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医院に活気を生むスタッフとの上手なコミュニケーション【1】コミュニケーション能力こそ歯科医院経営者に求められる資質

2015年10月05日

(1)歯科医院は「ヒト」が利益を生むビジネスモデル

どんな業界、どんな組織でも、経営の悩みは究極的には「ヒト」になります。

組織とはすなわちヒトの集合体であり、それを構成するヒトを育てれば組織が育ち、パフォーマンスが上がるのですから当然のことです。

とくに、歯科医院はヒトが直接的に収益を生み出すビジネスモデルなので、
その重要度は、他の業界よりも高いといっていいでしょう。

ですから、歯科医院経営者は、ヒトといかに付き合い、どのように育てるべきなのかを、最優先の経営課題として取り組むべきなのです。

このような話をすると、ほとんどの歯科医院経営者は、
「そのとおりだ」と答えるのではないでしょうか。

そして「うちではヒトを育てる努力をしている」と。

確かに、院内での症例研究会、外部研修に参加するときのコストの負担、
外部講師を呼んでの研修、それから、定期的な食事会などの取り組みをする医院は増えています。

しかし、少し待ってください。

そういった取り組みのほとんどは、
歯科衛生士として、もしくは歯科助手や受付として、業務を行っていくスキルアップをするためのものです。

そういった取り組みが無意味だとはいいません。

それは、プロとしての能力が高まることで、仕事に対する意識や責任感は高まり、強い組織をつくる手助けにはなるからです。

でも、それで活気があり、チーム力が高く、患者さんにも魅力を感じていただけるような明るく楽しい雰囲気の強い組織がつくれるのかというと、
そうではありません。

これは少し考えればわかることですが、プロとしての能力が高まることと、
強い組織ができるのは、基本的には性質が異なるものだからです。

たとえば、プロ野球のジャイアンツは、優れた選手を集めることに躍起になっていた時期があります。

でも、勝てませんでした。

一流選手が集まっているのに、長く優勝できなかったのです。

このように、1人ひとりがプロとして高い能力を持っているのと、
チームとして高いパフォーマンスを示すことができるのは、別の問題なのです。

(2)活気があり、チーム力の高い組織の源はロイヤリティ

では、活気があり、チーム力の高い組織をつくるには、どうすればいいのでしょう。

そこで多くの人が思いつくのが、
給料を上げる、福利厚生を充実させる、労働時間を短くする、休日や雇用形態を自分で選べるなど、
労働条件や働きやすい環境を整えることではないでしょうか。

これらも大切なことではあるのですが、しかし、残念ながら、労働条件や労働環境を整えたからといって、強い組織ができるとは限りません。

実際、少し周りを見渡せばわかるように、労働条件が恵まれているのに、スタッフの不満が多い医院もあれば、
逆に、夜遅くまで働くなど、けっして恵まれた労働環境とはいえないのにチーム力の高い医院もたくさんあるのです。

このように、
「スキルアップのサポート」や「労働条件や働く環境の整備」
などは、確かに大切なことではあるものの、それだけでは強い組織をつくるのは難しいのです。

ほとんどの医院で、良い人材を育て、強い組織をつくるためにやっていることといえば、
おそらくこの2つでしょうから、多くの歯科医院経営者がスタッフに関する悩みを持っているのは、当然といえば当然のことなのです。

ではいったい、私たちは、より良い組織、より強い組織を手に入れるために、
経営者として、何に取り組むべきなのでしょう。

そのカギとなるのがロイヤリティ、
つまり、「忠誠心」だと考えています。

医院や経営者、それに仕事に対する忠誠心が高ければ、
スタッフは積極的にスキルアップに取り組むようになりますし、
多少労働環境が悪くても一生懸命働くようになります。

それに、同じゴールを目指して力を合わせるので、チーム力が高くなり、組織としてのパフォーマンスも高まります。

ところが、このロイヤリティを高める取り組みをしている歯科医院は、ほとんどありません。

そして、自分はスキルアップをする環境や労働環境を整えるなど、
経営者としてできる限りのことはやっているのに、
うちのスタッフは
「仕事に対するモチベーションが低い」
「全体のことを考えない」
「スキルアップをすることに恬淡だ」
と嘆いているのです。

これでは、いつまでたっても出口に到達することはできませんね。

忠誠心を高めるには、まず
「仕事なんだから、一生懸命働いて当たり前」
「プロなんだから、積極的に勉強をして当然」
「給料を支払っているのだから、上司のいうことを聞くものだ」
といった感覚を捨てることです。

確かにそれらは、正論かもしれませんが、正論が常に相手に受け入れられるとは限らないからです。

なぜなら、人間であれば、誰しも感情を持っているからです。

正論かもしれないけど自分の価値観を押しつけてくる人、
お金を支払っているのだから自分のほうが偉いんだという人、
そういった人間のいうことを受け入れようとは思わないものなのです。

(3)スタッフを協力者・サポーターにするのはコミュニケーション

スタッフは、経営者の協力者であり、サポーター。

忠誠心を育てるには、まずは、そういう感覚を持つことです。

その上で、「忠誠心を高める」、
いや、「忠誠心が高まる」コミュニケーションをとることなのです。

近年の若い世代は、メールやSNSでのコミュニケーションが日常となっています。

メールやSNSでのやり取りでは、短い言葉が使われることが多く、
受け手は言葉が足りない隙間を、自分のイメージや考えで埋めていくことになります。

これは、良くいえば、相手の考えを推し量ったコミュニケーションがとれるようになるということですが、
ほとんどの人は、そこまで考えずに勝手な思い込みで隙間を埋めてしまっています。

その結果、リアルのコミュニケーションでも、
発信する場合は、言葉が足りなくなりがちで、
受け手になったときは、相手の言葉を表面的に受け止め、
隙間を自分の憶測で埋めていくといった傾向が強くなっています。

たとえば、先生の医院にも、
発信者になったときは、主語や要点が抜けたまま話を続けたり、
受け手になったときは、「こういわれたので、こういう考えがあると思ったんです」
といった憶測を含んだとらえ方をするスタッフがいるのではないでしょうか。

メールやSNSが生活の一部となり、多くの人が手軽にやり取りできるようになりましたが、
その結果、コミュニケーションスキルが、低い人が増えているのです。

私は、自院のスタッフ以外にも、歯科衛生士の前でセミナーをすることがあるので、一般の歯科医院経営者よりも多くのスタッフと触れ合っています。

そういった現場で感じるのは、コミュニケーションスキルの低い人が増えていることです。

それだけに、人材を育て、活気がある組織づくりを成功させるには、
歯科医院経営者は、その資質として、まずは自分のコミュニケーションスキルを向上させるべきです。

医療法人社団いのうえ歯科医院 理事長
歯学博士・経営学博士
井上 裕之
⇒ http://www.inoue-dental.jp/