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冬季オリンピックと歯科治療 ~その1~

2006年02月20日

現在、イタリアのトリノでは冬季オリンピックが開催されている。オリンピックの選手村には、選手や役員を含め2600名が滞在しており、ちょっとした街となっている。これだけ大勢の人々が住んでいるのだから、さまざまな施設が整備されている。なかでも病気や怪我に備え、さまざまな診療がなされている。

そこで今回は、まずこの話題から・・・。
さて、長野オリンピックの前は、リレハンメルオリンピックであった。冬季だから風邪を引いて内科を受診する選手もいるだろう。また練習で怪我をすれば整形外科も必要だろう。もちろん、歯が痛ければ練習にならない。

そこで本日の問題。
さて、このオリンピックでもっとも患者さんが多かったのは、どの科だろう?
1:内科
2:整形外科
3:歯科

この大会では、総患者数のうち約半分が歯科を受診した。
そのため長野オリンピックでは、歯科医は他の科の倍にするよう国際オリンピック医事委員会から指示があった。歯の痛みばかりでなく、競技中は歯に強い力がかかるため、充填物も外れやすい。アメリカのオリンピック選手は、三十年も前から試合前に歯の噛み合わせを調整していた。噛み合わせを良くすることで、最大限の力を発揮できるからだ。そう言えば、短距離走のカール・ルイス選手は、ソウルオリンピックの時、歯の矯正装置を装着して出場していた。
百メートル走で十秒の壁を破るために、矯正していたのだ。10秒の壁を破るためには、可能性のあることは何でも行うのだろう。

そういえばイチロー選手は、スポーツマンらしいすがすがしい笑顔のおかげで、1994年度にザ ベスト スマイル オブ ザ イヤー賞を受賞している。その時のインタビューでイチロー選手は、お風呂に入る回数と同じであり、朝一度、練習後のシャワーで一度、寮に帰って一度、夕食後一度、晩の練習後一度、歯を磨くと述べている。一日に五回も歯を磨いていたのだ。
イチロー選手が、アメリカ大リーグで成功している背景には、このような日々の努力が重要なのだろう。

相撲の世界においても、歯が悪いと三段目以上の力士にはなれないと、ある相撲部屋の医者が言っていた。また、小型の力士の方が早く歯を失うそうだ。どうしてだろうか?小型の力士は、大型の力士ほど体格に恵まれていない。だから、大型の力士に打ち勝つためには、体中の筋肉を振り絞って戦う必要がある。
そのために歯を食いしばり過ぎ、だめになると言う。プロ野球ソフトバンクの王監督は選手時代、ホームランを打つとき、激しく歯を食いしばったので歯が悪くなったという話は、あまりにも有名である。また、プロ野球の某監督は現役時代、歯は資本なので、税金の申告の際には、治療費を経費として計上していたという話がある。プロの選手にとって歯は戦うための武器なのだ。

以前、あるノンプロ野球チームの歯科健診を行った。エースの投手と四番打者だけは、歯を診ただけで言い当てることができた。驚くほどまでに完璧な歯をしていたからである。少なくとも、プロ選手としての必要条件が歯にはありそうだ。

さて、歯と運動は、プロスポーツに限ったことではない。これは一般人にも言えることだ。中学生を対象に運動能力テスト・体力テストと歯の関係について調べたことがある。ほとんどの歯の良い中学生は、ほとんどのスポーツテストにおいて優っていることが証明された。歯の良い中学生は、悪い者に比べ、握力は三キロ・背筋力では十三キロも優っていた。歯を食いしばることで力を発揮できることがわかる。さらに、ハンドボール投げでは二メートル、走り幅跳びでは三十センチメートル、五十メートル走においても0.3秒早く走っていた。歯と運動は、切っても切れない関係であることがわかる。
 
 
図2

 
 
図3

 
 
図4

 
 
 
ところで、冒頭で紹介した王監督や相撲力士の例で、仕事をしすぎて歯を悪くすることを何と呼ぶか御存知だろうか?これこそ過労歯(かろうし)だ。過労歯を予防するためにも、日頃からの歯のケアが必要なのだ。
 
 
写真1:歯が悪いと三段目以上になれないという。

 
 
図2・3・4:咬合接触面積と中学生の運動能力