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捕食と咀嚼 その【2】

2014年07月31日

今回の話をする前に、もう一度顎咬合学会の公開動画を見ていただきたい。

「噛むことと生きること(小児編)」。
図1 (以下の画像をクリックすると動画再生ページへリンクします)
okazaki_20140718_01

健常な子どもなのに、どうして口唇で捕食できないのだろう?

まず、その理由を考えることが大切だ。

それがわかれば、解決への道が開かれる。

さてその理由。

これは離乳食の与え方の問題だと思う。

きっと飲み込みやすいように、スプーンで離乳食を口の中に入れてあげていたのだろう。

口に入れられたら、後は嚥下するだけだ。

上口唇を長く伸ばす必要がない。

だから動画の子どもは捕食ができないのだ。

子どもの発達にとっては、“小さな親切大きなお節介”なのである。

咀嚼の前に捕食がある。

まず口をすぼめる。

そのためには、口輪筋を中心とした顔面表情筋の働きが必要だ。

しかし口に入れられたら、これら筋肉を使う必要がない。

離乳は、食形態や栄養面のみならず、捕食機能の面からも考える必要がある。

次に、この状態が続けばどのような問題が起こるのだろうか?

少し考えていただきたい。

まず、口唇を使わないから口輪筋は弱いままだ。

そのため上口唇は山型で、口唇は全体に厚くなる。

乳歯列期では乳前歯の歯冠が短く、口唇をわずかに伸ばせば口唇閉鎖は容易だ。

しかし上顎永久前歯が萌出すればどうだろう。

永久前歯の歯冠は長い。

そこで口唇閉鎖のためには、上口唇をより長く伸ばさなければならぬ。

しかし廃用萎縮で伸びないだろう。

それに上口唇からの力がないと、上顎前歯は唇側傾斜を起こす。

そこで下口唇を巻き込む癖がつく。

かくて上顎前歯の唇側傾斜はさらにひどくなる。

同時に外気が歯肉に当たる。

そこで歯肉が乾燥・増殖し炎症をきたす。
(図2)
捕食と咀嚼2

もちろん口呼吸の誘因にもなるだろう。

ザーッと考えただけでも、これだけの問題が浮かんでくる。

小児期の小さなひずみは、次々と大きなひずみを作り出すことがわかる。

続く

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/