2017年06月05日
皆様、こんにちは。
渥美克幸です。
本連載も早いもので5回目、いよいよ佳境を迎えております。
さて、前回はファイバーシステムの選択理由についてお話ししました。
内容を簡単におさらいしましょう。
・ファイバーポストにもいろいろあるが、私はアクリル系レジンを使用しているもの、アンダーカットが付与されていないもの、弾性係数が象牙質に近いもの、などを選択基準にしている。
・ほぼ大部分のファイバーポストは、期待しているほど光を透過させていない。
今回はこの内容を踏まえつつ、
予知性の高いファイバー併用レジン支台築造を行うにあたり、
私が最重要と考える3つのポイントの2つ目、ファイバーアレンジメントについて考えていきます。
●金属とファイバーの違い(改めて)
これは第2回でもお話ししましたが、
金属ポストは歯質を強化せず、しかも歯根の垂直的破折に対してマイナスの要素として働くことがわかっています。
これは、金属系材料の弾性係数(=変形のしにくさ)が象牙質よりもかなり高いことが主な理由です。
一方、ファイバーポストは象牙質と同等の弾性係数(に加えて象牙質よりも高い曲げ強さ)をもつため、
現時点では支台築造に理想的な材料だと考えています。
では、今まで既製金属ポストが挿入されていた部分に、
そのままファイバーポストを挿入すればいいのでしょうか。
答えはNO!です。
既製金属ポストとファイバーポストの形状は同じですが、
これらは材料工学的にはまったく別のものです。
つまり、物性が異なるため、これらの使用方法も異なるはずです。
しかし、この考え方が浸透しているとは言い難いのが現状です。
では、ファイバーポストをどのように使えばいいのでしょうか。
●そもそも、ファイバーを使う目的は?
ファイバーポストを用いて支台築造を行う場合、必ず併用するのはコンポジットレジンです。
このコンポジットレジンは、弾性係数は象牙質と同等ですが曲げ強さが低く、単味で支台築造材料として使うには強度の面で不安があります。
そのため、曲げ強さの補強としてファイバーポストを用いています。
しかし、グラスファイバー(=ファイバーポスト)を補強材として用いる場合、
その配置が重要だとされています。
具体的には、グラスファイバーを引張り応力がかかる部分に設置した場合に、
その補強効果が最大限に発揮されることが知られています。
●引張り応力はどこにかかるのか?
歯に咬合力が加わると、その直下の歯頸部に引張り応力がかかると言われています。
大雑把に言えば、それぞれの歯における機能咬頭の直下歯頸部に
引張り応力がかかる、ということですね。
標準的な咬合関係であれば、上顎前歯部では口蓋側歯頸部に、
また他の部位では頬側歯頸部に引張り応力がかかる、と考えられます。
そのため、ファイバーポストはポスト孔の中央ではなく、
口蓋側や頬側の最外側に配置したほうがよい、ということになります。
しかし、これはあくまで標準的な場合の話です。
人により歯のポジションは異なりますし、
咬頭干渉が認められるケースもあります。
さらに怖いのはパラファンクションです。
どんな力がどの方向からかかるのか、まったく予想できません。
では、どうすればいいのでしょうか。
●鉄筋コンクリート構造が参考!?
私は、鉄筋コンクリート構造をファイバー配置の参考にしています。
鉄筋コンクリートは文字どおりコンクリートと鉄筋を組み合わせて作られます。
コンクリートは圧縮応力に対しては強いのですが、
引張り応力に対しては弱いことが知られています。
しかし、これでは高層ビルなどを作ることはできません。
そこで補強材として鉄筋を用いるのです。
鉄筋コンクリート構造では、圧縮応力をコンクリートと鉄筋、
また引張り応力を鉄筋が受けるものとして設計するため、
構造体において引張り応力が発生する可能性がある部分には、
その引張り力がかかる方向に鉄筋を埋め込みます。
そのため、基本的に鉄筋は全周かつ最外周に配置されています。
マンションの工事現場などで、
細い鉄骨を用いて枠組みを作っているのを見たことがある方も
多いと思いますが、あれはそういう理由なのです。
さて、ではなぜ鉄筋コンクリート構造が参考になるのでしょうか。
これは、その材料工学的特性を踏まえると、
コンクリートをコンポジットレジン、
そして鉄筋をグラスファイバーに置き換えることができると
考えているからです。
つまり、ファイバー併用レジン支台築造においては、
補強材であるグラスファイバーをポスト孔の全周かつ最外周に配置するとよい、
ということになります。
●水平的配置と垂直的配置
さて、水平的には「全周かつ最外周」ですが、
垂直的にはどの部分を重点的に補強すべきなのでしょうか。
一般的にファイバー併用レジン支台築造を用いる場合、
歯肉縁での水平的破折が起こることが多い、と言われています。
ということは、垂直的には歯肉縁部分を重点的に補強すべきです。
具体的には、歯肉縁をまたぐようにファイバーを設置するようにします。
これらをまとめると、ファイバーはポスト孔の全周かつ最外周、かつ歯肉縁をまたぐように配置することで、
もっとも高い補強効果を得ることができる、と考えています。
また、症例ごとにポスト孔の形状等は異なるため、
各々に最適な配置を検討する必要があります。
その設計と実技を「ファイバーアレンジメント」と呼んでいます。
●そんな配置をするために
さて、ファイバーアレンジメントの基本について
お話しさせていただきましたが、
次の問題は、どうやってそのような配置をするか、です。
単刀直入に言うと、
一般的なポスト(=柱)形状のものはポスト孔の中央には挿入しやすいのですが、
外周に配置しようとすると難しいのです。
そこで、前回紹介したi-TFCシステム(サンメディカル)のスリーブの登場です。
これは、グラスファイバーを外径2mmのチューブ状に
編み込み成形したものですが、このスリーブとポストを組み合わせることで外周配置を達成できます。
詳細を文字で伝えるのは難しいので、
ぜひサンメディカルのホームページ等を参照していただきたいと思います。
●それでもやっぱり中央に
なお、ポスト孔の中央に、かつ先端までファイバーポストを1本挿入する必要があります。
この目的は補強ではなく、根尖方向への確実な導光です。
この場合、導光用のギミックが組み込まれているi-TFCシステムの光ファイバーポストを使用することになります。
●まとめ
今回は、ファイバーアレンジメントについてお話しさせていただきました。
次回はとうとう最終回ですが、根管象牙質との接着について考えていきます。
お楽しみに!
[今回のポイント]
・ファイバーをポスト孔の全周かつ最外周、かつ歯肉縁をまたぐように配置することで、もっとも高い補強効果を得ることができる。
・ポスト孔の中央には、導光目的でファイバーポストを配置する必要がある。
[参考文献]
1.サンメディカル(株).i‐TFCシステム.
http://www.sunmedical.co.jp/product/core_buildup/i-tfc_system/index.html
2.眞坂信夫,諸星裕夫(編).i-TFCシステムの臨床.東京:ヒョーロン・パブリッシャーズ,2009.
3.原島厚,山﨑淳史,本多宗曉,長沢悠子,尾松純,長谷川義朗,倉持健一,山賀谷一郎,日比野靖,中嶌裕.ガラスファイバーポストによる支台築造用コンポジットレジンの補強効果.歯材器 2005;24(6):459-465.
デンタルクリニックK
渥美 克幸
⇒ http://www.dck2010.com/