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咬合と発音機能 ~その4~ —舌の進化と発音—

2005年09月05日

サカナの口の中を覗いたことは、あるだろうか?
薄くて硬い舌がある。ちょうど小さな靴ベラのようだ。
しかし筋肉がないので動くことはない。
サカナは、水の中を泳ぎ廻ったり、水の流れにまかせて獲物を捕るため、舌を動かせる必要はない。

さてヒトは、魚類からカエルなどの両生類、ヘビやワニなどのハ虫類を経て、哺乳類に進化してきた。
そのため、ヒトの体の中には、それぞれの時代に獲得した秘密が隠されている。

それでは、いったい舌は、どの時代から動き出すのだろうか?
実は約4億年前。サカナが地上に上がった頃からだ。

最初の両生類が地上で食べたもの。
それは空を飛んでいた昆虫だった。
両生類は、手で昆虫を捕ることができない。
そこで、舌の筋肉を発達させ獲物を捕らえたのだ。
カエルが舌を伸ばしてエサを捕らえることを思い浮かべればよい。
まさに、舌は獲物を捕らえ食べるために“ノドから手が出た筋肉の塊”なのだ。

そういえば解剖学の授業では、舌の神経支配が複雑であったことを思い出す。
ちょっと思い出してみよう。

まず、舌の分界溝を境にして、舌の前2/3(舌体部)と舌の奥1/3(舌根部)では神経支配が異なる。
そして、味覚と一般知覚(痛みなど)でも神経が異なる。
前方2/3の味覚は顔面神経(鼓索神経)、知覚は三叉神経(舌神経)により支配され、後方1/3の味覚は舌咽神経と迷走神経により、知覚は舌咽神経による。

一方、運動神経は舌下神経だ。
舌の神経支配を暗記するのはたいへんであった。
まるで舌が、試験を落とすために難しくしているとさえ思ったものだ。
でもどうして、舌体部と舌根部は、神経支配が異なるのだろう。

この理由、舌の進化とつながりが深い。
ヒトの舌根部は原始舌(一次舌)と呼ばれる魚類の舌であり、 舌体部は両生類が発達させた二次舌なのだ。

さて舌は、発音機能とも大きく関係する。
ここで、人差し指を口に入れ口蓋の中央部を触ってみよう。(図1)
その状態でア~!と言ったらどうだろう?
舌は指に触れないことがわかる。

 

図1

 

次に、“カ”と言うとどうだろう?
舌には指が触れないで、奥の部分が上がることがわかる。

さらに、“タ”と言うと、舌の前半分が、指に強く当たる。
“サ”では、舌が少ししか当たらない。

最後に、“ラ”ではどうだろう。舌で指を舐めているような感じがする。

舌の動き方は、発音に深く関係していることがわかる。
小児の吸啜や咀嚼運動の発達は、同時に舌機能をも発達させる。
言い換えれば、子どもの舌機能に問題があると、発音にも影響するのだ。
 
 
※参考:岡崎好秀:謎解き口腔機能学、クインテッセンス出版、2003.

 

図1:発音と舌機能