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スポーツと歯の食いしばり ~その2~

2006年04月03日

体の軸を決める(下顎の固定は頸部の固定)

本メールの読者の方から、スポーツと食いしばりに関する資料をいただいた。
その内容を要約すると、“1)すべてのスポーツで歯を食いしばっているのではない。2)背筋力やゴルフのインパクトの瞬間の筋活動量を調べたところ、顎二腹筋が最大の変化を生じ、咬筋や側頭筋より大きかった。“とのことである。

前者の意見はもっともであるし、私も同じ考えである。
例えば、ボールを投げるときには、食いしばることはない。
食いしばると、体が硬くなりコントロールがつかないスポーツ時に食いしばるのは、闘争本能により交感神経優位の状態になる。
そこで、上位中枢の抑制が解け、全身の筋肉を緊張させるため“食いしばり”が発現すると考えていることは前回述べた。

それでは、開口筋である顎二腹筋は、どうして活動電位が増えたのだろう?
今回は、この点について述べてみよう。
さて、重心移動計という装置を用い実験した。(参考1)
 
 
参考1

 
 
これは体のバランス能力を測定する器械である。
目を閉じて立つと、体が揺れる。
この揺れの軌跡の長さや、面積によりバランス能力を測定する。(参考2)
 
 
参考2

 
 
揺れの長さや面積が多いほど、バランス能力が低いと考えられる。
総義歯を装着した高齢者に、目を開けたまま30秒間立っていただいた。
その結果、揺れの長さや面積は小さいことがわかる。(右下)
次に、そのまま目を閉じて立つと、揺れが増した。(右上)
目がバランス能力に影響を与えることがわかる。
次に,義歯をはずし、目を開けると、最初とほとんど変わらない。(左上)
しかし、義歯をはずし目を閉じると、著しく揺れが増した。(左下)
このことより、咬合もバランス感覚に影響を与えることがわかる。

もっと現実的な例を挙げてみる。
これから急な山道を降りるとする。
あなたは、どんな降り方をするだろう?
滑ったり転んだりしないように、一歩・一歩、慎重に足を出す。
この時、歯を軽く当てている。
決して食いしばらない。
歯を当てることにより、体のバランスをとっていることがわかる。

さて直立二足歩行では、脊柱の上に重い頭蓋骨があるので、極めて不安定な状態にある。(参考3)
 
 
参考3

 
 
下顎骨は頭蓋にぶら下がり、さらに不安定といえるだろう。
不意に押されたりすると、下顎が不安定な状態では倒れてしまう。
そこで、頭蓋骨と一体化させるために、下顎の固定が必要となる。
そのために歯を軽く当てるのではなかろうか。

ところで頭蓋は脊柱の上に乗っているだけではなく、頸部筋により固定されている。
そう!開口筋群は、同時に頸部筋でもある。
だから顎二腹筋の活動量も上がるのだろう。
このように歯や閉口筋、さらには頸部筋により、脊柱と頭蓋は強固に固定されている。(参考4)
まさにこの固定が、体の軸を決め運動と深く関係しているのはなかろうか。
 
 
参考4