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謎解き唾液学 【9】なぜ刺激唾液は緩衝作用が強いのか?

2016年01月18日

唾液には、刺激唾液と安静時唾液がある。

刺激唾液は、食物の味覚や嗅覚、酸などの化学物質による刺激、噛むことにより分泌される。

安静時唾液は、刺激を受けていない時の唾液である。

さて唾液の緩衝作用のほとんどは、血液中の重炭酸塩に由来する。

刺激唾液は、安静時唾液の20~30倍緩衝作用が強い。

でも、どうして刺激唾液は緩衝作用が強いのか?

さて唾液腺は、ちょうどブドウの房の形をしている。

ブドウの実が腺房で、枝の部分が導管にあたる。

(図1)
s_スライド1

腺房で生成された重炭酸塩は、導管を通過するときに再吸収される。

だから安静時唾液は、緩衝作用が弱い。

一方、刺激唾液は分泌量が多く、再吸収される前に導管を通過する。

だから、たくさんの重炭酸塩が含まれるのだ。

よく噛んで刺激唾液を出すことは、う蝕予防につながることがわかる。

(図2)
s_スライド2

さて、ヒトの体は時々不可思議なことを行う。

どうして導管内で重炭酸塩は、再吸収されるのか? 

そう言えば、腎臓も排出された物質を再吸収する。

腎臓を通過する水分や老廃物は、糸球体でいったん濾過される。

しかしその後、その水分の99%が尿細管で再吸収されるという。

糸球体で1%だけを濾過し排出すれば、尿細管は必要ないはずだ。

…であるのに腎臓にはめんどうなシステムが備わっているのか?

(図3)
s_スライド3

そこで進化から腎機能について考えてみる。

さて、淡水魚を海水に入れると、浸透圧により体内の水分が奪われる。

これはナメクジに塩をかけるのと同じだ。

逆に、海水魚を淡水に入れたら、体内に水分が入り膨張する。

ところで魚類は、直接地上に上がり両生類になったのではない。

(図4)
s_スライド4

一度、海水魚が淡水魚となった後に上陸したという。

地殻変動などで海が浅くなり水たまりができる。

そこに雨水がたまり徐々に薄まり、とり残されたのが淡水魚になった。

そこで海水魚は、淡水で生き残る体のシステムを身につけた。

浸透圧のため膨張する体から、水分を除去しなければならない。

そこで糸球体を発達させ、水分を吸収し体外に排泄し出した。

腎臓機能の発達は、過剰な水分を取り除くことからスタートしたのである。

それでは、どうして尿細管で再吸収させるか?

淡水魚は、強い日差しにより水が枯渇することもある。

そこで地上での生活に適応するため、鰓呼吸から肺呼吸に変化した。

両生類への進化は、過酷な環境が作り出したものだったのだ。

また地上では、太陽の光を受け体が乾燥する。

そこで水分を再吸収させるために発達したのが尿細管だ。

腎臓は、このような経過により、一度排泄した水分を再吸収する不可解なメカニズムを持っていたのである。

浸透圧を維持するためには、さまざまな無機塩類の調整が必要だ。

唾液の重炭酸塩生成と再吸収もこの一つと言える。

進化からヒトの体を捉えなおすと、さまざまな発見がある。

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/