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【1】咬合採得のコツを教えます

2016年07月04日

こんにちは、東京および北海道札幌市で、総義歯治療専門歯科医師として働いております松丸悠一です。

このメルマガでは「総義歯臨床のちょっとしたコツ」をテーマに、いろいろな術式や考え方がある総義歯治療に関して、
現在のところ私がスッキリしていることを中心にお伝えしていきたいと思います。

総義歯治療の良し悪しを歯科医師目線でなく、患者目線で評価しようという世界的な流れを受けて、
患者満足度にて治療を評価した論文が報告されてきています。

そのなかで、適切な顎間関係がもっとも患者満足度に影響しているという報告があります。

これは私自身も重要なポイントだと考えています。

その顎間関係を得るための「咬合採得」を第1回のテーマにしたいと思います。

総義歯治療とは1本も歯が残っていない状況でのフルマウスリコンストラクションであり、咬合を設定する自由度が高い治療です。

そのためにいろいろな術式が臨床応用されています。

でも日常では
「総義歯治療で一番難しいのは咬合採得だ」
「顎位はどのように決めたら良いのかわからない」
「複雑な装置などが必要なのだろうか」
という声を聞きます。

さて、みなさんはどのように咬合採得を行っていますか?

一般的なろう堤が付与された咬合床を用いて咬合採得を行う場合、咬合高径の設定と水平的顎位の設定は同時進行になりますが、
ここは1つずつフォーカスしお話したいと思います。

まずは咬合高径の設定からいきましょう。

現在は画像診断などのツールも進化して、より客観的かつ再現性のある術式も提案されてきています。

しかし、いまのところ、総義歯治療が必要とされる現場環境や治療行為に対しての費用対効果の面で、
卒前より教えられてきている術式で行わざるを得ないのが現実的だと思います。

たとえば、

形態的根拠に基づく方法として、下記のような術式が挙げられます。

[1]顔貌計測法(Willis法やMcGee法、Bruno法など)
[2]模型計測法(A点-B点間距離、翼突下顎ヒダとレトロモラーパッド間距離など)

機能的根拠に基づく方法として、

[3]下顎安静位利用法
[4]下顎位置感覚測定法
[5]嚥下法
[6]発音利用法

まずは、咬合床を準備しないといけませんね。

この時に準備された咬合床が、解剖学的平均値になっていることが重要です。

あらかじめ模型計測法をつかって平均値に修正しておきましょう。

では、チェアタイムに入ります。

さっそく、下顎安静位を鼻下点-オトガイ下点で測定します。

ここで重要なのは、術者がまずリラックスすることです。

下顎安静位そのものが非常にアバウトなものですから、リラックスして測定しましょう。

できれば上顎のリップサポートが得られている状態で測定し、患者さんの今現在の筋の緊張度として考えます。

では、上下顎の咬合床を入れてみましょう。

もちろん痛みや違和感、不適合があってはダメです。

咬合床がピッタリしていることを確認してください。

顔貌計測法(Wills法)を使ってみましょう。

なかなかバランスが良い状態になっていますか?

模型計測をしっかり行っていれば、結構調整は少ないはずです。

では、この状態で鼻下点-オトガイ下点を測定しましょう。

そして、ここで先ほどメモした下顎安静位の数値と比較してみましょう。

ここで下顎安静位より小さい値になっていれば安心です。

これを口腔外に取り出してA点-B点間距離を測定し、平均値に近い値になっているかを確認します。

そして再度口腔内に戻し、患者さんに

「高くないですか? 違和感はないですか?(下顎位置感覚の確認)」
「飲み込めますか?(嚥下の確認)」

と確認をして咬合高径は決定です。

ここで臨床的によく起こることは
「顔貌計測の結果、術者の目からは良い状態と見えているのに下顎安静位より高い測定値の際にどうしてよいかわからない」という問題です。

顔貌計測のみに頼る場合、「高すぎる義歯」を製作してしまうことになるおそれがあります。

この場合は、一度深呼吸をしてから、咬合床が挿入されて閉口している患者さんの顔貌を再度よく観察しましょう。

患者さんの口元に緊張はありませんか?

下唇からオトガイにかけての軟組織上に緊張を意味するスジはありませんか?

あれば、咬合高径が高いと思ったほうが良いと思います。

もし緊張が観察できず、A点-B点間距離もだいたい妥当で
「高くないですか、違和感はないですか?」「嚥下はできるか?」
の問いに問題ないと患者さんが答えた場合は、最初の下顎安静位にとらわれず、咬合高径をそのままで決定してしまってよいと思います。

では、測定した下顎安静位よりも設定した咬合高径が高く、口元に緊張が認められる場合は?

どんなに“いい顔”になっていたとしても、その咬合高径は通常適切でないと判断すべきです。

そして、咬合高径を下顎安静位より低く調整し、再度確認し直すようにしましょう。

次に、水平的顎位の設定にいきましょう。

ここで話題となることが多いのは以下の術式ですよね。

・下顎誘導法
・タッピング法
・ゴシックアーチ描記法

では、さっそくその違いを……と言いたいところですが、今回はこの違いや選択については触れません。

今回はそれぞれ術式において「何をゴールとするのか」というところをお話したいと思います。

有歯顎の場合、顎関節、筋肉や歯根膜の感覚入力のなかで、歯根膜の感覚入力が下顎運動に与える影響が大きいことから、
歯牙どうしの接触を避け、できるだけ筋肉をリラックスさせることにより、安定した開閉口路上の点、いわゆる“中心位”を求めます。

では、無歯顎の場合はどうでしょう。

歯牙はありませんので、理論上筋肉および関節に制御されて開閉口しています。

ですので、歯根膜からの入力をカットすることに配慮しないでいいのです。

極端に言えば、筋肉がリラックスできていれば、義歯が入っていない状態で開閉口した運動路上の安定した点が“中心位”ということになります。

ですから、義歯が入っていない状態で患者さんに開閉口をさせてみてください。

高確率で再現性のある顎運動が確認できると思います。

私の考える求めるべき水平的顎位は、「義歯が入っていない状態の開閉口路に一致させる」というものです。

なかには、我慢強く質の低い義歯をしっかり使用していたり、何か口腔周囲の筋肉に負荷をかけながら生活していた患者さんもいます。

そのような患者さんは心身ともにリラックスさせることが重要です。

このような場合に旧義歯の改善は有効ですし、さらに治療用義歯を使用してもらうことが大切です。

そこまでできないような状況でも、
咬合採得やろう義歯試適を患者さんにとって快適な環境(あたたかい患者対応や完成義歯に近い質の咬合床やろう義歯を使用)で行うことで、
リラックスした開閉口が可能になることも多いです。

下顎誘導法、タッピング法、そしてゴシックアーチ描記法、いずれの術式も口腔内に咬合床や装置を入れなければなりません。

それらが口腔内で安定していない場合に、いずれの場合ももっとも大きなエラーを生じるということです。

ですから、装置が入っていない状況を確認し、装置が入ってもリラックスし、装置を入れていないように見えるかの状態で位置を記録する、
これが大切なのではないかと私は考えております。

いかがでしたでしょうか?

総義歯臨床のちょっとしたコツ、初回は「咬合採得」というテーマにチャレンジしてみました。

説明が足りない点もあるかと思いますが、読んでくださった方の新たな気づきになることを願っております。

次回は、「ろう義歯試適」をテーマにお話させていただきます。

北海道札幌市勤務・コンフォートデンタルクリニック
松丸 悠一
⇒ http://www.irebasapporo.com