2017年10月02日
こんにちは。
日本大学松戸歯学部の遠藤眞美です。
今回のメールマガジンでは6回にわたり、
一般歯科診療所で出会う可能性の高いドライマウスについて、
原因と対応について連載させていただきます。
私の勤務する大学病院には、ドライマウスについての相談が増えてきています。
皆様の日常臨床では、いかがでしょうか?
近年、ドライマウスは、
滑舌の悪さ、食べこぼし、食事中のむせなどとともに、
加齢によって生じやすい「オーラルフレイル」といわれる状態の一症状として注目されています。
オーラルフレイルとは、病気や明らかな機能障害ではなく、
“ちょっとした困りごと”を感じて生活している誰にでも生じうる状態です。
高齢化が進む日本で、オーラルフレイルの症状を呈している方は増加傾向といわれています。
このオーラルフレイルは、口腔機能のアンバランスを生むだけでなく、
“うまく話せないから外出を控える”
“食べにくいものは食べない”
といった本来希望する生活に支障をきたすため、生活の質(QOL)に大きく影響します。
したがって、オーラルフレイルを防ぎ、可能であれば口腔機能を向上させることは、
歯科医療人として重要な役割といえます。
そのような背景を理解したうえで、皆様は、
ドライマウス患者と聞いてどのような方をイメージされましたか?
おそらく、「シェーグレン症候群」などの自己免疫疾患を最初にイメージされたのではないでしょうか。
国家試験にも出題され、皆様が知っているにもかかわらず、
それほど遭遇することはない疾患の1つですよね。
そのため、ドライマウス患者が増えてきたと言われても、
一般歯科診療所の診療において
「ドライマウス患者はあまり関係ない」
と思われている方も多いのではないでしょうか?
たしかに、唾液分泌低下をともなうシェーグレン症候群はドライマウスの原因の1つです。
しかし、ドライマウスとは、
口が乾いた感じや乾燥している状態や症状全般を指します。
単に「唾液がない=唾液分泌低下症」や、
電解質の異常によって脳の口渇中枢が作用した「水が飲みたい=喉が渇いた」という状況だけではありません。
他にも、唾液量が正常にもかかわらず、
口腔粘膜の保湿力低下や口腔周囲筋のアンバランスによる分布異常の場合や、
唾液の過剰な蒸発(過蒸散)、服用薬剤や自己免疫疾患による唾液分泌量の低下などのさまざまな原因があります。
したがって、患者さんが口腔乾燥感を強く訴えていても、
口腔粘膜の乾燥所見が認められなかったり、
豊富な唾液が確認できることもあります。
しかし、「実際にドライマウス患者には会ったことがない」とおっしゃる方もいるかもしれません。
一般歯科診療所では、
明らかに口の乾きを自覚して歯科医院を来院する方よりも、
どちらかというと、来院きっかけの原因がじつはドライマウスという場合が多いようです。
代表的な症状として、
舌や粘膜の痛み、
唾液のネバネバ感、
粘膜の発赤ややけどのような熱さ(灼熱感)、
感覚過敏や味覚異常、
適合良好な補綴装置に対する義歯不適合の訴えや、
繰り返す歯冠形態修正の希望、急激な多発う蝕などがあります。
症状が進むと、口腔内の症状だけにとどまらず食欲不振、食べにくさや飲み込みにくさ(摂食機能低下)、話しにくさなど、
口腔機能に関与した症状を訴える場合があります。
口が乾いているという単純な訴えをする方は少なく、
「口の中に膜が貼っている」
「ネバネバした水あめのようなものが出てくる」
「砂をかんでいるようだ」
「唾液に味がついている」
「泡の唾液が出る」
「唾液が邪魔で話せない」
などといった、通常では予測不可能な表現をしてくる場合があります。
目立った器質的変化を認められないにもかかわらず、
このような訴えが詳細であればあるほど、
私たち歯科医療従事者は悩んでしまいますよね。
とくに、症状自覚後に内科や耳鼻科などへ相談し、
「問題なし」と診断されている場合も多く、診断や対応に苦慮して、
最終的に心理的な問題かもしれないと考えてしまうのではないでしょうか。
しかし、これらの訴えはドライマウスが原因なのです。
ただでさえ不安な患者さんに対して、
画一的に心理的な問題だからと”気のせい”として指導・対応すると、
患者さんは歯科医療者に対して不信感を募らせることになります。
信頼関係の悪化は、その後のドライマウスを含めた歯科治療に支障をきたしてしまいます。
次回から、原因や対応の詳細について連載していきますが、
ドライマウスの原因は口腔内であることが多く、
歯科医療者として適切な対応策を導いて指導を行うことで改善できることが少なくありません。
口の潤いは、生活の潤いへとつながります。
日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座
遠藤眞美
⇒ http://www.mascat.nihon-u.ac.jp/hospital/guide/9_tokushu.html