2017年04月17日
皆様こんにちは。渥美克幸です。
支台築造をテーマに前回から連載をスタートしましたが、初回の話題は「支台築造の目的」でした。
今回は支台築造に用いるマテリアルを取り上げます。
●生活歯と失活歯の違い
さて、現在われわれの臨床で使用されるポストの主な材質は、金属系かファイバー系だと思います。
以前は金属系しか選択肢がありませんでしたが、日本でもファイバー併用レジン支台築造が行われるようになりました。
では、なぜファイバーが脚光を浴びたのでしょうか。
そもそも生活歯には中心部に歯髄という軟組織があり、その周りを象牙質やエナメル質が取り囲む中空構造です。
言わば卵のような構造ですね。
なので、外力に対して非常に高い抵抗力をもちます。
一方、失活歯は歯内療法のために髄腔開拡を行いますので、管状の構造にならざるを得ません。
当然、力学的にはこちらのほうが不利です。
もちろん、どのような支台築造を施しても両者を同一の構造にすることは不可能です。
そしてその予後は、内部に挿入する材料の物性に大きく左右されると言っていいでしょう。
●金属系ポストではだめなの?
かつては、歯質を強化するためにポストを装着する必要があるとされ、金属系材料が多く用いられました。
これは失活歯の脆さを補うため中芯に硬いものを入れれば……
という発想だったのでしょう。
しかし、その後の研究で金属ポストは歯質を強化しないことが明らかになり、
しかも歯根の垂直的破折に対してマイナスの要素として働くこともわかりました。
なぜこうなるのかは、ワインの瓶を例に考えるとわかりやすいと思います。
ワインの瓶に栓として金属の棒を挿入した場合、どう考えても危なっかしいですよね。
下手に力をかけようものなら、瓶が割れてしまうことは簡単に想像がつきます。
ワインの瓶=歯だとすると、そこに金属の棒=金属ポストを挿入して揺さぶるような力をかけた場合、
運が悪ければ瓶が割れる=垂直性歯根破折が発生する、ということです。
一方、栓がコルクだったら安心ですよね。
これを例えるならファイバー+コンポジットレジンです。
●曲げ強さと弾性係数
金属とファイバーの違いについて、何となくイメージはつかんでいただけたかと思いますが、
ここからはもう少し理論的に考えてみます。
それには「曲げ強さ」「弾性係数」という、2つの物性値に対する理解が必要です。
こんなことを言うと、
「数字アレルギーが~!」と拒否反応を示される方がいらっしゃいますが、
そんな難しいものではありませんのでご安心を。
まず曲げ強さですが、これは材料が破壊に至るまでにどれだけ荷重をかけることができるのかを示します。
数値が大きいほど壊れにくいと思ってください。
また弾性係数ですが、これはその材料の変形のしにくさを示します。
数値が大きいほど変形しにくいと思ってください。
私が支台築造体に求める物性は、象牙質よりも高い曲げ強さと、象牙質と同等の弾性係数です。
これは象牙質よりも壊れにくく、かつ象牙質と同様のひずみ挙動を示すことを意味します。
このような材料を選択することで、象牙質と支台築造体の界面に応力が発生するリスクが減り、
またそれにより歯根破折が惹起される可能性も大きく低減されると考えています。
●ベストな材料は何か
さて、まず基準となる象牙質の物性値を確認します。
いくつかの報告がありますが、とあるデータでは曲げ強さが140~250MPa、弾性係数が10~20GPaとされています。
ざっくりまとめると、象牙質は比較的壊れやすく、かつひずみやすいと言うことができます。
一方、ポストに用いられる材料の曲げ強さは一般的に高く、前述の求められる条件を満たしています。
しかし、問題となるのが弾性係数です。
ほとんどの材料の弾性係数は象牙質よりもかなり高い(=変形しにくい)のです。
そんななか、象牙質と同等の弾性係数をもつ材料があります……
そう、ファイバーです。
もちろん他にも理由はありますが、ファイバーポストが選択されるようになったのは、理想に近い物性だったからです。
(もしくは、理想に近い物性にコントロールできた)
●材料ですべてが解決できるのか?
ファイバーポストの登場当時、私は歯科医師2年目でしたが、業界全体がざわついたのをよく覚えています。
諸先輩方は、おそらく多発する垂直性歯根破折に悩まされてきたのだと思います。
そこに、
「今までの問題を解消できる!」
という触れ込みで登場したファイバーポスト……それは脚光を浴びるはずです。
しかし、残念ながらファイバーポストを導入してもトラブルが止むことはありませんでした。
垂直性歯根破折は減ったかもしれませんが、一方で築造体の脱離や歯頸部における築造体ごとの破折などが多発しました。
ご多分に漏れず、私もいやになるほど失敗ケース(自分の症例も含め)に遭遇しました。
でも、なぜこんなことになってしまったのでしょう。
一番問題だったのは、歯科ではあまり馴染みのなかった線維強化複合材料(≒ファイバー+コンポジットレジン)に関して、
使いこなすための知識や技術をもち合わせていなかったこと、またそれなのに既存の材料と同じような感覚で使ってしまったことだと思います。
しかし、われわれの臨床にファイバー併用レジン支台築造という選択肢が登場し、すでに10年以上経過しました。
そして、現在ではさまざまな研究結果や臨床経験から、守るべきルールが明らかになってきています。
●大切な3つのポイント
ファイバー併用レジン支台築造を行うにあたり、私が最重要と考えている3つのポイントがあります。
1)歯肉縁上歯質の獲得
2)ファイバーアレンジメント
3)根管象牙質との接着
この3つのポイントをクリアすることで、予知性の高い支台築造を行うことができると考えています。
当然ながら支台築造を行う前には、確実なう蝕除去および適切な歯内療法が行われている必要があります。
というわけで、次回からはこのポイントを1つずつ掘り下げていこうと思います。
お楽しみに!
[今回のポイント]
・生活歯と失活歯は、構造自体が異なる。
・支台築造体には、象牙質と同じように変形し、かつ象牙質よりも壊れにくい物性が求められる。
参考文献
1.小田豊.材料から見た支台築造.接着歯学 1999;17(2):125-133.
2.真鍋顕.私が考える支台築造とその実際.接着歯学 1999;17(2):147-153.
3.Pegoretti A, Fambri L, Zappini G, Bianchetti M. Finite element analysis of a glass fibre reinforced composite endodontic post. Biomaterials 2002; 23(13):2667-2682.
デンタルクリニックK
渥美 克幸
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