2013年09月17日
【1】「何をいったのか」ではなく、「どう伝わったのか」が大事!
仕事をしている中で、「そんなつもりでいったんじゃないのに……」といった経験は、誰もが持っていることでしょう。
場合によっては、自分の意図したものとまったく違う意味に受け取られ、「そんなふうにとらえるなんて……」と思ったことがある人も、けっこういることでしょう。
そんな時、あなたは、どんなふうに考えるでしょうか?
院長と話をしていると、
「うちのスタッフは常識がないんですよね」
「このスタッフは、物事のとらえ方が素直じゃなくて……」
「性格に問題があって……」
といった言葉を聞くことがあります。
つまり、スタッフがこちらの意図と異なるとらえ方をした場合、相手が悪いという結論に達しているのです。
もしかしたら、それは事実かもしれません。
確かに、世の中には、常識のない人間もいれば、性格に問題がある人もいるからです。
しかし、そういった結論を出してしまうと、スタッフとのコミュニケーションを成立させることはできなくなります。
少し考えてみればわかることですが、人は、自分の思うとおりに相手を変えることなんてできません。
相手に問題があってコミュニケーションが成立しないなら、それはもはや変えることはできないのです。
コミュニケーションは「何をいったのか」ではなく、「どう伝わったのか」で決まると考えるべきです。
つまり、コミュニケーションギャップの責任は、受け手ではなく、話し手にあるのです。
自分の意志で相手を変えることはできませんが、コミュニケーションのとり方を変えることはできるのですから、こちらのほうが問題解決もしやすくなります。
前回は、ドラッカーのコミュニケーションギャップをなくしていく方法について話をしましたが、今回は、別の視点から考えていくことにします。
それは、価値観や背景を明確にし、共有すれば、コミュニケーションギャップが起こりにくいということです。
たとえば「より良い医療を提供していこう」という話をしても、人によって「より良い医療」の定義(価値観)は異なります。
あるスタッフは、ていねいな治療だととらえていますが、別のスタッフは、よりレベルの高い医療だととらえているかもしれません。
また、きちんと説明をすることで安心して受診してもらうのが、より良い医療だと考えている人もいるでしょう。
そうなると、同じ言葉を使って会話をしても、それぞれが異なる意味としてとらえてしまいます。
つまり、コミュニケーションギャップが起こるわけです。
【2】スタッフの感情・関心事を踏みにじらないこと
ディズニーランドでは、お客様に楽しい時間を過ごしてもらうために、「SCSE」という指標をつくっています。
最初のSがセーフティ(安全性)、Cがコーテシー(礼儀正しさ)、次のSがショー(演じること)、Eがエフィシェンシー(効率)を意味している言葉ですが、この言葉の順番どおり、現場では「セーフティ>コーテシー>ショー>エフィシェンシー」の優先順位で判断をして行動することになっています。
こういった指標があることで、「本日も、お客様に喜んでもらうために頑張りましょう」というだけで、何をすべきなのかが共有されます。
それに「お客様に喜んでもらうために、どんなことができるだろう?」と問いかけても、SCSEにそって考えてもらえるから、見当はずれの答えが出てくるようなことはありません。
これと同じで、仕事の上で大切にしたいものの定義や、その指針となる価値観を明確にし、それを共有することで、コミュニケーションギャップは防ぎやすくなります。
そして、相手の関心事を知り、それを踏まえて話をすることも大切です。
ハーバード流交渉術で有名な、ロジャー・フィッシャーは、感情の多くは、次の5つの基本的な「利益」から生じるといっています。
(1)自律性(自分に関することを自分で決めてコントロールしたい)
(2)価値理解(存在や価値を認められたい)
(3)つながり(仲間の一員になり、受け入れられたい)
(4)役割(有意義な目的をもちたい)
(5)ステータス(公平に見られ、評価されたい)
これらは、その人が大切にしているもので、自己充足感や満足が得られる利益です。
どの要素に強く利益を感じるのかは、人によって異なりますが、それを踏みにじられると、相手に対してマイナスの感情を持つようになります。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」で、マイナスの感情を持った人間に対しては、何をいっても受け入れてもらうことは難しくなります。
コミュニケーションをする前に、すでにギャップが生まれているのです。
どのスタッフが、どんな利益に関心があるのかは、少し付き合えばわかることですし、歯科医院規模のスタッフ数であれば、全員の関心事を把握することも難しくないでしょう。
この関心事を踏みにじることなく、満たしてあげるように話をすることで、こちらの話を正しく受け入れてもらえることになります。
コミュニケーションは正論をいっているからといって、成立するものではありません。
相手にきちんと受け入れてもらってはじめて成立するものです。
そのためには、スタッフと膝つき合わせて取り組めば、モチベーションの高い強い組織をつくることがでます。
医療法人社団いのうえ歯科医院理事長
歯学博士・経営学博士
井上 裕之 ⇒ http://www.inoue-dental.jp/