2017年12月18日
前回は、粘膜の保湿力低下によるドライマウスの症状や対応について紹介しました。
最終回となる今回は、薬剤性のドライマウスにふれながら、
患者さんとのかかわりについて考えてみたいと思います。
患者さんの多くは、高血圧や糖尿病といった慢性疾患などで何かしらの薬を服用していますよね。
実際、薬の服用割合や薬剤数は、年齢とともに増加します。
60代で4~6剤、80代になると7~9あるいは10剤という報告もあるほどです。
つまり、超高齢社会の現在、臨床で出会う患者さんの多くは何かしらの薬を服用していると考えられます。
そういった状況のなかで、
約800種類ほどの薬剤がドライマウスと何らかの関係があるとされています。
とくに向精神病薬、抗うつ剤、抗不安薬、睡眠剤、高血圧治療薬、消化器潰瘍治療薬、気管支拡張剤、抗アレルギー剤などです。
なお、医薬品添付文書の副作用には、
ドライマウスではなく”口渇”と記載されています。
抗アレルギー剤や利尿剤によるドライマウスの自覚は、
臨床実感として服用1か月後など比較的早期であると思います。
しかし、すべての薬が服用してすぐに症状が出るとは限りません。
また、1剤を服用しただけでは変化はないにもかかわらず、
多剤服用となると強い症状を訴える方もいます。
ドライマウスの原因が明らかに服用薬であっても、全身状態のために服薬中止ができない場合がほとんどです。
そのような患者さんに「飲んでいる薬をやめない限り、治りません」などと安易に説明をすると、
治りたい一心の患者さんは自己判断で服薬中止をすることがあります。
すると、全身状態の悪化や他の不快症状を招くことがあるので、
言動には配慮が必要です。
また、仮に中止できたとしても、
長期間で多量に服用している場合では症状改善に時間を要することがあります。
そのうえ、薬を処方している医師がドライマウスをよく知らないことがあります。
「(処方している)先生に相談してみてください」
と服用薬の減量、中止、変更などの対応を患者さんに任せてしまうことがありますが、適切な対応にならないばかりか、
患者さんと医師との信頼関係に悪影響となることもあるので、情報提供は歯科医療者が行うべきです。
このような経緯から、大学病院を受診する薬剤性ドライマウスの患者さんのなかには、すでに医療者から
“対応できることはないので、がまんしてください”
と指導を受けてきた方が多くいらっしゃいます。
本当にがまんしてもらうことしかできないのでしょうか?!
歯科医療者は生活支援のプロ!
まだまだ、できることはあります。
もっと大事なこととして、
原因となった薬剤服用に至った全身状態に関する生活習慣や体質の改善に対する生活指導を行います。
たとえば、食欲不振のために消化器系の治療薬、
睡眠不足のために安定剤と睡眠薬を服用していることが原因でドライマウス症状を訴えている独居の高齢の患者さんをイメージしてください。
薬剤性のドライマウスと診断すると、最初に薬の減薬をと考えてしまいがちですが、
その前に「なぜ、食べられないのか」「眠れないのか」を考えることが重要です。
活動量が少ない場合には、
適度な運動によって活動量アップを促してエネルギー消費による食欲増進、体の疲労による睡眠欲求を引き出します。
孤独感や不安が強い場合は、
診療室で日常会話をするだけでも患者さんは
「共感してくれる相手が見つかった!」と安心して、
ご自身の精神的・身体的な変化を受け入れられることがあります。
生活指導以外に、歯の喪失や口腔周囲筋の機能低下を認める場合では、
歯科治療や機能的口腔ケアが効果を示します。
他にも、唾液分泌促進作用や粘膜改善作用のある漢方薬などの処方や口腔保湿剤の応用も効果的です。
6回にわたり、一般歯科診療所で出会う可能性のあるドライマウスの症状と対応についてご紹介してきました。
ドライマウス症状を訴える方に対して
“年のせい”
“薬のせい”
“気のせい”
と対応を諦めてきませんでしたか?
連載させていただいたように、
“ドライマウス”
とひと言で表現しも、その原因や対応はさまざまです。
全身的な原因を解決できないために、対症療法が中心となる場合があります。
そのような場合でも、食べる、話す、呼吸、表情といった生活に欠かせない口腔機能の専門家である歯科医療者だからこそ、
患者さんに真摯に向き合い、寄り添いながらともに経過を追うことで、ドライマウスに対して適切な対応を提案できることが少なくありません。
歯科医療が、患者さんのおいしい食事や楽しい会話といった笑顔の実現に寄与し、QOLの向上を促せる役割を担っているのです。
生活に寄り添える歯科医療者がお口の潤いを促すことで、
患者さんの生活の潤いが叶えられるのです。
日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座
遠藤眞美
⇒ http://www.mascat.nihon-u.ac.jp/hospital/guide/9_tokushu.html