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【6】あたりまえ 6 :痛くなければ怖くない!

2017年09月19日

こんにちは!

墨田区で開業しております、杉平(すぎひら)と申します。

このメルマガでは、サービス業としての歯科クリニック運営について、
当院で取り組んでいることをご紹介させていただきます。

前回、患者さんは歯科治療の何が怖いのかというお話をさせていただきました。

いろいろ項目を挙げましたが、結局はほぼすべて痛みに対する恐怖です。

「歯医者は怖い」=「歯医者は痛い」です。

逆に言うと、「痛くなければ怖くない」ということになりますが、それが簡単なことではないのは誰もが知っていることです。

ただ、「痛くない」を実現できれば、歯科恐怖症の患者さんは症状が改善しますし、
子どもたちも痛い治療を経験せずに成長できれば将来「歯医者怖い」なんて言われることもありません。

当院を訪れる患者さんにはぜひともそうなっていただきたいので、
診療においてはさまざまな工夫をしています。

今回は、当院が実施している歯科恐怖症患者への取り組みの一部である、
浸潤麻酔についてお話をさせていただきます。

まずはじめに、「麻酔が効きづらい体質と言われました」と患者さんから聞くことがありますが、
それは一体どんな体質なんでしょうか?

麻酔がまったく効かないということはありませんので、
考えられることは「麻酔が効きづらい部位だった」もしくは「麻酔が効きづらい状況だった」くらいです。

そういう「体質」の患者さんのレントゲンを見てみると、
ほぼ全員下顎大臼歯が抜髄されているか、大きな修復物が入っています。

強い炎症の場合は仕方がないと思いますが、
麻酔が奏功しないのを患者さんのせいにするのはいかがなものでしょう。

「私は麻酔が効かないから処置は全部痛いんだ」と思われてしまうと、
恐怖症の克服はできません。

私もすべての症例で完全に麻酔を奏功させることはできません。

ですが、原因は自分の手技の練度不足です。

体質ではなく奏功しづらい部位があることをしっかりと伝え、
「頑張って効かせるから痛みを我慢しないで!」と話をすれば、
患者さんは安心して身を任せてくれます。

そして、麻酔がしっかり奏功すれば、処置は痛くありません。

痛くない処置を繰り返せば、
患者さんから恐怖感がどんどんなくなっていきます。

また、診療中に発生する偶発症のほとんどが、
痛みなどのストレスが原因ですので、思わぬ事故を防止することへもつながります。

「いや、そもそも麻酔が痛いから怖いんです!」という話もよく聞きます。

たしかに、何も考えずに歯肉へ刺入して薬液を入れると激痛で飛び上がりそうになります。

私はそれがトラウマで、人に麻酔されるのが嫌いです。

だからこそ、患者さんにはそんな体験してほしくないと思っています。

臨床経験を積んでいくなかで、浸潤麻酔に関していろいろ試行錯誤した結果、
「基本的な手技が一番痛くない」という結論に達しました。

「え? 今麻酔したんですか? 針刺されたこともわかりませんでした!」
と言ってもらいたくはありませんか? 

痛みのない浸潤麻酔の方法は、
手順をしっかりと踏めば意外と単純なものなのです。

その手順を以下に紹介します。

[1]目的の部位にもっとも近い齦頬移行部を乾燥させる
[2]表面麻酔薬をロールワッテなどで塗り込む
[3]そのまま2分程度保持する
[4]デンタルミラーなどで頬粘膜を引っ張り、できるだけ緊張させる
[5]浸麻の針を、なるべく粘膜と平行になるよう刺入する
[6]薬液をゆっくり注入する
[7]必要に応じて、麻酔奏功部位へ追加で刺入、薬液注入していく
[8]5~10分待つ

それぞれ詳しく説明します。

[1]
最初の刺入部位は必ず齦頬移行部です。
表面麻酔薬は唾液があると粘膜に浸透しませんので、エアブローでしっかりと乾燥させます。

[2]
私はロールワッテで塗り込みます。
10ストロークほど擦り付けるようなイメージで塗ります。

[3]
唾液が流れ込んでくると表面麻酔薬が流されてしまうので、ロールワッテをそのまま保持します。
表面麻酔は平均1分で奏功しますが、1分では効いてない場合もありますので2分待ちます。

[4]
ロールワッテを撤去し、頬粘膜を引っ張ります。
この時、粘膜面が乾燥状態でシワシワになっていることを確認します。
浸麻針刺入時に粘膜を緊張させていないと刺入角度がついてしまいますので、強めに引っ張ります。

[5]
浸麻針は33Gを使用します。
針のカット面を上に向け、粘膜面を持ち上げるようなイメージで浅く刺入します。
カット面が隠れたら、薬液を注入します。
ちなみに薬液は温めても疼痛軽減効果はあまりみられないため、室温程度です。

[6]
薬液の注入速度はカートリッジ1/2(0.9ml)を1分間かけて注入するのが良いとされていますが、この速度だと痛みを感じる場合が多々あります。
私の場合は、最初の1/5(0.3~0.4ml)を1分間かけて注入します。
その後、刺入部位を変えずに少しずつ速度を上げていき、1/2量をトータル2分間で注入します。

[7]
処置によって奏功させなければならない範囲が違いますので、必要に応じて追加注入していきます。
ただし、必ず麻酔奏功部位にのみ刺入するよう気を付けます。
エピネフリン添加の局所麻酔薬であれば、奏功部位が貧血状態になりますので、歯肉が白く変色した部位に刺入・注入していきます。
時間はかかりますが、これを繰り返せば口蓋側・舌側への浸潤麻酔も無痛で行うことができます。

[8]
麻酔奏功までの時間は1分20秒以上とされていますが、部位や皮質骨の厚みなどにより延長することのほうが多いので、
前歯・小臼歯は5分以上、大臼歯・智歯は10分以上待つようにしています。

実際はもう少し細かくやっていることがあるのですが、
このやり方であれば、小児でも気づかれずに麻酔をすることができます。

痛くなければ、子どもたちも頑張って口を開けてくれます。

痛くなければ、治療が怖いと思っている人も頑張れます。

今回で最終回となりましたが、少しでも「歯医者が怖い」と思う患者さんがいなくなればと切に願います。

3か月間、どうもありがとうございました!

参考文献
1.仲西修、山室宰、岩本将嗣、川原博、今村佳樹、西正勝:局所麻酔注射における注射液温度と注入時疼痛、日本歯科麻酔学会誌 1995;23(3):484-489.
2.笹尾真美.よりよい歯科用局所麻酔薬をめざして―浸潤麻酔効果の検討―.日本歯科麻酔学会誌 2006;34(2):126-134.
3.斎藤毅、塩野真.保存治療における注射部位とオーラ注の使用について.Ora Dental Topics No.1,JUNE, 1998.

カルミアデンタルクリニック院長
杉平 亮介
http://kalmia-dc.com/