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咬合と発音機能 ~その2~ —阿吽(ア・ウン)の呼吸—

2005年08月01日

神社に見られる狛犬の像。
右を“ア(阿)”、左を“ン(吽)”の像と言う。
右は口を大きく開き“ア-”と、左は口を閉じ“ン”と発音している。(図1)

 

図1
狛犬

 

これは、古代サンスクリット語の最初の発音“ア”と最後の発音“ン“を合わせたところからきており、仏教では最初から最後まで、すなわち森羅万象を表している。

ちなみに、阿吽(ア・ウン)の呼吸は、吐く息と吸う息が表裏一体していることから“息が合う”の意味となる。
 
 
さて発声は、声帯を震動させることは誰でも知っているが、それだけでは聞こえない。

声帯は音源をつくりだす場所であり、ギターに例えれば弦にあたる。
弦を弾くだけでは音色を奏でることはできない。
これを共鳴させるのが、咽頭・口腔・鼻腔でありギターの胴体である。(図2)

 

図2
ギター

 

ところで、ヒト以外の動物は言葉を発することができない。
現在、チンパンジーに言葉を教えようとしている研究がある。
絵文字やジェスチャーでコミュニケーションはとれるが、言葉には至らない。

どんなに賢いサルであっても決して言葉を発することはできないのだ。

この理由、ヒト以外の動物では咽頭腔が狭く、音を共鳴させることができないことによる。

ヒトは、二足歩行を獲得したことで気管や気管支、それに肺も下降した。
喉頭の位置も下がり咽頭腔が広くなり、ヒトは言葉を獲たのだ。

しかし失ったものもある。それが誤嚥である。

通常、四足動物では、咽頭腔は狭く、喉頭蓋が大きくて、軟口蓋とほとんどつながる。このため鼻から肺に至る気道と、口から食道に至るルートは立体交差している。

ヒトでは、咽頭腔が交差点であり、成人期までは信号機が働いている。

しかし、加齢や障害により、壊れ誤嚥の原因となる。
 
 
ところで乳児の吸啜は、言葉の獲得のための基本となっている。

乳児の最初の発声には、意味を持たない喃語(なんご)がある。機嫌の良い時など、アーアーという声を出す。この時は、口を開け下顎の固定が必要である。

次に、下顎を動かせると、“アウ・アウ”や“アグ・アグ”と聞こえる。
下顎の動きにより、声が変わることがわかる。

さらに、口を手で断続的に塞いだり、指先で頬を断続的に叩けば、“アワ・ワ・ワ”となる。口や頬により共鳴していることがわかる。

6~7ヶ月頃の乳児は、ダーダー・カンカンなどを言い始める。
これは、舌音であり、舌が動き出すと聞こえるようになる。

構音は、およそ1歳でマ・バ・パ行やナ・ワ行、2歳でタ・ダ・ヤ行、3歳でカ・ガ・シャ・ハ行、4・5歳でサ・ザ・ラ行が発達し、6歳頃に完了する。

これらの音は、口唇や舌などの動きにより作り出される。

言い換えれば、吸啜や咀嚼により口腔機能が発達し、言語機能につながることがわかる。
 
 
 
※参考 岡崎好秀:謎解き口腔機能学 クインテッセンス出版、2003.

 

図1:“阿吽の像”。右は口を大きく開き、左は口を閉じている。
図2:ギターにたとえると声帯は弦、咽頭と口腔は胴体に相当する。