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歯科医院経営でやってはいけない10か条 /1:プロローグ――「足し算」から「引き算」へ発想を転換させる

2012年04月02日

「何をすれば、いのうえ歯科医院のような医院ができるのでしょうか?」
そんなご質問を受けることがよくあります。

考えてみれば、私が病院で治療に当たるのは、毎週、月、火、水、木の4日間。
木曜日の診察が終わると、十勝帯広空港から東京に飛び、ベストセラーになった著書に関連するセミナーや、企業経営者の相談を受けたり、大学での教鞭をとって週末までの時間を過ごします。
ホテル滞在も多いのですが、ホテルの選択も状況に応じて決めていますし、ホテルのサービスの活用も十分に把握していますので、まったく不便はありません。
私が不在の、金、土曜日は、もちろん勤務医とスタッフだけで医院は運営されているのですが、それでも受付も含めたスタッフ1人当たり月間売上においても、企業経営の専門家の方からは、想像できない稼働率であるといわれ、開業以来、毎年増収増益の記録を守っています。

こんなお話をすると、さぞかしネット回線を使ったスタッフ管理プログラムを駆使し、スマートフォンなどを使って組織管理をされているのだろうと思う方もいらっしゃるかもしれません。
確かに出張中にスマートフォンとにらめっこをしながら、そういったプログラムを使って組織管理をしている経営者もます。
でも、私はそのようなものは利用していません。
いや、使っていないどころか、医院を一度離れると、組織を管理するようなことは一切していません。
1日の終わりに勤務医からのメールが届くので、ホテルに帰ってから、それをチェックする程度です。
管理といえば、医院にいるときも何か特別な問題がない限り、長々と時間をとってスタッフの面接をするようなこともしていません。
そんなことをしなくても、スタッフは自主的に目標達成を目指し、創意工夫や改善をしてくれるからです。
つまり、私がいなくても医院の売上目標を達成するために、モチベーションを高め、問題点を見つけ出して解決する組織になっているのです。
ある意味これは、国際基準化のIS09001・14001の統合化による仕組みによるものであると考えています。

オリックス株式会社の取締役兼代表執行役会長であり、グループ最高経営責任者である宮内義彦は、組織について「経営トップが6ヵ月休んでも会社はビクともしない。
ただし3年さぼったら会社がおかしくなるといった体制を作るのが、経営トップの仕事だと思っています。
日々のオリックスは、課長クラスが動かしていることになります。
もしこのような形で、それぞれの管理職が自らの持ち場を守って仕事ができるとすると、経営トップは自社の3年先の姿を描き、それに向けて大きな戦略的なことに目を向けることができます」といっています。
経営者の仕事は、目の前の業務をこなすことではなく、将来のビジョンを描き、それを実現するための戦略を考えること。
とくに、現代のように経営を取り巻く環境が厳しくなり、先行きも不透明だとなると、経営者がビジョンと戦略を考える時間を持つことの重要性は、さらに高まっていると思います。
私もそのとおりだと考え、歯科医院経営を行ってきました。
もちろん、歯科医院という性質上、3年間も院長が不在にすることはできませんが、それでも1年の半分くらいは院長がいなくても、十分に機能する医院を作ることはできるのです。
もちろん、いのうえ歯科医院も一朝一夕で、今のような組織ができたわけではありません。
今のようなスタイルを築くまで、私自身、経営論やマーケティングなどさまざまなことを学び、実行し、失敗しては再チャレンジをする、ということを繰り返してきました。
でも、そんな中で気がついたのが、理想の組織を作っていくのに重要なのは「何をするべきか」より、「何をしてはいけないのか」ということを知るべきだということです。

冒頭に「何をすれば、いのうえ歯科医院のような医院ができるのでしょうか?」という質問を受けることがあると書きましたが、そのように考え、経営に関する勉強をたくさん学ぶより、やってはいけないことをやらないほうが良い組織ができるのです。

つまり、「足し算」から「引き算」への発想を転換することが大切なのです。
今回、株式会社モリタさんとお話をしている中で、そういった私の経営に関する考え方の話題になったところ、「それ面白いですね。他の医院の先生にも是非、聞いていただきたいのでメールマガジンに連載しませんか」というご提案をいただきました。
私の経験が、真剣に経営に取り組んでいる多くの先生の少しの参考にでもなるのであれば、それほど嬉しいことはないと、私も喜んでお受けすることにしました。
発想を転換すれば、同じ経営が今までとまったく違うものに見えてきます。
次号から始まる「やってはいけないこと」のシリーズが、厳しい経営環境にある歯科界を元気にする一つのきっかけとなることを祈っています。

医療法人社団いのうえ歯科医院理事長
歯学博士・経営学博士
井上 裕之
⇒ http:/www.inoue-dental.jp/