仕事に役立ちます。
ちなみに、テキパキとバタバタの違い、わかりますか?
どちらもすばやい動作の擬態語ですが、テキパキは音がならないのに対して、バタバタは音がなります。
バーテンダーがカクテルを作る姿、お寿司屋さんの大将がお寿司を握っている姿を想像してください。
テキパキしていますよね? 音がしますか? しないですよね。
一方で、急な来客で室内を片付けている自分の姿を想像してください。
バタバタと音がしますよね。
音がする、ということは、交感神経が優位に働き空間認知機能が低下する、という報告があります。
つまり、マニピュレーションが低下し、手荷物を落下させる危険性が増大します。
あなたはどうですか?
忙しい診療の時間帯に、作業に携わるあなたのあちこちで音が鳴っていませんか。
そういう時に限ってバーをピンセットで取り損ねていませんか。
さらにイライラして、スタッフにあたっていませんか。
バタバタは疲れも倍増します。
じつは、テキパキの仕事脳を高めると抗疲労作用もあることがわかっています。
テキパキの家事は、あなたを、より疲れ知らずのイケてる歯医者に仕立ててくれます。
毎朝、皿洗いをテキパキするだけで、仕事脳は高まり、家族関係も良くなり、疲れもなくなり、結果、プライベートも充実します。
ただ、家事をテキパキやろう、という指向性のみでは、テキパキを習慣化することができません。
習慣化には具体化が必須です。
たとえば、「歩行」。
「毎日10,000歩、歩こう」と言われて、万歩計を買って何気なく始めたとしましょう。
目新しさから最初は続くかもしれませんが、すぐにフェードアウトしてしまいます。
大切なのは、個々の課題を生活導線の中に嵌め込むことです。
習慣化を図るうえで、まず、
「いつ」「どこで」「何を」「どうする」を明快にします。
たとえば、サラリーマンの場合、
「通勤時、毎朝、到着駅の1つ手前の駅から、歩く」。
「咀嚼」では、
「昼食は、ひと口食べ物を入れ、口が空になるまで、次の食べ物を入れない」といった具合です。
具体化するほど、取組みが容易です。
■正のスパイラルへ:宣言、実践、実感、もうワンランク高い生活習慣
どうですか?
これぐらいなら、1つくらいはできると思いませんか。
1回目にも申し上げましたが、「完璧な健康」に視線を向けることが大事です。
患者さんや生活者に伝える前に、まずは自身が実践者になる、といった気構えが必要です。
習慣化の取り組みは、内容にもよりますが、3か月前後で心と身体に変化を感じることができます。
習慣化の小さな行動変容によって、何を期待するか、何を狙うか、を考えながら行うと、より効果的です。
超簡単生活習慣を実践して、心と身体に報酬を感じることができれば、もうワンランク上の行動変容への意欲が出るでしょう。
たとえば、1駅前から歩き、疲れにくくなったとしたら、歩く距離を少し延ばしたり、歩く姿勢を正すことに取り組みます。
そうすれば、イライラが解消するなど、別の報酬を感じることができ、健康増進化が進みます。
次にあなたは、健康増進の喜びをスタッフに伝えます。
超簡単生活習慣を実践したスタッフは、患者さんや生活者に健康増進の喜びを、きっと伝えてくれるはずです。
POPS研究会はこのような身近で簡単にできる7つの生活習慣などを、診療の合間に健康に関することを論文や関連図書から学習し、
私とスタッフが持ち回りで月一回(毎月第2木曜日の8時から)発表し、医院全体で学びあう場です。
外部からも来てもらうこともありますので、ご興味のある方は参加していただいて結構です。(taekchul@hotmail.com)
次回は、歯科医院で、患者さんをして、いかに行動変容に向かわせるかをお伝えします。
歯を治療に来られた患者さんに、「歯以外の健康の大切さ」をお伝えすることは、容易ではありませんが、
ここが、歯科医院が取り組む健康増進化にとって、ポイントとなるところです。
お楽しみに!
大阪府大阪市開業・ツインデンタルクリニック
呉 沢哲
⇒ http://www.twin-dc.com/