MAIL MAGAZINE メールマガジン

歯科界再生のプログラム

2002年02月04日

※この原稿は、2001年 12/22付・友の会「Fax Box」の「総歯研・増原レポート」に掲載されたものです。
 
 
●生涯を視野に入れた歯科医療を考える
 
 少子高齢化社会を迎える日本、他方では世界一への長寿国へと進む日本、その中でこれからの歯科医療はどうあるべきか、大きな変革を迫られている。

 現在、日本の100歳以上の人は1万5千人余、米国では5万人余である。問題は、日本の老人には寝たきりの長寿者が多いということである。
 昨年、介護保険が導入されて、歯科医師が訪問診療する機会が増えた。
 そこで見えてきたものは、口腔のヘルスケアの介護が進むと、寝たきりの患者の病気回復が促進され、
 自立できるようになるケースが増えるということである。

 これまでは、一般医療と歯科医療は、現場での交流が少なく、患者の悩みが救われなかった。
 この反省から、総合病院などでは、医と歯の相互理解と交流が深まり、全人的医療への変革の思潮が生じてきた。

 昨年から、東京医科歯科大学では大学院歯科学総合研究科を設置し、医学部と歯学部の教官が協力して、
 生涯を視野に入れた全人的医療への取り組みを始めている。

 人生の終末まで、患者が自己の歯列を保全し、不自由なく摂食できるように幼少年期から指導・援助することが、
 これからの歯科医療の進む道でなければならない。
 とくに、高齢者の歯の維持管理(メンテナンス)と口腔ケアーを継続することが大きな業務になる。
 長寿者が元気で楽しく生きていくためには、目・歯・耳の3機能が揃って健全であることが理想であるが、特に歯は生きる力を得る源泉であり、
 80歳、90歳の高齢者にとっては死活問題である。

 いよいよ患者と歯科医師の緊密な協力が不可欠な時代になる。
 そこで民主党の桜井充議員(仙台市出身、東医歯大・医学部卒)が歯科医療改革案をまとめて、12・00運動を提唱している。

 これは12歳で、ムシ歯なしの状態を保つことを目指したものであり、高齢期までの健全な歯列を保全する基礎になるものである。

 
●医療経済学からみた歯科界再生のプログラム

 東医歯大・歯学部同窓会の70周年記念学術大会が、昨年の10月14日に開催された。
 その講演のひとつに、川添孝一教授(東医歯大・医療経済学担当)が、歯科界が再生するには、国民の歯科受診率を向上することが、
 基本的に重要であることを指摘した。この提言は、日本と米国の歯科受診率や、
 口腔状態の資料を比較検討することによって発見された事実に基づくものである。

 日本は国民皆保険であり、人口10万人当たりの歯科医師数は71人(2000年)であり、米国では61人で日本の方が多い。

 これに対し、米国では公的保険制度は私的と公的になっていて、日本のような皆保険ではない。
 この環境からいえば日本の方が歯科受診率も高く、国民の口腔状態も良好なはずである。
 しかし、結果は逆である。
 日本の受診率は41.4%、米国は高所得者層79.4%(年収35,000ドル以上)低所得者51.2%(年収1,5000ドル未満)である。
 口腔状態をDMF(齲蝕経験指数)で比較すると、12歳児では日本人で2.4本、米国人で1.3本、34歳から44歳までの10年間では、
 日本人15.5本、米国人13.3本、65歳では日本人24.8本、米国人22.1本であった。

 こどもにおけるシーラントの実施率を比較すると、日本は5~14歳で8%、米国では高所得者層で40%、低所得者層で12%である。
 日本人におけるシーラントの実施率の低さは、予防歯科医療が定着していないことを示している。
 米国の民間保険では、予防医療に対する給付率が高く設定されている。
 米国もドイツもすでに予防歯科に力を入れているが、日本はそれを怠ってきたのである。
 日本の歯科医療を再生するには、予防・早期治療を組み込んだ新体制に、早く思考転換すること(パラダイムシフト)が必須の要件である。
 具体的には、幼少年期から予防と早期治療を含めた定期検診を実施し、
 中高年から高齢期まで口腔ケアーとメンテナンスを含めた定期検診を継続してこれを習慣づけることが再生のプログラムである。

 そして、終末期まで自己の歯列を保全して快適な食生活ができるようになれば、
 地域のかかりつけ歯科医師の存在価値が高く評価され、日本の歯科医療が再生することになると思われる。

※参考資料
 川添孝一「受診率および口腔状態に関する日米比較からの発見」(口腔病学会誌68巻2号、178~188,2001年)