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MAIL MAGAZINE メールマガジン

【5】歯冠形態の変化に敏感な人はいませんか? 舌乳頭とドライマウスの意外な関係

2017年12月04日

こんにちは。

日本大学松戸歯学部の遠藤眞美です。

今回のメールマガジンでは、一般歯科診療所で出会う可能性の高いドライマウスについて連載させていただいています。

前回は、夜間開口など唾液の過蒸散によるドライマウスについて紹介しました。

今回は、強い口腔内違和感や痛みをともなう口腔粘膜の乾燥について考えてみたいと思います。

このような症状のもっとも頻度が多い原因が、口腔粘膜の萎縮による保湿力の低下です。

「口腔粘膜の萎縮とはどんな状態?」と思った方がいるかもしれませんが、舌背部の粘膜でイメージするとわかりやすいかと思います。

皆さんのよく知っている地図状舌や溝状舌、平滑舌などといった状態です。

通常は、ブツブツした舌乳頭が、粘膜上に唾液を保持(保湿)しています。

しかし、舌乳頭が萎縮するとブツブツがなくなり、
唾液を保持できる表面積が小さくなり、必要な唾液を保持できなくなります。

また、平滑舌のようにブツブツした舌乳頭がまったくなくなると、
唾液が流れて粘膜表面に唾液がなくなってしまうわけです。

「舌乳頭が唾液を抱える!?」なんて考えたことなかったのではないですよね。

舌乳頭の角化である舌苔を見つけると、
親の仇のようにゴシゴシと除去して舌乳頭を萎縮させてきた方はいませんか。

したがって、舌乳頭はドライマウスに重要な役割を果たしているので
むやみに除去することはお勧めできません。

このような状態では、
唾液による粘膜保護作用がなくなり、
歯や食物が粘膜にあたると微小な擦過傷を生じて痛みを患者さんが訴えるようになります。

積極的な歯科治療、たとえば補綴処置を実施しているような期間では、
患者さんは歯冠形態の変化に対して過敏な反応を示したり、
治療部位の形などを気にして、暇さえあれば舌の先で触れて確認しようとするために、
舌尖部付近に深い傷ができて舌痛症のようなヒリヒリ、ピリピリとした慢性的な痛みをともなうようになります。

強い痛みを感じて患者さんは頻回に連絡してきたり、来院をします。

しかし、歯科医療者側としては出血をともなうような明らかな傷を肉眼的に認めないために
「気のせいでは?」「神経質な患者さんだな」と考えてしまう傾向にあります。

一方、患者さんも自分の口腔粘膜が粘膜萎縮してドライマウスとなっているという自覚はありません。

それどころか、

「治療によって歯がとがった……」
「治療をするまで舌は痛くなかったのに……」

などと違和感ばかりに目がいき、

「あの先生は下手なのではないか?」

と自分の受けた歯科治療が不適切ではと考え、
歯科医療者への不信感を募らせてしまうことが多いように感じます。

粘膜の萎縮を生じる原因は、貧血や栄養不良などが知られていますが、
明らかな原因を認めない場合もあります。

爪の脇にできるささくれと同じような感覚で、明らかな病気ではありません。

また、シェーグレン症候群などの唾液分泌が極度に減少する疾患では、
唾液分泌減少によって粘膜が乾燥したことで粘膜が萎縮し、
口腔内がいっそう乾燥するといった悪循環を引き起こすことがあります。

まずは、栄養バランスのとれた食事内容の指導や漢方薬の処方などを行います。

食事は個人の責任であって、歯科医療職が栄養指導を
積極的に行う必要がないと考えている方がいるかもしれません。

しかし、食事というのは、
良好な口腔形態・環境と口腔機能がなければ行えません。

口腔解剖・環境にアプローチできる唯一の医療職が、歯科医療職です。

かめる入れ歯を作ればおしまいということではなく、
そこから何を食べるか、
どう食べるかまで相談・指導できる食事の専門家としてかかわっていただきたいと思います。

しかし、食事指導をしてもすぐに萎縮が改善するわけではありません。

強い痛みがあるために、
食事摂取が困難となっている場合は対応に苦慮する場合があります。

そのような場合は、
対症療法として口腔粘膜全体を口腔保湿剤や人工唾液などを応用して痛みをとることを第一目標とします。

口腔保湿剤によって粘膜が保護されると、
痛みが軽減して食事が可能になります。

また、潤いによって食事のおいしさも広がりやすくなるので、
おいしい食事ができるようになります。

おいしく楽しい食事は、栄養改善につながり、舌乳頭が復活してきます。

口腔保湿剤は、使用目的によって、液状からジェル状と剤型が異なります。

一般に、液状は粘膜へ直接的に水分を与える与湿を、
ジェル状は粘膜上の水分を閉じ込めて蒸発防止をするのが目的です。

女性の化粧品で考えると、前者が化粧水、後者が乳液といった感じですね。

一方、口腔保湿剤は比較的新しい剤なので、
専門家であっても誤った方法で使用している場合があるようです。

たとえば、強く乾燥している粘膜に、
蒸発防止をするジェル状だけを塗るといった誤った方法です。

この場合、ジェル状の口腔保湿剤は乾燥した粘膜となじむことがないので、
保湿剤の膜が時間とともに水分を失っても、粘膜の上にかたまって残りつづけることになります。

すると、ベトベトして気持ち悪いといった不快症状が増してしまいます。

治療後の歯冠形態や補綴装置の形に
とても敏感な患者さんの対応は苦労しますよね。

その方の口腔粘膜をもう一度、確認してみてください。

粘膜が萎縮していませんか?
舌乳頭がありますか?
異常なまでの舌ケアをしていませんか?

決して気のせいではなく、わがままを言っているわけではなく、
実際の感覚を訴えているだけなのです。

痛みは日常生活でもっともストレスになると言っても過言ではありません。

少しでも生活が楽になるように、
歯科専門職だからできる口腔保湿剤などの口腔の環境整備とともに日常の食事指導の両面から接することが重要です。

そうすることで、患者さんが痛みから解放されるだけでなく、
歯科医療者や歯科医療そのものへの信頼度もアップし、
患者さんと歯科医療職の関係にも潤いが実現することになるのです。

日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座
遠藤眞美
http://www.mascat.nihon-u.ac.jp/hospital/guide/9_tokushu.html