2017年06月19日
皆様こんにちは。
渥美克幸です。
支台築造をテーマにした本連載も今回で最終回となります。
さて、前回はファイバーアレンジメントについてお話ししました。
内容を簡単におさらいしましょう。
・ファイバーをポスト孔の全周かつ最外周、かつ歯肉縁をまたぐように配置することで、もっとも高い補強効果を得ることができる。
・ポスト孔の中央には、導光目的でファイバーポストを配置する必要がある。
既製金属ポストの配置方法と真逆なのでビックリされた方も多いかと思いますが、
これがファイバーを用いる際のキモになりますので、ぜひ活用していただきたいと思います。
今回は、予知性の高いファイバー併用レジン支台築造を行うにあたり、
私が最重要と考える3つのポイントの最後、根管象牙質との接着について考えていきます。
●接着対象としての象牙質
よく、「象牙質よりエナメル質のほうが接着させやすい」と言われます。
ラミネートベニアの形成をエナメル質の範囲内にすべきというのは、これが大きな理由の1つですよね。
でも、なぜそうなのでしょうか。
象牙質はエナメル質に比べコラーゲン線維等の有機物や水を多く含みます。
接着対象として考えるので体積パーセントで示しますが、
象牙質は「有機質+水」が50%を占めると言われています。
残りの50%はカルシウムやリン等の無機質です。
一方、エナメル質の「有機質+水」は10%と言われており、
かなりの違いがあることがわかります。
大雑把に言えば、象牙質は水分が多い、ということです。
さて、接着に用いるレジンは、いわば油です。
ここで質問です。
水と油は混ざりますか?
答えは「混ざらない」ですよね(理由はさておき)。
「水」である象牙質と「油」であるレジンは簡単にはくっつかない。
これが、象牙質にレジンを接着させづらい理由です。
●水と油を混ぜるために
とは言うものの、われわれは日常臨床で非常に簡単に象牙質とレジンを接着させることができます。
これは産学臨が協調し、接着歯学の研究と開発に関してたゆまぬ努力を重ねてきた結果です。
とくにわが国のレベルは非常に高く(世界一だと思います)、
その恩恵を受けることができるのは非常に幸運なことだと思っています。
では、なぜ象牙質とレジンを接着させることができるのでしょうか。
これには様々な理由が挙げられますが、
その1つとして考えられているのが「両親媒性分子」の存在です。
両親媒性分子……またややこしい名詞が出てきましたが、
難しくないのでご安心を(笑)。
ウィキペディアではこのように説明されています。
「一つの分子内に水(水相)になじむ親水基と、油(有機相)になじむ親油基(疎水基)の両方を持つ分子の総称」
両親媒性分子は水にも油にもなじむことができるので、
両者の仲を取り持ち、これらを混ぜ合わせることができるのです。
……なんて言われると、
もの凄く特殊なもののように聞こえるかもしれませんが、
これはわれわれの身の周りにたくさん存在しています。
代表的なものは「界面活性剤」です。
洗剤の成分表示で見ることが多い単語ですが、実はこれが両親媒性分子です。
なぜ食器にこびりついた油汚れが落ちるのか……そうです。
界面活性剤(=両親媒性分子)が効いているからです。
油汚れを水になじむようにして、洗い流しているんです。
●接着性モノマーとは?
勘の鋭い方は、もう私が何を言いたいか気づかれたかもしれません。
「水」である象牙質と「油」であるレジンをくっつけるためには、
その間を両親媒性分子が取り持てばいいんです。
そして、この両親媒性分子を歯科では「接着性モノマー」と呼んでいます。
代表的なものとして、4-METAやMDPなどがありますね。
これがあるおかげで、象牙質とレジンを接着させることができるわけです。(もちろんエナメル質への接着にも寄与します)
●デュアルキュアだから安心?
さて、話題を変えましょう。
次は重合方法について考えます。
第4回で私は、こんなことをお話ししました。
「たいして光を透過しなくても、支台築造用レジンってデュアルキュアだから、化学重合に期待すれば……と思った方、その認識は危険です」
レジンを重合させる主な方法として、光重合と化学重合があります。
支台築造では通常のう蝕処置等と異なり、
化学重合ないし光+化学重合(=デュアルキュア)を用いることが多いと思いますが、この化学重合、意外と曲者なんです。
化学重合におけるスタンダードな重合開始剤の1つにBPO(過酸化ベンゾイル)-アミンシステムがあります。
まずBPOがアミンにより分解されることでフリーラジカルが生成され、これがアクリル系モノマーを活性化し、
次々に周囲の新しいモノマーを付加して網目状に連結(高分子化)することにより重合が進行していきます。
つまりこれがないと重合できないんですが、
このシステムには大きな欠点があります。
先ほど触れた接着性モノマーとアミンの相性が悪いんです。
もちろん対策として重合開始剤の添加等を行っているのですが、
相性の悪いものを併用している、という根本的な点は変わっておらず、これが化学重合の信頼性を下げる原因になっています。
このような理由から、
私は(BPO-アミンシステムを用いている)デュアルキュアは過信しないほうがいいと考えています。
●直接法と間接法
また「直接法と間接法、どちらがいいですか?」という質問もよくいただきます。
どちらにも利点・欠点があるのですが、
私は基本的に直接法で築造を行うことはありません。
その理由はいろいろあるのですが、まずは前述のとおり、
化学重合(やデュアルキュア)をあまり信用していないことがあります。
さらに窩洞形態が細く長いこと、またレジンの重合収縮がきわめて短時間で起こることなどにより、
窩壁から引き剥がされる方向に大きな重合収縮応力が発生することも挙げられます。
一方、間接法であれば、重合収縮は模型上で完全に完了させることができるので、その点では安心です。
「でも、それをセットするために使うレジンセメントはデュアルキュアでは?」
と思われた方がいらっしゃると思います。
おっしゃるとおりです。
非常に鋭いですね(笑)。
間接法においてもデュアルキュアの呪縛は存在するのですが、
BPO-アミンフリーのシステムを用いるのであれば問題はないと考えています。
私は重合触媒にTBBを用いているスーパーボンドを愛用しています。
支台築造に用いる接着性レジンセメントとして、
この製品以上に安定性や確実性があるシステムはないと思います。
●デュアルキュアとの付き合い方
とは言っても、デュアルキュアシステムを用いて直接法の支台築造を行わなければいけないときもあると思います。
そこで、私なりの工夫をいくつかご紹介します。
まず象牙質にボンディングを行い樹脂含浸象牙質を作りますが、その際、確実性を増すために、光照射を通常よりも長く行います。
私の場合、最低3倍以上照射します。
次にレジンの填入とファイバーの配置を行いますが、
終わったらすぐに光照射をせず、そのまま10分程度放置します。
これは、化学重合による反応を先に進めることで、
緩やかに重合収縮させることが目的です。
こうすることで、窩壁にかかる応力を減らすことができると考えています。
その後、光照射して最終重合を行いますが、その際も通常より長い照射時間を確保します。
これは、光重合により化学重合の不足分をカバーするイメージです。
さらに、i‐TFC光ファイバーポストを用いると根尖方向への確実な導光が期待できるので、信頼性をさらに高めることができます。
なお築造と形成は別日にしたほうが、
より高い接着強さを獲得できると言われています。
そのためには、歯内療法の段階からしっかりとした隔壁をつくっておく等の工夫が必要だと考えています。
●まとめ
今回は、根管象牙質との接着について考察を行いました。
技術革新により象牙質接着の難易度は大きく下がりましたが、
支台築造における接着は特殊な面もあり、ダイレクトボンディング等よりエラーが起きやすいと言われています。
今回、文字数の都合でお話しできなかったことがいろいろありますので、
興味のある方は成書や文献等を調べていただければ幸いです。
●最後に
6回にわたり、支台築造にまつわるさまざまなことをお話しさせていただきました。
近年、歯内療法の重要性が見直されつつありますが、
その予後は歯冠修復や支台築造の質にも影響されるという事実が、いまいち浸透していないように感じます。
歯髄を失った歯を長期にわたり機能させるために、支台築造は避けて通ることができません。
本連載が少しでも読者の皆様のお役に立つことを願っております。
長期間にわたりお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
[今回のポイント]
・デュアルキュアの信頼性はさほど高くないので、予知性の高い結果を得るためにいろいろと工夫する必要がある。
・間接法で作製した支台築造体をスーパーボンドで接着するのが一番確実だと思われる。
[参考文献]
1.渥美克幸.ファイバー併用レジン支台築造の勘所.根管象牙質との接着.the Quintessence 2016; 35(12):210-215.
2.渥美克幸.革新的接着性レジンセメント パナビアV5の登場.Dental Magazine 2016; 156:28-31.
3.日本接着歯学会編.接着歯学 第2版.東京:医歯薬出版,2015.
デンタルクリニックK
渥美 克幸
⇒ http://www.dck2010.com/