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謎解き唾液学 【8】口の中のホメオスタシス

2016年01月05日

今回から、唾液と口腔疾患との関係について述べる。

ステファンカーブは、次の2段階に分けることができる。
 
(図1)
s_スライド1

第1段階は、ブドウ糖液の洗口直後に急激に歯垢pHが低下し、臨界脱灰pH以下になると歯が脱灰され始める。

第2段階では、低下したpHは徐々に元の状態に戻る。

第1段階のpHを低下させるのは、う蝕原性菌数・酸産生能等の歯に対する攻撃因子。

そして第2段階のpHを元に戻すのは、唾液緩衝能・唾液流出量などの唾液の防御因子である。

従ってう蝕は、この両者のバランスにより、その発生や進行が規定される。

さてステファンカーブのX軸を中心として回転させると、体の中の状況を示す“ある曲線”になる。

そう!食後の血糖値の曲線だ。

(図2)
s_スライド2

血糖値は、食前で80-100mg/dlであるが食後に上昇する。

そして速やかに膵臓からインスリンが分泌され、血糖値は低下する。

これは、食事により血管内のホメオスタシスが崩れるためである。

口腔内では唾液分泌が減るとう蝕が発生し、血管の中ではインスリンが減ると過血糖状態が持続しさまざまな障害を引き起こす。

口腔内では唾液が、血管の中ではインスリンがホメオスタシスを司っていることがわかる。

さて体内では、血液のpHも緩衝作用により調節されている。

例えば、pHの低い清涼飲料水を飲んでも、体液は一定に保たれる。

ホメオスタシスを保つためヒトの体は、酸やアルカリが加えられたときに、体液のpHを正常域に保とうとする。

さて、ヒトの体内においては多くの酵素が働いている。

酵素が効果的に働くためには、血液のpHが7.4±0.5(正常動脈血)に保たれることが必要である。

もしpHが6.8以下、7.8以上になれば、もはや生命の保持は不可能となる。

診療室で経験する手足の痺れや動悸などの過換気症候群は、
過度の呼吸によりCO2濃度が低下し呼吸性アルカロ-シスに陥るために起こる。

さて血液のpHを調節している主なメカニズムは3つある。

(図3)
s_スライド3

第1は、呼吸により炭酸ガスの放出。

第2は、排尿により酸性物質を体外に出す。

第3は、重炭酸塩などの物質で血液中の酸を中和する。

このうち、最も重要なのが重炭酸塩系である。

唾液の緩衝作用も、血液中の重炭酸塩が大きく関与している。

ここで注意しなければならないことがある。

それはステファンカ-ブのpHは、唾液そのもののpHではなくプラーク中のpHである。

プラークのpHになるのは、重炭酸塩がプラーク中に拡散し酸を中和するためである。

唾液のpHが、直接にプラ-ク中の酸を直接中和しているのではない。

続く

参考:重炭酸塩は、細胞から放出された二酸化炭素は炭酸脱水素酵素によって
CO2+H2O→H+ + HCO3-の形で血液中に存在する。

ちなみに、肺ではH+ + HCO3- →CO2+H2O となり
二酸化炭素が排出される。

すなわち重炭酸塩による緩衝作用は、
細胞の呼吸により発揮されるものである。
(注HCO3-=重炭酸塩)

(図4)
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前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/