MAIL MAGAZINE メールマガジン

歯科医院経営で“今”やるべきこと【6】スタッフを医院や院長のファンにしよう

2013年09月17日

【1】医院や院長に対するロイヤリティが高い組織をつくる

ドラッカーマネジメント、ISO、収益を増やす仕組みなど、いのうえ歯科医院では、この10年、さまざまな取り組みをしてきましたが、そういった経験から、私が歯科医院経営で今やるべきこととしていえるのは、強い組織をつくることだと思っています。

そのために、やるべきは「スタッフを、医院や院長のファンにする」ことです。
「この医院で働けてうれしい」「院長について行きたい」「院長のためなら一肌脱げる」・・・医院や院長に対するロイヤリティが高い組織こそが、真の意味で強い組織なのです。

ところが、患者様をファンにする取り組みをしている医院はあっても、スタッフをファンにすることに心を砕いている医院はあまりないというのが、今の歯科界の現状です。
しかし、時代の流れ的にも、「雇っているんだから、私のいうことを聞け」という感覚でのトップダウンは通用しなくなっています。

真摯にスタッフとのコミュニケーションに取り組み、スタッフのファン化に取り組んだ医院だけが、次の時代に発展することになるでしょう。

巷では『伝え方が9割』(佐々木 圭一著・ダイヤモンド社)という本が話題になっています。
前回のメルマガで「相手の関心事を知り、それを踏まえて話をすることも大切」という話をしましたが、この本でも「自分の頭の中をそのままコトバにしないで、相手の頭の中を想像し、相手のメリットと一致するお願いをつくることが大切」と語られています。
これは、単に伝えるだけでなく、相手を理解して伝えることが大切ということ。
つまり、相手の立場に立てない人は、コミュニケーションを成立させることはできないのです。
院長には他者を受け入れ、受け止めるだけの人間性が必要になります。

もし、この部分をおざなりにして、トークテクニックだけを磨いたとしても、スタッフをファンにすることなどはできないでしょう。

【2】コミュニケーショントラブルを防ぐことがファン化に

スタッフをファンにするために、次にコミュニケーショントラブルについて話をしましょう。
コミュニケーショントラブルが起こる原因は「背景」「ルール」「感情」の3つです。

たとえば、普段はそうではないのに、その日に限って不愛想な返事や不遜な態度をしたスタッフがいたとしましょう。
当然のことながら、院長とすれば、嫌な気持ちになりますが、それを相手にぶつけるのは下策です。
そんなことをしても、相手の心を余計にかたくなにするだけです。

では、そういった場合に、注意をすれば改善されるのでしょうか?
答えは「否」です。
たとえ、きつく叱って、その場の態度は改善されたとしても、すぐに元に戻るか、別の形で問題が勃発することになるだけです。
人と人の間には、相手は知っているけど、あなたは知らない、相手の背景があります。
たとえば、そのスタッフは、朝から体調が極度に優れず、元気に振舞おうとしてもできないのかもしれません。
もしかしたら、スタッフ間のことで大きな問題を抱えているのかもしれないし、私生活で思いがけないトラブルに巻き込まれているのかもしれません。

また、人によってルールは違います。
院長は「上司の問いかけには愛想よく応えるべき」というルールを持っているかもしれないが、そのスタッフは「愛想より、指示をきちんと把握するかどうかが大切」というルールかもしれません。
そうなると、院長から見れば、そのスタッフの態度は不遜に見えてしまうでしょう。

それに、感情の問題があります。
人は無意識のうちに、他者の感情を傷つけていることがままあります。
自分にとっては何でもないことや、相手のためを思ってかけた一言が、相手の心を深く傷つけているのです。
そうなると、相手はあなたに対して心を閉ざします。
この傷はしこりになり、両者の間をギクシャクさせるだけです。

こんな話をすると、「大人なんだから、そういった私生活の問題や感情を仕事に持ち込むべきではないし、ルールは上司に合わせるべきだ」という声が必ず出てきます。
確かにそれは正論ですが、正論どおりに動かないというのが人の心。
専門家にメンタルトレーニングを受けているプロのスポーツ選手でさえ、私生活にトラブルがあれば成績が落ちるのに、スタッフにそれを求めるのは酷な話です。

ですから、院長の人間的な器が重要になります。
コミュニケーショントラブルが起こっているなと感じたときは、そのスタッフとじっくり話をし、「あなたは知っているけど、私が知らない背景があるのでは?」「私は、これはこうあるべきだというルールを持っているが、あなたはどんなルールを持っているのか?」「私自身が知らないうちに、あなたの感情を傷つけたことがあるのでは?」と、すべてを受け止める形で聞いてあげることです。

そして、最後に「それを解決するために、私に協力できることはないだろうか?」と問いかけるのです。
そうすれば、スタッフは院長のファンになっていくし、そこで培われた器は、患者様を惹きつけるものになるでしょう。

そう、これからの時代に発展していくために、あなたが今やらなければいけないことは、コミュニケーションを通して、人間の器を広げていくことなのです。
これまで、仕事を通しての人間形成などは、あまり考えたことがないことかもしれませんが、ぜひ、これを機会に取り組んでいただければと思っています。

 医療法人社団いのうえ歯科医院
 理事長 歯学博士・経営学博士

 井上 裕之 ⇒ http://www.inoue-dental.jp/