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草食動物の消化システムと歯

2011年08月17日

某動物園の園長から草食動物の糞の標本をいただいた。ゾウ・キリン・シマウマの糞を十分乾燥させ、表面をクリアラッカーでコーティングさせたもので汚くはない。

そこで、これを利用し小学校で歯の授業を計画した。
まず、肉食動物がいないのでトラを加え、それぞれの動物と糞の写真を集めクイズにした。

(図1)

さて読者の方、動物と糞に線を引いていただきたい。
まずBの糞には、草が含まれていないのでトラだとわかる。(3―B)
ゾウは、1日200キロもの植物を食べるという。
だから糞が大きいのですぐ分かる。
ずいぶん未消化物も多いようだ。(2―A)

さて、ここからが難しい。
シマウマとキリンの糞の差である。
よくわかるように両者の乾燥標本の糞を眺めてみよう。
(図2)

アの糞は、小さく未消化物は少ない。
一方、イの糞には未消化物が多いこと。
未消化物の少ない消化システムが、種にとって有利なことは言うまでもない。
どのような差が、未消化物の量に影響するのだろうか?

さてシマウマは、ウマや・ロバなどの仲間で、足の蹄(ひずめ)が奇数であることから奇蹄(きてい)類に分類される。
一方、キリンはウシや羊などの仲間の偶蹄(ぐうてい)類である。
これらは有蹄類と呼ばれ、蹄を持つ草食動物である。
かつてこれらの動物は、5本の指を持ち、森林に住んで軟らかい葉を食べていた。

しかし地球の乾燥化により草原が広がり、そこでの生活を余儀なくされた。
さて草原での生活には、2つの問題がある。
1つは肉食動物に襲われること。
もう1つは、硬く消化し難い草を栄養としなければならない。

第1の問題に対しては、早く走って逃げることが求められる。
そこで無駄な力を分散させるため指の数を減らし、同時に爪を硬くし蹄を作り出した。

第2の問題に対しては、特殊な消化システムを作り上げた。
草食動物は、硬いセルロースを分解することができない。
そこで腸内細菌の持つ酵素、セルラーゼを利用し草を分解しようとした。
そのため奇蹄類は、巨大な盲腸を作り出し腸内細菌を発酵させる道を歩んだ。

しかし盲腸には、落とし穴があった。
栄養分のほとんどは小腸で吸収する。
しかし盲腸は、小腸の後にある。
このシステムは、栄養源の吸収効率が悪かったのだ。

一方、偶蹄類は、胃を発達させ多くの胃(複胃)を作り出した。
そのため、キリンも4つの胃を持つ。
胃で発酵させたものを、また口に戻して噛み続ける。
すなわち反芻(はんすう)による消化である。

この方法により、栄養を効率よく分解し吸収するシステムを作り上げた。
これでシマウマとキリンの糞の違いが解けただろう。
未消化物が多いのがシマウマ、少ないのがキリンである。(図2)

さて現在、奇蹄類の種や数は減り続けている。
一方、偶蹄類は、数が増え繁栄している。
この差は、反芻が作り出した消化システムの差と言える。

しかし、セルロースを効率よく分解するシステムは、よく噛むことが必要なのだ。
偶蹄類の繁栄は、歯が作り出したものと言える。

参考:キリンの反芻(40秒のところで、一瞬首の前が膨らみ胃から口へ戻ります。注意してご覧ください。)
⇒ http://www.dent.okayama-u.ac.jp/syouni/OKAZAKI/kirinnhannsuu.wmv

>>岡崎先生のホームペ-ジ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/