2001年06月18日
平成9年4月1日に新潟大学歯学部に加齢歯科学講座が新設された。その2年後、私は、それまで9年間勤務した東京都リハビリテーション病院から当講座に赴任した。
「加齢歯科学とはなんだろう?」
全国には29の歯科大があるが,かような講座は他になく、前例のないものに素朴な疑問をもった。
「既存の講座や診療科がしていないことを、しなくてはならない。」
平成11年4月より半年間の試験期間を経て、同年10月に摂食・嚥下リハビリテーション外来と味覚外来を加齢歯科診療室に開設した。
対象患者は,全身的疾患の有病者あるいは障害者が主体をなすが、先天性疾患をもった0歳児から100歳過ぎのお年寄りまで年齢は問わない。
手法は、1.歯科疾患治療、
2.口腔ケア、
3.摂食・嚥下リハビリテーション
の3つを柱に展開している.
●「新しい試みには、どうしても壁がある。」
従来通りの外来診療に加えて、入院診療(入院リハビリテーション)、および、訪問/在宅診療(在宅リハビリテーション)を一人の患者に組み合わせながら対応している。
しかし、口腔外科疾患以外での入院歯科診療、しかも脳卒中や痴呆といった患者の歯科病院入院診療はほとんど例がなく、訪問診療にいたっては事務サイドに歯科に訪問歯科診療があることすら全く認識のない状態であった。
院内スタッフ1名1名にその都度足を運び、診療の必要性、患者の安全性の確保について理解してまわった。加齢歯科の患者の入院は院内で認識してもらえるようになり、訪問診療においては、学部公用車を共有車として名目を改め使用可能になった。
院内他科や医学部附属病院、地域の診療所からも患者紹介を受け、暖かい支援と理解を示して下さるスタッフに、今は、心から感謝している。
●「歯科教育に浸透させたいもの」
加齢歯科の講座は、歯科補綴学や保存学なみに授業単位は配分されており、2年の教養過程から始まり、3年は実習(介護実習)込みの14単位、4年は前期・後期通じての30単位、5年は個別学習として16単位、6年はポリクリによる院内見学実習と特別養護老人ホームへの学外研修である。
慢性疾患、退行性疾患患者に対して治療手技もさることながら、ケア、介護といった視点を取り入れる必要がある。同じ疾患でも障害が長期化すればするほどマニュアル治療ではなく、個別対応が必要となる。
そんな思いを教育に浸透させていく術を模索している。
●「至らない自分」
講座の人員は教授以下、助教授、助手3名、大学院2名、研修医5名であり、平成13年4月から新たに医員の席を2つ確保できたので、2年の研修を終えた2名がスライド式に就任し、新卒の大学院1名、社会人大学院1名、研修医1名が加わる。
私個人的には、若手研修医と大学院生達の優秀さには驚かされている。日常臨床においては、外来診療室、院内病棟,医学部附属病院病棟、学外施設、患者宅へと息つく間もなくひっぱり回しているが、彼等は見事にスケジュールをこなし、さらに患者への心づかいは,むしろこちらが見習いたくなることもしばしばである。
新しいことを試みるにあたり、新潟大学の仕組みに素人な自分の巻き散らす問題を、教授の指示や助手の先生方の適切なフォローで難をのがれている。
何度も反省し、それでも懲りずに問題をあぶり出している日々である。