2013年07月26日
【1】歯科医院経営者はやるべきことをすべてやりきっているのか?
ある歯科大では「歯科医院はやり方次第でまだまだ儲かるといわれてきたが、そういった努力は限界を迎えたとの声が大きい」と教えていたといいますが、本当にそうなのでしょうか?
つまり、私たちは歯科医院経営者として、本当にやるべきこと、やらないといけないこと、やったほうがいいことを、すべてやりきっているのかということです。
世の中には「衰退産業」と呼ばれている業界があります。
何を判断軸にするかによって判断は違ってくるでしょうが、車や家電など、かつては日本のお家芸と呼ばれた産業をはじめ、ガソリンスタンド、レコード、レンタルビデオ、農業、水産業、旅行業、金属加工など、多くの産業が、将来性への希望がなく、縮小傾向にある産業だとされています。
ところが、こういった衰退産業の中にも、元気な企業はあります。
たとえば、金属加工をしている町工場の多くは、価格競争に巻き込まれ、経営難の状態。
町工場の社長と聞いて、リッチをイメージする人は、ほとんどいないでしょう。
ところが、そういった町工場の中にも元気な会社はあります。
納期を短縮したり、技術力を高めることで、高いコストでの受注に成功しているところもあれば、新製品を開発し、メーカーではなく、一般消費者に販路を転換して収益を伸ばしているところもあります。
衰退産業だからといって、必ずしも、未来がないわけではありません。
知恵を絞り、工夫することで、発展している会社はたくさんあるのです。
では、歯科はどうでしょう?
確かに、歯科医師の数は、保険診療を主体とした上で高収入が得られるという条件では人口2,000人に対して1人が妥当とされています。
ところが、現在の歯科医師の数は、約1,200人に1人。
保険診療だけで高収入を得るには、歯科医師数が多すぎます。
でも、私たちには、自由診療があります。
しかし、ほとんどの医院で、収益に占める自由診療の割合は20%に満たないのが現状です。
この数字を少し高めれば、十分豊かになるはずです。
それに、ある調査によると、日本人で定期的に予防歯科を受けている人は4%ほどしかいないそうです。
96%もの人が予防歯科を受けていないということは、この分野に関しては、患者数は増やし放題ということです。
このように、確かに歯科医師数は増えているかもしれないが、条件的に見ると、歯科は衰退産業ではありません。つまり、危機感を持たなければいけない状態ですが、悲観的になる必要はないのです。私たちにできることは、まだまだあるし、工夫も努力の余地もたくさん残されているのですから。
【2】強い組織づくりこそ“今”やるべきこと
こんな話をすると、決まって受けるのが「では、どこから取り組んだらいいのですか?」という質問です。
希望的な視点になると、たとえば、新患を増やすための広告活動やHPの強化、患者様に治療を説明するための資料作成、接遇力や説明力を高めるための研修など、やるべきことや、やったらいいことがたくさん見えてきます。
それだけに、どこから取り組むべきか迷ってしまうのです。
私の経験からいうと、まず取り組むべきは、強い組織づくりです。
院長の掲げた目標をみんなで達成することに、高いモチベーションを持ったチームをつくるのです。
患者様ではなく、スタッフから取りかかる理由は簡単。
高いレベルの医療を提供するには、チーム力が必要になります。
院長がどんなに高い技術力を持っていても、スタッフの協力がなければ、より良い医療は提供できないからです。
それに、収益を伸ばすために「患者満足度」を高める取り組みをしているところもありますが、そもそもCS(顧客満足)とは、ES(社員満足)の結果なのです。
スタッフ1人ひとりが、仕事にやりがいを感じ、積極的かつ楽しく仕事をしてはじめて、患者満足度は生まれます。
患者満足のために、スタッフにストレスを強いるようでは、患者様の満足度を高めることはできないのです。
このように、より良い医療を提供するためにも、患者満足度を高めるためにも、まず取り組むべきは、強い組織をつくること。
時々、経営を良くするために、患者数を増やすとか、自費率を高めるとか、予防歯科の患者数を増やすとか、収益に直結する取り組みから始めようとする歯科医院経営者を見かけますが、スタッフが献身的なレベルで協力する体制になっていなければ、それらの取り組みのほとんどはうまくいきません。
結局、強い組織をつくるために、まず、スタッフに向かい合うところから取り組むべきなのです。
医療法人社団いのうえ歯科医院
理事長 歯学博士・経営学博士
井上 裕之 ⇒ http://www.inoue-dental.jp/