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教育から響育へ

2011年10月03日

本年6月の第29回顎咬合学会学術大会(東京)で驚くべきセッションが開かれた。なんと長崎県口之津小学校から担任の福田泰三教諭と6年生(※1)児童27名を招き、模擬公開授業が開催されたのである。タイトルは、「未来の“健口”をつくろう」である。子ども達がパネルディスカションを行い、学会員がそれを見学する形式である。会場はもちろん超満員。

(図1)

さてその内容。子ども達はグループで“口腔ケア”“唾液パワー”“鼻呼吸”などについて調べ、まとめたことをパネラーとして発表する。発表後には、フロアーの子ども達からの質問を受け、意見を聞きながら話を深めていく。さらにパネラー役の子ども達が答えられない質問には、フロアーの歯科医師からも意見を求める。このような形で進行した。

小学校での歯の話と言えば、“保健”の時間と思っていたが“国語”や“総合的な学習”の時間で行ってきたのである。そもそも、このような取り組みは、どのようなきっかけで行い始めたのだろうか?

この点について先生に聞いてみた。「これまでの経験から、食べる意欲や偏食が多いクラスほど、子ども同士の関わり方が薄い。それが、さめたクラスや落ち着きのないクラスになることがある。」この話、なんとなく理解できるが、いま一つ部外者にはわかりにくい。続けて、「“嫌いなものは食べない”ということは、“嫌なことはしなくてよい”“嫌いな人とは付き合わなくてよい”ことと、どこかでつながっています。」ナルホド!!教育者はそう考えるのか。

「そこで子ども達に自信をつけさせ、『できる』という気持ちを引き出すことが大切なのです。その手段として未来ある子ども達に、心や体の健康を司る食育を通し、学ぶことの楽しさを実感させ実践へとつなげたいのです。」

今回の授業でも、その一端がうかがえた。先生は、“食卓の向こう側 第13部 命の入り口 心の出口”の本に注目された。(※2)これは西日本新聞社の“噛む”ことにまつわる連載をブックレットにまとめたものである。

まず、国語の単元には“パネルディスカッション”がある。この本を利用し、グループで書かれている内容や意見を読み取り、要旨を押さえまとめさせる。そして発表の練習をする。しかし自分がわかっていても、相手に伝えることは難しい。そこで、原稿に手を加え説明をわかりやすくしたり、図やグラフも工夫する。同時に、これまで新聞のテレビ欄やマンガしか読まなかった子が、記事に興味を持ち始める。そして“咀嚼の大切さ”や“口腔ケア”が病気に繋がることを知り予防法を実践する。それを家族に伝えると「いいこと勉強しよるね」と言われ、喜んでもらえる。これが新たなエネルギーとなり、さらなる学びのため情報を集め探究を続ける。

このような活動の中で、子ども達は自信を持ち自分が“役に立つ・できる”という自尊感情が芽生える。こうして総合的な学習の一環として、口之津小学校で全校児童、保護者、地域の方々を巻き込んだ学習発表会が行われたのである。

その再演の場が、顎咬合学会であった。東京の晴れ舞台に上がり、たくさんの大人の前で発表できる。子ども達の誰もが、目を輝かせ、生きいきしていたことは言うまでもない。咀嚼や口腔ケアの話から、クラス作り・家庭作り、さらには地域作りに繋がるのである。

当日の資料を顎咬合学会のご好意で許可を得た。ダウンロードしてゆっくりご覧いただきたい。
⇒ http://www.dent.okayama-u.ac.jp/syouni/OKAZAKI/cgi-bin/fukuda.pdf

最後に福田先生の言葉。「子ども達が学んだ事・知ったことは、自分の大切な人に伝えたいと思った時。教育は大切な人の心に響き合う“響育(きょういく)”へと進化するのです。」

なるほど! いつ聞いても教育者の話はおもしろい。

※1)昨年度の南島原市口之津小学校小学6年生の児童で現在中学1年生である。

※2)「食卓の向こう側 第13集 命の入り口・心の出口」の入手方法
⇒ http://shop.nishinippon.co.jp/asp/ItemFile/10000275.html

※3)このセッションの様子は「食育フォーラム2011年9月号」(健学社)に詳しく紹介されています。以下のアドレスから取り寄せ可能です。
⇒ http://www.shinanobook.com/genre/book/1052

>>岡崎先生のホームペ-ジ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/