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歯科医院経営でやってはいけない10か条 /【第1条】以心伝心はスタッフには通用しない!【第2条】あいまいな組織構造にしない

2012年04月16日

【第1条】 以心伝心はスタッフには通用しない!

以心伝心とは、ご存知のように、言葉や動作などを用いずに自らの想い・考えを伝えることです。
これはもともと禅の思想で、文字や言葉ではなく心から心へとその真髄を伝えることを意味し、文字や言葉ではその真髄を表現しきれないことを示しています。

しかし、医院経営において以心伝心になることは基本的にありえません。
もちろん、長く働いているスタッフとの間で、業務に関することに限定すればありえるかもしれませんが、こと経営に関してはありえません。

たとえば、医療機関として何を目指し、地域生活者にどのような価値を提供し、何を指針に行動し、仕事を通してスタッフにどのような人間に成長してほしいのか、目標を達成することにどんな意味や意義があるのか……などは、院長が常日頃どんなに考えていたとしても、きちんと言葉にして伝えないと、スタッフに伝わらないのです。

こういった内容をまとめたものが「理念」です。

理念は、目標設定、経営判断、現場での行動指針、スタッフ教育など、目標達成ができる強い組織をつくるのに不可欠なものです。

もし理念を持たずに、経営をしているとしたら、それは羅針盤を持たずに大海原に船を漕ぎ出すようなもの。
それでは目的地に到達できないどころか、遭難や難破をしてしまうことだってあるでしょう。
私なら、怖くて理念を持たないまま経営なんてできません。

もちろん、理念はあればいいというものではありません。

よく響きがカッコいいだけの理念も見かけますが、理念は飾り物ではありませんから、みんなが理解できるものでなければ意味がないのです。

たとえば、理念の中に「最高の笑顔を提供する」という文言があったとしましょう。
あるスタッフは医療技術で笑顔にしようとし、別のスタッフはホスピタリティな対応で笑顔にしようと考えていたとします。
そうなると、両者はまったく違う行動を起こすようになるので、組織はまとまらなくなったり、患者さんの信頼を失うことになったりするのです。

すべてのスタッフが理解でき、そして共感・共有ができる理念をつくり、それを朝礼などで何度も口に出して伝えていきます。
スタッフが問題のある行動をしたときも、理念に照らし合わせて、なぜいけなかったのかを説明します。
もちろん、スタッフが理念にそった行動をしたときは褒めたり、認めることです。

「わざわざ言わなくても気づいてくれるだろう」という妄想を捨て、理念という軸にそって、きちんと言葉にして伝えることで、強い組織をつくることができるのです。

【第2条】 あいまいな組織構造にしない

こんなことをいうと、お叱りを受けるかもしれませんが、歯科医院で一番多い組織構造は「サル山タイプ」です。
院長(ボスザル)の位置はハッキリしているのですが、その他のスタッフにほとんど秩序は存在しません。
あるとすれば、勤務医(歯科医師)、歯科衛生士、その他……という序列くらいでしょう。

こういった組織構造では、強い組織をつくることはできません。
なぜなら、担当と責任の所在が明確になっていないからです。

たとえば、先生の医院で、新しい歯科衛生士が入ってきたときに、その人を育てる担当と責任の所在は明確になっているでしょうか?

よくあるのが、院長が朝礼などで
「新しい歯科衛生士さんです。皆さんいろいろと教えてあげてください」
とだけ告知をするパターン。
誰が担当で、何を教える責任があるのかが明確になっていないと、それぞれのスタッフは「自分はどこまで教えればいいのだろう?」とわからなくなってしまいます。
それに、歯科医院特有の「歯科医師>歯科衛生士>その他のスタッフ」という序列があるゆえに、歯科助手や受付は遠慮して自院のやり方を伝えられなくなってしまうのです。

組織構造がないと、こういった事態は新人教育だけでなく、あらゆる業務の中で起こってきます。
そうならないためには、組織構造、つまり組織としてのフレーム(部署と責任)を明確にすることです。
そうすることで、はじめて組織は、経営者を頭脳とした一つの体になり、機能するようになります。

「そんなことをいっても、うちは小さな組織だから……」とおっしゃる先生がいるかもしれません。
でも、受付が1人であったとしても、「受付部」をつくるのです。
そして、受付部で担当する業務と、何に責任を持たないといけないのかを明確にします。

人間が、立場と責任を与えられると、自信や責任感を持つようになり、成長するということは、心理学の実験でも証明されています。
小さな組織でも、組織フレームを明確にすることで、パフォーマンスの高い集団にできるのです。

組織フレームを決定するときの注意点としては、「歯科医師>歯科衛生士>その他のスタッフ」という序列を捨てること。
ある歯科医院では、開業のときからずっと働いている歯科助手が、衛生部の責任者をしています。
歯科衛生士さんは確かにプロとしての知識は持っていますが、それと、院長の目指す方向性を理解しているというのは別の話。
無資格でも、院長の分身ともいうべき人が責任者になるほうが、いい組織になることだってあるのです。 

医療法人社団いのうえ歯科医院
理事長歯学博士・経営学博士
井上 裕之
http://www.inoue-dental.jp/